第52話 おもちちゃんと回転寿司
「善哉さん。大翔君と別れてよ。君は大翔君の彼女にふさわしくない」
その言葉の後、涼真以外の全員に時間が止まったかのような感覚が訪れる。
「えっ……なんで……」
「それぐらい自分の頭で考えることができないのかな?君は……」
すると、誰かに肩を掴まれた。振り返ると怒りの表情で立っている大翔がいた。
「お前……いい加減にしろよ」
「いい加減にするのは君だよ大翔君。君は騙されてる。恋は盲目とは今の大翔君みたいなことを言うんだよ?」
「おもちちゃんの印象を勝手に決めつけるな。それにそんなことをしない。それだけははっきり言える」
「……あっそ」
おもちから離れると、スクールバッグを持って教室を出ようとする。
「なら勝手にすれば?僕は忠告したからね?」
顔を見ずに手を振ると、教室を去った。
「おもちちゃん大丈夫?」
「う、うん……大丈夫……」
口ではそう言うが、ショックを受けていることが見て分かる。
「何あいつ!感じ悪い!」
稲見が怒りの表情で、涼真が去った場所を見つめる。
「あんな奴とこれから二年間過ごすことになるなんて……私たちでおもちちゃんを守らなきゃ!」
「い、いいよ別に……大翔君を裏切るなんてそんなことはしないけど……それ以外はそう思われても仕方ないかな……」
落ち込んだおもちの顔を見て、大翔はある提案をする。
「よし。出かけるか」
「どこに?」
「回転寿司」
大翔の提案に、おもちと稲見は顔を見合わせた。
大翔に連れられて、回転寿司にやってきた三人は席に着く。
「俺の奢りだから好きなだけ食べてくれ」
「本当⁉大トロとかうにとか鯛とかを頼みまくっていいの⁉」
「なんで高いネタばかりなんだよ……いいけど」
おもちはメニュー表をじっと見つめる。
「凄い……たくさんある……本当にいいの?」
「いいよ。いっぱい食べてあいつのことは忘れよう」
「じゃあ……」
おもちはタブレット端末を取り、ポチポチと何かを注文する。
稲見は回って来た寿司を次から次に取っていき、パクパク食べる。
大翔も回ってきた寿司を取って食べる。
「回転寿司久しぶり~!やっぱりいつ来ても美味しい~!」
「私も……なかなか行けないから……」
話していると、店員がやって来る。
「お待たせしました~きつねうどんと茶碗蒸しとフライドポテトとちくわの天ぷらで~す。ごゆっくりどうぞ~」
一斉にサイドメニューが置かれて、大翔と稲見が固まる。
「うわ~!美味しそう~!」
おもちは嬉しそうに、きつねうどんを食べ始める。
「回転寿司ってお寿司も美味しいけどサイドメニューも美味しそうだからいっぱい頼んじゃった」
「そ、そうだねぇ……美味しいよねぇ……でもそれだけ頼んだらお腹膨れるんじゃない?」
「大丈夫!これぐらい序の口だから!」
それを聞いて稲見がまた固まる。
「大翔君……おもちちゃんって凄いんだね……」
「さすがにこれは予想してなかった……」
おもちは隠れ大食いで、いっぱい食べるとは思っていたが……
まさかサイドメニューを大量に注文するとは……
「あっ……フライドポテトと天ぷらは皆で食べよう?いっぱいあるから」
「う、うん。ありがとう」
回転寿司を食べ終わり、おもちは満足そうな表情だった。
「はぁ~美味しかった~大翔君ごちそうさま」
「また奢ってよ!」
「河野はこれで最後じゃないか?」
「なんでよ!いいじゃん!」
三人で帰宅途中、稲見は別方向に向かう。
「じゃあ私こっちだから!またね!」
「うん。またね」
稲見と別れて、二人きりになる。
「あの……大翔君……」
さっきの楽しかった空気が終わり、不安そうに口を開く。
「私……大翔君の彼女のふさわしくないのかな?」
「……えっ?」
それを聞いて、大翔の足が止まる。
「涼真君が言ってたこと……間違ってはないと思うんだ。私は何かを成し遂げた人じゃないし……家も皆よりは贅沢できないし……こんな体型だし……」
チラッと大翔の顔を見る。
「そのせいで……大翔君が悪く言われるのは嫌だし……だから……」
言葉の続きは大翔がおもちを抱き寄せたことで遮断された。
「……!」
「別にいいんだよ。僕が何を言われたって。でもおもちちゃんが悪く言われるのだけは嫌だ。おもちちゃんは凄く優しくていい人だから……」
大翔の顔を見ると、悲しそうな表情をしていた。
「だから……そんなこと言わないでほしい。僕が守るから」
「……うん」
おもちも大翔を抱きしめ返す、だが心に不安は残ったままだった。
同時刻。とある豪邸に涼真が足を踏み入れる。
「ただいま」
中に入ると、タキシード姿でダンディな老人が立っていた。
「おかえりなさいませ。お坊ちゃま」
「荷物」
「はっ」
涼真はスクールバッグを執事に渡し、足を進める。
「お坊ちゃま。夕食はすでにできあがって……」
「いらない」
吐き捨てるように言うと、そのまま去っていく。
「はぁ~今日はどうされたのでしょうか……」
不機嫌な涼真を見て、額に手を当てた。
部屋にこもった涼真は、ベッドにダイブすると大翔の言葉を思い出す。
―――「おもちちゃんの印象を勝手に決めつけるな。それにそんなことをしない。それだけははっきり言える」
涼真は起き上がり、下を向く。
「……わかってないんだよ大翔君は。信じたらダメだ。……特に貧乏な家に生まれた奴は」




