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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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80.ヘーニオ

 ガディールからの書巻の指示に従い、マキナと、彼女に同行を申し出たヘーニオの二人は、荒野の先に残されたという次の魔族の痕跡を追って移動を続けていた。


 その移動には、使用者の魔力を流し込むことで浮遊魔法が持続的に発動する『魔道機』と呼ばれる帝国の最新道具が用いられており、荒れた地形の影響を全く受けず、移動はかなり快適なものとなっていた。


 ただし、その見た目は一枚のボードのようなもので座席や手すりは一切ない。


 足場の広さも決して広くはなく、後ろに乗るマキナは、操縦するヘーニオの背中に両腕を回して抱きつくような形でどうにか大人が二人乗るスペースを確保し、相乗りせざるを得なかった。


 この密着した状況に、マキナは先程までの悲壮感や猜疑心もどこへやら、顔を赤くしてドギマギしていた。



「(ど、どうしよう……。こんなに人と密着したこと無いから、何かすごく緊張する……)」



 マキナが兜の中で一人あたふたしながら進んでいると、背中越しに彼女の緊張を感じ取ったのか、ヘーニオが気を使って話しかけてきた。



「マキナ様は、この『アリヴェント』に乗られるのは初めてですか?」

「へっ!? あ、えっと、この乗り物のことですか?」



 突然話しかけられて一瞬声が裏返り動揺するものの、マキナは直ぐに気を取り直して答える。



「そうです。これは帝国が最近実用化したもので、魔力を流し込むことで、高度な浮遊魔法を擬似的に再現している代物なんです」

「……それは、革命的な発明なのでは? 私が聞いたところだと、浮遊魔法は魔力消費が激しく、今でも自在に扱える者は決して多くないと聞きます」



 あまりにもあっさりと衝撃的な国家機密レベルの内容を告げられ、マキナも思わず驚くタイミングを逃し、真面目に聞き返してしまう。



「どうやらそのようですね。だからこそ、一部の魔法使いだけでなく、より簡易的で実用的なものを目指してこれを発明したと聞いています」

「……それを他国へ広げないのは、やはりコストの関係で?」



 マキナの問いに、ヘーニオは前方を向いたまま頷きつつ続ける。



「それも有ると思いますが、技術的・運用的な側面も高いと思います。この『アリヴェント』には、複雑な魔道機構が組み込まれています。それを完全に整備できるのは、現状では帝国のみです」

「……つまり、外に売りに出しても、維持できる環境が整っていないということですね」

「それだけではありません」



 ヘーニオは更に続ける。



「いま、私はただ立って簡単に乗っているように見えますが、実はかなりコツが要ります。魔法で水平にバランスを取りつつ、前への推進力で倒れないように常に重心を注意しながら進ませているんです。これを他国に広めても、普及させるのは難しいでしょうね」



 マキナはふと足元を見る。


 車輪を持たず常に大気中を浮遊しながら、荒野を突き進むその推進力とパワーは全く落ちていない。


 この不安定な挙動を制御する感覚は、高度な魔法使いにしか分からないシビアなものだろう。


 ヘーニオの言う通り、技術の独占を抜きにしても一般への普及は現実的ではないのかもしれない。



「でも……」



 マキナはふと、自身の思いの丈を口にする。



「でも私は……この道具のような魔法技術が多くの人に広まって、それで沢山の人が笑顔で空を飛べたら……とても素敵だなって、思います」



 ポツリと溢された純粋な一言に、ヘーニオはポカンとしたように沈黙する。


 自分の発言が場違いだったかもしれないと気付き、マキナはハッと我に帰る。



「あ、ご、ごめんなさい! 急に、軍人の方に向かって変なことを言ってしまって……」



 マキナは自身の不用意な発言を恥ずかしがる様子で俯く。しかしヘーニオは、それを軍人らしく現実主義で鼻で笑うことは無かった。



「そうですね。私も……全く同じように思います」

「え……?」




 思いがけず強い賛同の言葉を返され、マキナは思わず顔を上げた。



「帝国の技術は素晴らしいものが多いです。その多くは強力な戦闘の道具……所謂、兵器としての魔道具に用いられていますが、それでもこの『アリヴェント』のように、人の夢が溢れる道具も確かに存在しています」



 心無しか、風を切る音に混じって届くヘーニオの声色が一段と高くなり、確かな熱を帯びていく。




「無論、技術的にも資源的にも、すぐには叶わない夢物語だとは思います。それでも、難しい魔法の才能がなくても空が飛べたり、長距離を安全に移動したり……そうやって魔法が人の生活を豊かに出来たら、それはとても素敵だと思います」



 その声の響きはとても穏やかで、それでいて、途方もない夢を語る少年のように純粋な熱意が感じられた。



「……意外です。帝国の方々は、もっと兵器運用や損得に現実的で、ロマンとは無縁な方々ばかりかと……」



 そう口にした瞬間、マキナはまたしても自分が失礼な偏見を言ってしまったことに気が付き、慌てて口元を押さえる。



「す、すいません! い、今のは悪い意味で言ったわけではなくて……!!」

「アッハッハッハ!! マキナ様は、本当に素直で裏表のない方ですね!!」



 しかし予想に反して、ヘーニオは怒ることなく、寧ろ腹の底から豪快に笑っていた。



「まぁ、マキナ様の仰りたいことは分かります。帝国は他国に対して閉鎖的ですし、軍事的な秘密主義みたいなところばかりが悪目立ちしているようですから。そのような堅苦しい印象を抱かれるのも無理ないでしょう」



 自国の体制に対する悪口にも近い発言を受けても、ヘーニオは大して気にした素ぶりを見せず、あっさりと肯定して答える。



「それでも、私の個人的な考えはマキナ様と同じです。培った素晴らしい魔法技術を独占するのではなく広めて、発展させれば、人々の生活はもっと豊かになる。世界はもっと活気付く。それを思い描くと……たまらなくワクワクするんですよね」



 全身を覆うフル装備のため、前で操縦するヘーニオがいま、どんな表情をしているのかは分からない。


 それでも少し上ずったような声の調子や、夢を語る少年のように身を乗り出す背中からは、隠しきれない純粋な熱意がひしひしと伝わってきた。


 しかしそれ以上に、マキナはこの僅かなやり取りの中で、このヘーニオという軍人に対して、奇妙な親近感のようなものを覚えていた。


 彼とは間違いなく今日が初対面のはずだ。


 しかし、まるで以前にもどこかで会ったことがあるような、そんな奇妙な懐かしさと安心感を抱かせられていた。


 ここ数日で会ってきた、冷徹で合理的な帝国の面々と、本当に同じ組織に属する人物なのかと疑うほど、彼は軽快で人懐っこい人物であった。



「(なんだろう……この感じ、どこかで……)」



 マキナが記憶の糸を辿ろうとしたところで、前方の風を切り裂きながら、再びヘーニオが声を上げた。



「マキナ様、見えてきました! ガディール様が指定した、次の目標地点です!」



 ヘーニオがそう言って指差した荒野の先には、巨大な岩と岩の間に隠されるようにして、無数のテントが張られた拠点が立っていた。





⚫︎⚫︎⚫︎





「なに? マキナ様に、我が隊の兵の一人を同行させただと?」



 帝国の拠点近くまで帰還しつつあったレオーニは、携帯用の魔水晶を介して、帝都にいるガディールと暗号通信を行い、事の経過の報告をしていた。



『はい。彼の話す内容も軍事的に説得力がありましたし、何よりマキナ様の負担を減らして素早く任務をこなすには、現地の案内役を付けるのが妥当な申し出であると、その時は判断しましたので』

「……その理屈自体が正しかったとはいえ、何故、私の許可なく独断で判断した。状況の些細な変化も、適宜報告しろと厳命していたはずだ」



 マキナと直接会話していた時の穏やかな仮面はまるでなく、ガディールは水晶越しに険しい顔つきでレオーニを冷徹に問い詰める。



『は……いえ、仰る通りです……ただ、あの時は何故か、それを許可することが当然の、正しいことだと思ってしまい……』

「何をふざけた言い訳を……」



 その言葉を聞き、ガディールの鋭い眼光がスッと細められた。


 常に合理的な報告をするはずの部下が口にした「何故かそう思ってしまった」という曖昧な言い訳に、明確な異常事態の兆候を嗅ぎ取ったのだ。



「レオーニ軍曹。その同行した兵士の名はなんという」

『はい。我が小隊の、ヘーニオ伍長です』

「ヘーニオ……?」



 ガディールはすぐさま手元の情報端末を操作し、レオーニ小隊、ひいては帝国軍全体の兵籍リストを高速で検索・確認する。


 その検索結果が「該当なし」の文字を弾き出したのを見て、ガディールは端末から目を離し、水晶越しのレオーニへと鋭い目を向けた。



「レオーニ軍曹。我が帝国軍の兵籍に、ヘーニオなどという兵士は存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)」

『……は?』



 ガディールから告げられた事実の矛盾に、レオーニは意味が分からず絶句する。



『そ、そんな筈は……彼は、間違いなく私の小隊に所属する、とても優秀な部下で……』

「そう認識させられたか……謀られたな」



 ガディールは忌々しげに目を瞑り、状況の異常性を飲み込んでいく。



『が、ガディール最高執政官、わ、私は……っ!』

「もう良い。直ぐに帰還しろ」



 それだけ冷たく告げると、ガディールは一方的に通信を切り、執務室の立派な椅子に深く腰掛ける。



「……これから帝国として本格的にアクションを起こそうというタイミングで、この不測の事態か……」



 顔を覆って重い息を溢すも、直ぐに猛禽類のような険しい顔付きに戻る。



「いや、それよりも。あの『英雄』に接触したヘーニオと名乗る者……一体何者だ?」



 ギジリとイスの音を立てながら、前のめりの姿勢をとり、手元の資料を睨みつけて深く考え込む。



「帝国軍のフルフェイスの兜には、精神干渉やある程度の魔法に対抗する高度な防壁の仕組みを施してある。仮に強引な催眠魔法を掛けたところで、あのレオーニの警戒を潜り抜けて簡単には破れないはず……それを、誰にも気付かせず、記憶や認識そのものを書き換えて実行したというのか」



 再び深く腰掛け、自前の髭を触りながら小さく呟く。



「何者で、何が目的だ……ヘーニオ」

※後書きです



ども、琥珀です。


え!?8月もうおわり!?


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は水曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

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