第56話 図書委員長になったおもちちゃん
翌日。
教室で仲良さそうに話す大翔とおもちを見た御萩は、昨日の涼真との会話を思い出していた。
―――「僕でよければ相談に乗るけど……どう?」
優しそうな表情で見つめてくる涼真に対して、御萩は疑念の表情を浮かべていた。
「……別に。あなたに関係のないことよ」
「関係ないからこそ。話すこともできるんじゃないかな?」
「ほっといて」
無視して、駅に向かおうとすると、涼真が再び口を開く。
「篠塚さんってさ……善哉さんのこと好きでしょ。恋愛的な意味で」
「……!」
ピタッと足を止める。
「止まったってことは図星……かな?」
「……何を言ってるの」
「大翔君のこと……目の敵にしてるでしょ。善哉さんと仲が良いことに嫉妬している」
「……そうよ。仲が良いことに嫉妬してただけ……」
「善哉さんってさ。河野さんとも仲が良いんだよ?二人は親友らしいし。でも河野さんに嫉妬している様子はなかった。ずーっと大翔君を敵視していた」
「それは……」
涼真が一歩ずつ近づいてくる。
「来ないで」
「僕もさ。大翔君と善哉さんが付き合っていることに苛立っているんだ。だから手を組まない?」
「……は?」
驚きのあまり、再び涼真の方を見る。
「僕たちで二人を別れさせて、篠塚さんが善哉さんと付き合う……いい考えだと思うんだけど」
「……」
「まぁ今すぐ答えは出さなくてもいいよ。篠塚さんの善哉さんに対しての感情はあくまで推測だし。もし自分が善哉さんのことを恋愛的な意味で好きなら……
また声をかけて。協力するから」
じゃあねと言い残し、駅へと消えていった。
―――(私が……おもちちゃんのことが好き……)
分からない。本当にそうなのだろうか。
もしそうなら……謝ったあの日から、不思議に感じていたことにも説明がつく。
謝ってから、おもちを見る度に許せない自分を思い出すこと。
彼氏に対しての好意が無くなったこと。大翔への敵視が強いこと。
(でも……そんなことあるはずないわ。あの男の言葉は無視しよ)
二人を見るのをやめた御萩を、涼真は後ろからじっと見つめていた。
昼休み。図書委員は図書室に集合するようにと、放送がかかった。
図書委員になった稲見とおもちは、教室を出て図書室へと向かう。
「それにしても委員会が決まって翌日に召集って早すぎじゃない?」
「うん……私が去年、図書委員になったときは二週間ぐらい後に召集だったから」
「何するんだろう?」
「多分……委員長と副委員長。そして書記を決めるんだと思う」
「それなら急いで決める必要ないと思うけどな~」
「何か事情でもあるんじゃない?」
図書室に全員集まると、担当の先生が前に立つ。
「えぇ~諸事情により、図書委員会が早まることになり、急遽召集させていただきました。よろしくお願いします」
諸事情……一体何だろうか。集まった図書委員たちが顔を見合わせる。
「では早速、委員長、副委員長、書記を決めたいと思います。じゃあ……最初に委員長から決めましょうか。委員長になりたい人、挙手してください」
誰も手を挙げない。
「う~ん……やっぱり誰も挙げないよな~じゃあ副委員長」
誰も手を挙げない。
「……じゃあ書記」
誰も手を挙げない。
「いや……あの……そんなにめんどくさくないよ?複雑な作業とかないし。ちょっと休み時間とか放課後に時間をもらうかもしれないだけで……」
それが嫌だという空気が無意識に流れる。
「どうしようかな~こうなったらくじ引き……」
先生がある生徒を見て、目線を止める。視線の先には、おもちがいた。
「君は確か……善哉さんだっけ?去年の『読書推進週間』でおすすめした本の貸出数上位をたたき出した……」
「えっと……はい……」
「よかったら委員長やってみない?」
「私が……ですか?」
「うん。去年も図書委員だし、経験あるでしょ?それに『読書推進週間』でのおもちちゃんの評価も、教職員の間で高かったからさ。どうかな?」
「でも私に委員長なんか……」
「やってみなよ!」
稲見がおもちを鼓舞する。
「おもちちゃんなら大丈夫だよ!」
「でも……」
「先生!私が副委員長になります!いいですか?」
「もちろんだよ!」
稲見がウインクする。
「私もサポートするからさ。いつでも頼ってよ。これならどう?」
「……!うん。ありがとう……やってみる」
「残りは書記だな。誰かやりたい人は……」
「あの……」
眼鏡をかけた、ボブヘアの男子生徒が手を挙げた。
「書記……やりたいです……」
「本当か⁉ありがとう!じゃあ三人の名前を教えてくれ」
「善哉おもちです」
「河野稲見です!」
「竹村しめじです」
「では!三人に拍手を!」
パチパチと拍手が室内に響き、図書委員会が終了した。
図書委員会が終わった後、おもち、稲見、しめじは先生に声をかけられた。
「三人には諸事情を話しておきたいと思ってな。実は早まった理由は『図書室だより』を図書委員に書いてもらおうと思ってな」
「図書室だよりを?」
「いつもは週一で来てくれる図書館司書の人がいたんだけど、退職することになってな……代わりの図書館司書もまだ見つかっていない状態で……
おそらく一学期の間だけだと思うけど、それまでは委員長と副委員長に書いてもらいたいんだがどうかな?」
おもちと稲見が顔を見合わせる。
「私は構いませんけど……稲見ちゃんは?」
「私も大丈夫!面白そうだし!」
「よかった。そして竹村君には代理の間、図書室だよりについて書記ノートにまとめてほしい。
好評なら来年から生徒に書いてもらうことを検討してもいいと思っているから」
「……わかりました」
「よし。話は以上だ。君たちだけ昼休みを削ってしまって申し訳ない」
「大丈夫ですよ」
「何かあったら質問してくれ。お疲れ様」
「「お疲れ様です」」
三人が図書室を出ると、図書室だよりについて話し始める。
「図書室だより……何書けばいいのかな~」
「また話し合って決めようよ。竹村君……だっけ?よろしくね」
「よろしく……お願い……します」
しめじの顔が赤いことに、稲見はすぐ気づいた。
「大丈夫?顔赤いよ?」
「えっ⁉あっ……別に何でも……僕はこっちなんでまた……」
しめじは恥ずかしそうに、自分の教室へと向かって行った。
「どうしたんだろう?体調でも悪いのかな……」
「緊張してるんでしょ。一年生だし」
廊下から見えた、校舎にある時計台を見ると、慌てておもちの手を引っ張る。
「ヤバい!もうこんな時間!急がなきゃ!」
「えっ……でもまだご飯食べる時間は……」
「次、体育だよ!着替えもあるでしょ!」
「……!そうだ忘れてた!」
二人は慌てて階段をダッシュした。




