第41話 御曹司の家でクリスマスパーティー
朝。大翔が登校していると、白い粒子が段々落ちていくのが見えた。
(雪……)
もうそんな時期か……おもちちゃんと出会った頃がついこないだのように感じる。
(一年がもう終わろうとしているのか……)
時の流れを実感しながら、再び足を前に進めた。
学校に着いて、教室に入ると稲見が元気よく話しかけてきた。
「大翔君おはよう!」
「おはよう」
「ねぇ。いつも思うんだけど……私が挨拶する時とおもちちゃんが挨拶する時で態度違くない?」
「それはそうだろ」
「友達なんだからさ、もうちょっといい反応してよ」
不満そうに頬を膨らませる。
「……善処する」
「そういえばもうすぐクリスマスだよね。おもちちゃんと何かしたりする?」
「今のところ考えてないな」
「じゃあ皆でクリスマスパーティーしない?大翔君の家で!」
「なんでだよ」
「だって大翔君の家、豪邸だからパーティー!って感じがして盛り上がるじゃん!」
「断る。なんで俺が……」
「おもちちゃんと一緒に過ごしたくないの?」
ピクッと反応したのを稲見は見逃さない。
「思ってるんだ」
「……仮に思ったとしても誘うのはおもちちゃんだけだよ」
「えぇ~いいじゃん!そういえば大翔君って妹いるんでしょ?紹介してよ!」
「だからなんで……」
「もういい!私がおもちちゃんを誘って遊びに行く」
「待て待て。なんでそうなるんだよ」
「選んで。クリパをするか……私におもちちゃんを取られるか……」
「……脅迫じゃねぇか」
「もちろんクリパするなら、二人きりの時間もあげる。どう?」
「なんで上から目線なんだよ」
はぁ~とため息を吐きながら、仕方ないという表情で答える。
「わかったよ。執事に頼んでおく」
「やった~!楽しみ~!」
稲見が喜ぶのとは真逆で、机に体を倒す大翔。
(なんでこうなるんだよ……)
でもおもちちゃんがいるなら悪くないと思う自分もいた。
クリスマス・イブ当日。
インターホンが鳴り、大翔が玄関のドアを開くと稲見とおもちが立っていた。
「やっほ~大翔君!メリークリスマス!」
「メリクリ」
「略さないでよ!おもちちゃんもなんか言って!」
「えっ⁉えっと……」
突然のフリに戸惑ったおもちが、大翔の顔を見る。
「メ、メリークリスマス……」
「……メリークリスマス」
頬が赤くなる二人を見て、稲見は不満そうに頬を膨らませる。
「もう!バカップル!早く入れて!」
家に入り、食事部屋に向かうと、豪華な料理が並べられていた。
「凄~い!」
「美味しそう……」
「お願いしたら、張り切って作ってくれたよ」
料理を眺める三人の後ろから博俊がやって来た。
「ようこそお越しくださいました。おもち様。稲見様」
「執事さんこんばんは!」
「こんばんは……」
「今日は腕によりをかけて作らせていただきました。皆さん成長期ですからたくさん食べてくださいね」
「ありがとうございます!いっぱい食べます!」
続いて杏もやって来た。
「何の話してるの……って何これ⁉美味しそう!」
「今日はお坊ちゃまがご友人たちでクリスマスパーティーをやるそうで」
「そうなの?私も参加した……」
三人を見て、杏が固まる。
目の前にいるのは大翔、おもち、稲見の三人。大翔以外全員女子……
「……お兄ちゃん。ハーレムパーティー?」
「違ぇよ」
「あなたが杏ちゃん?可愛い~!」
「えっと……こんばんは。妹の杏と言います」
「私は河野稲見。よろしくね!」
「じゃあ全員揃ったし……食べるか」
「うん!」
「お腹空いた~!」
全員が席につこうとすると、ぐ~っとお腹が鳴る声が聞こえた。
全員が音のした方を見ると、おもちが立っている。
「……ごめんなさい」
「アハハ!おもちちゃんもお腹空いたよね!」
「おかわりたくさんありますから。いっぱい召し上がってくださいね」
「はい……」
恥ずかしそうに席へと移動した。
四人は食卓に並べられた豪華な料理を次々取っていく。
ローストチキン、サラダ、ビーフシチュー……
他にもたくさんある。
「美味しい!」
「フライドチキン最高!」
料理を食べて満足そうな稲見と杏。大翔もおもちの方を見て声をかける。
「たくさん食べてね」
「うん……」
自分が取った料理によそい過ぎたと感じる。
(こんなに取って……大翔君に変な目で見られないかな?)
チラッと大翔の方を見ると、大翔も同じくらいの量をよそっている。
「……食べないの?」
「ううん。食べるよ。いただきます」
よそったビーフシチューを口に入れる。
「……美味しい」
「それはよかった」
「大翔君は毎晩こんなに豪華な料理を食べてるの?」
「ううん。皆と同じ家庭的な料理だよ。豪華な料理も頼んだら作ってくれると思うけど、あんまり口に合わないし」
大翔はグラスに入ったオレンジジュースを飲む。
「それに値段が高かったら美味しいとも限らないしね」
「そっか……」
「急にどうしたの?」
「その……作れるのかなって思って……大翔君が美味しいって思える料理」
「……!」
おもちの顔を見ると、少し自信がないような表情だった。
「……作ってくれるの?」
「う、うん。だって……その……結婚したら家庭的な奥さんでいたいし……」
「結婚……」
おもちちゃんと結婚……想像できる。
ウェディングドレスを着た姿も……エプロン着けて料理を作ってくれる姿も……
「したいな……絶対」
「……?何か言った?」
「おもちちゃんが作る料理は絶対美味しいよって言った」
「そ、そうかな?」
「だって弁当の卵焼きあんなに美味しかったじゃん」
「卵焼きなんて皆作れるし……」
すると博俊がフランスパンを持ってやって来た。
「自信をつけたいのでしたら、当家で花嫁修業を行いますよ?」
「……本当ですか?」
「えぇ。料理も洗濯もその他諸々……ご指導いたします」
「じゃあ……今度お願いします」
「かしこまりました」
二人を微笑ましそうに見つめる稲見と杏がジュースを飲みながら会話する。
「いいね」
「尊いです。お兄ちゃんのために頑張ろうとするお姉ちゃんを応援したい……」
「私もあの二人みたいな恋をしたいなぁ~」
「イイ感じの人いないんですか?稲見さん美人なのに」
「気づいた?私、美人なの」
アハハと笑い合う二人を大翔がフフッと笑う。
(仲いいな……二人共)
パーティーでいろんなことを知って、いろんなことが起きている。
おもちちゃんが結婚を意識してくれてるし、杏も稲見と仲を深めている。
(やって正解だったな。来年開くことも検討しようかな?)
食事が終わり、デザートのクリスマスケーキを食べ終わると、稲見は杏の部屋へ。おもちは大翔の部屋に入った。
「美味しかったね」
「うん。ケーキも豪華だった。秋山さんって凄い人だね」
「伝えておくよ」
会話が途切れると、大翔が恥ずかしそうに口を開く。
「あのさ……」
「……?何?」
「その……渡したいものがあって……」
机の引き出しから、綺麗に包装されたものを渡す。
「これ。クリスマスプレゼント」
「……!私の?」
「うん」
おもちが恐る恐る受け取る。
「いいの?」
「もちろん。おもちちゃんへのプレゼントだから」
「開けていい?」
「いいよ」
包装紙を開けて、出てきた箱の蓋を開ける。
箱の中身を見ると、表情が一変し、動きが固まる。
「……おもちちゃん?」
「……」
おもちの顔から一滴の雫が垂れる。
「えっ?」
次々と涙が顔から落ちていく。
「ごめん!嫌だった?」
「ううん……違うの……嬉しくて……」
箱の中身はスノードーム。
中は本棚が置かれており、図書室を再現しているようだった。
「特注で作ってもらったんだ。僕たちが出会った場所は……図書室だったから」
「特注……私のために……」
スノードームを手に取ると、大事そうに両手で包む。
「ありがとう!凄く嬉しい!」
「……!」
自分のプレゼントで泣いてくれる人がいる。
その事実に心にじわっと何かが広がっていった。
「喜んでくれてありがとう」
「でもごめん……私、何も持ってきてなくて……」
「気にしないで。喜んでくれただけで充分嬉しいから」
「それでも……私も何かをあげたい……何が欲しい?」
おもちが涙を拭きながら聞く。
「私があげれるものなら何でも……いいよ?」
「いや……」
大丈夫だよって言おうとするのをやめた。きっとおもちは納得しない。
何かお返ししたいという気持ちがあっての発言なのだろうと悟る。
「じゃあ……」
何を望むだろう。おもちはごくりと唾を飲みこむ。
「しおりが欲しい。おもちちゃん手作りの」
「……しおり?」
「うん。読書とか、勉強とかで使う度におもちちゃんを思い出したいから。どうかな?」
「わかった。今度作ってお返しするね」
おもちがニッコリと微笑んだ。
時間が経ち、おもちと稲見を送るために大翔と杏も玄関を出た。
「杏ちゃんと女子トークできて楽しかった!また話そうね!」
「はい!ありがとうございました!」
「今度、おもちちゃんと三人で女子会しよう!」
「いいですね!お姉ちゃんいい?」
「うん。楽しみにしてる」
四人の前に、リムジンが停まる。
「河野。執事が送ってくれるから乗って」
「いいの?おもちちゃんは?」
「俺が送る」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて」
稲見がリムジンに乗車すると、ドアが閉まり、発車して行った。
「じゃあ送ってくる」
「うん。お姉ちゃんまたね!」
「またね」
二人が夜道を歩いていく。
「ごめんね。送ってもらって」
「いいよ。心配だし」
「スノードーム嬉しかった。大切にするね」
「ありがとう」
おもちが大翔の手を見ると、赤くなっているのがわかる。
「手……冷たそう……」
「手袋忘れちゃってさ。まぁこれぐらい我慢できる」
「……繋ぐ?」
手袋をつけたおもちの右手が伸びる。
「手袋してるから温まるよ?」
「……じゃあ」
手を繋ぐと、手袋の温もりを感じる。
「温まるね」
「この手袋、結構温かいから」
手を繋ぎながら歩くと、おもちが少し恥ずかしそうに呟く。
「春になったら直接手を繋ぎたいね」
「……!うん……」
二人が直接手を繋ぐ日が来るのはそう遠くないはずだ。




