第37話 母親との再会(後編)
―――明美から離婚の真相を聞き、三人は静かになった。
「そんなことが……」
「結局、離婚することになって私は実家の後を継いだ。大翔と杏も私が育てたかったけど……昴の言う通り、良い環境は私一人じゃ用意できないと思った。
だから昴に親権を渡して、二人が良い環境で育つことを願った」
「……」
「大翔と杏に会いたかったけど……二人からしたら、自分たちを捨てた母親だと思われても当然だと思って……そんな人と会いたくないだろうなって……
行く勇気がなかった」
明美が頭を下げる。
「ごめんね大翔。今まで会いに行けなくて」
「……!」
「そして秋山さんも……私の代わりに二人を育ててくれてありがとうございます」
「いえいえ。私は面倒を見ただけで、まっすぐ育ったのはお坊ちゃまと杏様ですから」
「大翔も……怒ってるよね?」
ずっと黙っていた大翔が口を開く。
「僕は……捨てられたと思ってないよ。杏も……母さんを恨んでないし、むしろ会いたいって言ってたよ。怒ってるけど……それは会いに来てくれなかったから……」
大翔の言葉を、明美は黙って聞く。
「一度でもいいから……会いに来てほしかった」
「……!」
「でも……爺ちゃんに頼んで……ようやく母さんに会えて……嬉しかった」
「大翔……」
「また東京に戻ってきてよ。杏にも会ってほしいし……その……紹介したい人もいるし……」
大翔の少し赤くなった頬を見て、明美は察したのかフフッと笑った。
「そうね。必ず会いに行くわ」
「明美さん。せっかくなら食べてもらったらどうですか?明美さんの野菜」
美晴の提案を聞いて、大翔もそれに賛同する。
「食べてみたい。母さんが継ぐことを決意するほど美味しいんでしょ?」
「えぇ自信作よ。ちょっと待ってて」
明美がキッチンに向かうと、美晴は明美を見ながら話し始めた。
「先輩は……大翔君も……杏ちゃんのことも好きですよ。お二人が小さい頃の写真も大切に持っていますし、あそこにも飾っていますよ」
美晴が指した先には写真縦があり、明美と幼い大翔と杏が笑顔で写っていた。
「そんな先輩が急に実家の後を継ぐことになって……私も力になりたいと思ってついてきちゃいました」
「すごいですね……どうしてそこまで……」
「私、高校は吹奏楽部だったんですけどなかなか上手くできなくて……遅くまで練習に付き合ってくれて、アドバイスしてくれたのが先輩だったので、先輩が困ったら力になりたいって思ったんです!」
大翔はキッチンで料理する明美を見つめる。
「……やっぱり母さんはいい人だな」
少し時間が経つと、明美は料理を机に置く。
「どうぞ」
「これは……ほうれん草?」
「先輩はほうれん草を育てているんですよ」
「そうなんだ……いただきます」
大翔は用意されたほうれん草のおひたしを口にする。
「……!美味しい」
「本当?よかった」
「今まで食べたほうれん草で一番美味しいかも」
「私はほうれん草苦手だったんだけど、これを食べて好きになったの」
「そうなんだ……すごいなぁ……」
博俊も食べて美味しそうな表情をしている。
「美味しいですね。おひたし以外もこの美味しさを出せると思いますね」
「よかったらあげるので、杏たちに家で作ってあげてくれますか?」
「もちろん。何を作りましょうかね?」
その後、四人は和気藹々と会話を楽しんだ。
夕方になると、大翔と博俊は家を出た。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったです」
「またいつでもおいで。東京からは遠いけど……」
「また行くよ。母さんこそ、絶対東京に来てね。待ってるから」
「えぇ。ところで……」
明美が大翔に耳打ちする。
「紹介したい人って恋人……だよね?」
「ま、まぁそうだけど……」
「どんな子なの?」
「えっと……」
説明するためにおもちを思い浮かべる。すると、顔が赤くなってしまう。
「フフッ。恥ずかしい?」
「そんなことないって!来てくれた時に紹介するからその時でいいでしょ?」
「そっか……分かった。気を付けてね」
大翔が博俊の元に歩くと、何かを思い出した振り返った。
「母さん。一つ聞きたいんだけど……」
「何?」
「……父さんに会うつもりはないの?」
「……!」
明美の明るい表情が真顔になる。
「……今はないかな」
「分かった。会いに行ったことは父さんには言わないし、東京に来た時も俺と杏で出迎えるね」
大翔が明美と美晴に手を振る。
「ありがとう。またね」
二人も手を振り返す。
「いい息子さんですね」
「えぇ……ちょっと疲れたから寝るね」
「分かりました。晩御飯は私が作っておきますので」
「お願い」
明美が先に家に入ると、自分の部屋に入り、ベッドに寝転がる。
―――「父さんに会うつもりはないの?」
あれ以降、昴とは連絡を取っていない。どうしているかも知らない。
(会いたいとは思わない。でも……今はどうしているのかな……)
齊藤ホールディングスの社長室で、昴は一人でパソコン作業をしていた。
「ふぅ……」
仕事が終わったのか、パソコンを閉じると、隣にある写真縦を見つめる。
「……」
写真縦には家族写真が飾られている。
その中でも明美の笑顔が今の自分に微笑んでいる気がした。




