第45話 彼氏と勉強するおもちちゃん
三学期が始まって二か月が経とうとしている二月末。学年末試験の日が迫っていた。
「大翔君~!」
稲見が助けを求めるように、大翔の席へやって来る。
「なんだよ」
「もうすぐ学年末試験でしょ?どうしよう~!」
「簡単だ。勉強すればいい」
「そうじゃない!」
稲見が頬を膨らませる。
「数学!私、数学が苦手なの知ってるでしょ?教えてよ!」
「今回範囲少ないから自分で勉強しろよ」
「無理!数学記号を見るだけで頭がパニックになる!」
授業中に何度苦しんだことか……
「お願い!今回も教えて!」
「はぁ……分かった。じゃあ放課後図書室な」
「やった!それっておもちちゃんがいるから?」
今日はおもちが図書室にいる日だった。
「……たまたまだよ」
「えぇ?本当かな?」
ニヤニヤしながら大翔の顔を覗き込む。
「……それ以上言ったら教えないぞ」
「ごめんなさい!もう言わないから教えて!」
放課後。おもちがカウンターで本を読んでいると、大翔がやって来た。
「あっ……大翔君……」
「今日ここで勉強していいかな?」
「うん」
スクールバッグを机の上に置き、席に座る。
「テスト期間って図書室来る人いる?」
「あんまり来ない。学校に自習室あるから、皆そっちに行ってるし」
「じゃあ……今日は二人きり……だね」
「……!」
おもちの頬が赤くなる。
「えっと……稲見ちゃんは?」
「河野は……」
―――SHRが終わり、大翔と稲見が教室を出ると、正樹が立っていた。
「やっほー稲見」
「げっ……」
「なんでそんな嫌そうな顔するのかな?仲直りしたじゃん」
「そうだけど……で?何の用?」
「僕の家で一緒に勉強しない?」
「無理。大翔君に数学教えてもらうから」
「そうなの?……って君は確かおもちちゃんの……あれから恋人にはなれた?」
「ご心配なく。もうなってますよ」
「そうか。それならよかった。いつまで経っても告白しないなら僕が狙おうかと……」
稲見が正樹の耳を引っ張る。
「痛たたたたた!」
「本当に正樹ったら……なんで余計なこと言うの!」
「えぇ?また僕失敗しちゃった?」
「ごめん大翔君。また今度教えて」
稲見は正樹の腕を引っ張って、去って行った。
「あの二人……仲いいのか悪いのか分からないな」
―――「……ってことがあって」
「そうなんだ。でもまた二人で話せるようになってよかった」
読んでいた本を閉じて、大翔の隣の席に座る。
「一緒に勉強する?」
「……うん」
二人は勉強道具を広げ始めた。
しばらく二人で勉強していると、大翔の体が震えていた。
「なんか寒くない?」
「暖房が壊れてるんだって。朝のSHRで言ってた」
「なんか図書室がどうのこうの言ってたな……それは誰も来ないな」
大翔が寒そうに震えているのを、おもちがじっと見つめる。
「……ちょっと休憩する?」
「そうだね。結構時間経ったか」
シャーペンの手を止めて、ふぅと息をつく。
「上着持ってこればよかったな……」
「そんなに寒い?」
「うん。でもここに居たくないほどじゃないから」
「……」
おもちは席を後ろに下げて、背中を大翔の方に向ける。
「……ぎゅーする?」
「……え?」
突然の提案に固まる大翔。
「その……私太ってるから……温かくなるんじゃない?」
「……いいの?」
「うん……」
顔が赤い。恥ずかしいんだろうなってことが見れば分かる。
遠慮すべきか……でも……
「じゃあ……」
両腕でおもちを抱きしめる。
「……!」
大翔君の腕が……自分を包んでる……
「温かい……」
「……よかった」
無言の時間が続く。恥ずかしいのか……愛おしいのか……あるいはその両方か。
「それに……柔らかいね」
「……!」
「なんか……湯たんぽ入れたクッションみたい」
「……その表現恥ずかしいよぉ」
おもちの顔が赤面してる。
「これさ……誰か来たらどうする?」
「知らない……」
「じゃあ……このままで」
「えぇ……」
その反応は嫌そうな声ではなく、戸惑いに近い。この時間がまだ続くの?
「……いいよ。温まってね」
大翔が温かくなるまで、図書室は静かになった。
最終下校のメロディーが流れると、二人は手を止めた。
「もうこんな時間か。一緒に帰ろう?」
「うん」
二人が図書室を出ると、おもちは職員室に向かい、鍵を返却する。
大翔はそれを廊下で待っていた。
「お待たせ」
「じゃあ行こうか」
学校を出ると、二人は手を繋ぐ。お互い手袋をつけている。
「ねぇ……さすがにハグの時間長すぎじゃない?」
「だって寒かったんだからしょうがなくない?それに提案したのはおもちちゃんだよ?」
「そうだけど……」
ぐうの音も出ない。
「次は……本当に誰も来ないような場所じゃないと……ダメ……」
「……次あるんだ」
「さ、寒い時で大翔君が上着を忘れた時だけね!」
「じゃあ明日上着を忘れて……」
「持ってきてよ!」
恥ずかしそうに訴えるおもちを見て、大翔は自然と笑顔になる。
(春休みが待ち遠しいけど……もう少し冬も続いてほしいな……)




