第40話 仲直りさせたいおもちちゃん(後編)
―――七年前。小学校の教室で、正樹はクラスメイトに話しかけた。
「ねぇねぇ!鬼ごっこしよう?」
「いいよ!」
「じゃあ俺が鬼やる!」
正樹たちが教室を飛び出して行くのを稲見たちが見つめる。
「男の子って外で遊ぶの好きだよね」
「稲見ちゃんは好きじゃないの?」
「ここで皆と話す方が楽しいじゃん」
「だよね~!」
運動場で全力疾走する男子たち。一人の男子が正樹の肩に触れる。
「タッチ!」
「うわ!捕まった!」
「逃げろ~!」
「よし!捕まえるぞ!」
正樹は楽しそうに再び走り始めた。
あれから二年経ち、正樹はクラスメイトに話しかける。
「ねぇねぇ!久しぶりに鬼ごっこしよう?」
「鬼ごっこ?」
「別にいいや」
「なんで?あんなに楽しかったのに」
「外出たくないんだよなぁ~それでこないだのゲームがさ~」
正樹を無視するかのように、ゲームの話で盛り上がる。
(鬼ごっこ好きじゃなくなったのかな?)
ゲームの話をしているのなら、ゲームが好きなのだろう。
(まぁいいや。稲見を誘おうっと)
正樹は女友達と話している稲見に近づく。
「稲見~鬼ごっこしよう?」
「いい」
「なんで?楽しいよ?」
「私は皆と話してる方が楽しいから」
その言葉に正樹がきょとんとしていると、稲見は会話を再開させる。
(あれ?これって僕だけおかしいのかな?)
あの時は皆楽しいって言ってたのに……今は楽しくないのかな?
それとも鬼ごっこより楽しいことができたからなのかな?
(じゃあ仕方ないか……自由帳にお絵かきでもしようっと)
中学生になると、恋バナが主体の会話が多くなった。
「俺、山田さんのこと好きなんだよね」
「マジで⁉」
「タイプなんだよ。外見も……性格も……」
「いいなぁ~俺も彼女欲しい~」
「……」
一緒に聞いていた正樹は、恋バナで盛り上がる二人を無言で見つめていた。
「正樹はいないのか?好きな人」
「う~ん……特に」
「河野とはどうなんだよ?」
「別にただの幼馴染だよ」
「そういうお前は告白しないのか?」
「だって恥ずかしいじゃん」
照れながら話すクラスメイトを見て、正樹は疑問に思う。
(別に好きなら言えばいいのに……伝えたら恥ずかしさもなくなるじゃん)
恋人になりたいのに、恥ずかしくて想いを伝えられない。
どうすれば解決できるだろうか。
(そうだ!)
正樹は急に席から立ちあがると、どこかへ向かう。
「どこに行くんだ?」
「大丈夫!絶対山田さんの恋人になれるよ!」
「お、おう……」
「僕に任せて!」
正樹の言葉に、二人は戸惑っていた。
翌日。正樹が教室に入ると、クラスメイトが胸ぐらに掴みかかってきた。
「正樹!お前……何勝手なことしてるんだよ!」
「……?何の話?」
「とぼけるなよ!お前……俺が山田さんのことが好きって、本人に言いやがって!」
「だって好きだったんでしょ?でも恥ずかしかったんでしょ?だったら代わりに伝えてあげた方がいいかなって思って」
「お前……」
クラスメイトが正樹を殴ると、正樹は尻餅をついた。
「……えっ?」
「お前のせいで俺は告白を友達にお願いして付き合おうとしたって言われたんだぞ!そのせいで変な目で見られて……勝手なことするんじゃねぇよ!」
クラスメイトの勢いが止まらない。
「だ、誰か先生呼んで!」
正樹は再び殴られる。でも抵抗しない。なぜなら戸惑いの方が大きかったからだ。
(なんで……?なんで怒ってるの?代わりに言っただけなのに……)
―――「……あれ以来、僕は白い目で見られるようになったんだ。稲見も僕と幼馴染だったから何もしてないのに僕と関係性があるだけで陰口を言われて……」
「そんなことが……」
「稲見もそれに嫌気がさして僕を嫌いになったんだろうね」
そう言う正樹の表情は寂しそうだった。
「わからないんだ。人の気持ちが……恥ずかしいとか……悲しいとか……だから心理学の本とかを読んで勉強しているんだ。少しずつ理解できるように」
おもちの顔を見ると、何とも言えない表情をしていた。
「ごめんね。こんな話して……」
「いえ……」
「やっぱりこんな僕が稲見と仲直りするなんて無理だよね……話を聞いてくれてありがとう」
立ち上がり、退室しようとする正樹をおもちが呼び止める。
「待ってください!」
その言葉を聞いて正樹が振り返る。
「正樹さんなら……必ず稲見ちゃんと仲直りできますよ」
「……どうしてそう思うの?」
「変わろうとしてるじゃないですか。勉強して……今の自分から……」
「勉強しても……そう簡単に変われるもんじゃないよ」
「もちろん。人間はそう簡単に変われる生き物ではありません。大事なのは変わるために自分が何をしているか。じゃないですか?」
「……!」
「世の中にはやり直そうとする人はたくさんいます。でも簡単には認めてくれない。でもやり直すために自分がどんなことを頑張っているのか、それを知ってもらうだけで少し認められる、応援されるとは思いませんか?」
「……認められる。応援される……」
「稲見ちゃんなら理解してくれるし、変わろうとする正樹さんを応援してくれると思います。だから絶対仲直りできますよ」
「……」
正樹は無言で退室した。
(……伝わったかな?)
言いたいことは言った。後は正樹さんがどう行動するか。
二人の仲が戻ることを、静かに祈った。
翌日の朝。稲見が登校し、校門に入ると稲見!と呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、正樹が立っていた。
「……」
稲見は何も見てないと突き放す表情で、校舎へ向かう。
「待って!」
「あなたなんか知らない」
「ごめん!稲見に迷惑をかけて!本当にごめん!」
再び振り返ると、正樹が頭を下げる。
「これから理解できるようにちゃんと勉強する。今はまだ迷惑をかけるかもしれないけど、もう絶対あんなことはしないって約束する!だから!
もう一度だけチャンスをください!」
「……」
無言の時間が続く。正樹はビクビクしながら稲見の答えを待つ。
「……顔を上げて」
顔を上げると、稲見はため息を吐いた。
「一回だけよ。次はないから」
「……!ありがとう!」
正樹が笑顔になる。
それを後ろからおもちと大翔が陰ながら見つめていた。
「よかった……」
「俺たちがいなくても大丈夫だったみたいだな」
大翔は昨日、おもちから頼まれて仲直りが失敗した時の助太刀を頼まれていた。
「初めてのデートの時、おもちちゃんを可愛いって言ってたけど、あれは恋愛的な意味じゃなくて素直な気持ちだったんだな」
「そうだね。恥ずかしかったけど……」
「あの時焦ったんだよ?おもちちゃんを狙ってるんじゃないか?って思ってたから」
「だから少し怒ってたんだ」
「でも……もう焦る必要はないね」
「……!うん。私の彼氏は大翔君だもん」
稲見と正樹。大翔とおもち。二人の関係性が一歩進んだような気がした。




