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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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73.情報共有

「それではマキナ様、早速ではございますが情報の共有からさせていただいても?」



 マキナをここまで案内してきたラルフを下がらせたガディールは、執務室の中央に備え付けられた巨大な円卓へとマキナを促し、落ち着いた動作で口を開いた。



 周囲の喧騒が遮断された最深部の静寂が、二人の間に流れる空気の重みを際立たせる。



「陛下からお聞きした内容では、魔族が普段とは異なる、不可解な行動を取ったのだとか」

「はい。実は先日……」



 マキナは、租外の集落で起きた異変から語り始めた。


 魔族が組織的に動いていた形跡、そして何よりも彼女の心を重く沈ませている『エルゼルク王国』での凄惨な事件の顛末。


 魔物が人々の魔力を糧にして『種』から孵化し、街を蹂躙した恐怖を、記憶を辿りながら一つひとつ丁寧に言葉に変えていく。


 最初こそ眉一つ動かさずに聞いていたガディールであったが、王都が受けた実害の大きさとその手口の巧妙さが語られるにつれ、次第に口元を硬く覆い隠すようにして険しい表情を浮かべていた。



「『エルゼルク王国』が襲撃を受けたという断片的な情報は得ておりましたが、まさかその内実がそれほどまでに異質な事件であったとは……このガディール、慄然たる思いです」



 ガディールは深く瞼を閉じ、マキナの言葉から再現される悲惨な情景をその老練な脳内で反芻しているようであった。


 しかし彼はすぐに不必要な情緒を振り払い、元の冷徹なまでに冷静な面持ちへと戻ると、再びマキナへ視線を向けた。



「しかしそのお話を伺う限り、魔族の行動原理に根幹からの変化が生じているのは間違いなさそうですな。他ならぬ、数多の戦線を越えてこられたマキナ様のお言葉で御座いますから」



 ガディールはそう言うと、卓上に右手を静かに乗せた。


 すると金属製の机の表面が脈打つような淡い光を放ち、二人の眼前に突如として、半透明で立体的な地図の像が浮き上がった。



「これは……」

「我々が最近実用化に向けて開発を進めている、魔力投影(ホログラム)という魔道具です。回路に微細な魔力を流し込むことで、予め組み込んでおいた光魔法の術式が空間に干渉し、地形を立体的に浮き出させることを可能にしています」



 浮き上がった光の地図は、マキナが角度を変えて眺めても、細部まで崩れることなく完璧な立体像を維持していた。


 平坦な紙の地図では読み取れない高低差や距離感が、青白い光の線によって克明に再現されている。


 その精緻な光景に、マキナは素直な感動を禁じ得なかった。



「驚きました……これが完全に実用化されれば、戦場でもより具体的な指示や部隊の配置を瞬時に共有できますね」



 マキナはこのホログラムが前線の指揮官たちに与えるであろう絶大な恩恵を、前線に立つ身としての視点からリアルに思い浮かべた。



「理屈の上ではその通りです。しかしながら未だ広域での運用には至っていないのが苦しい実情でして……」



 マキナの称賛に対し、ガディールは誇らしげな態度を一変させ、どこか晴れない表情で言葉を濁した。



「細かな地形を正確に投影するには、膨大な維持魔力と構築コストがかかり過ぎるのです。このホログラムも、現在は我が『スカラビア帝国』の周辺領土のみを反映させるに留まっております」



 ガディールの言葉通り、映し出されているのは帝国の強固な城壁を中心とした限られた範囲のみで、実戦投入には未だ発展途上の試作品、ということなのだろう。




 しかしそれらを差し引いても、自国のテリトリーをこれほどの解像度で瞬時に反映させている点に、マキナはこの国の技術力の底知れなさを改めて実感していた。



「さて。我々がこの直近一ヶ月ほどの期間において、魔族の小隊と実際に交戦した地点を表示いたしましょう」



 ガディールが再び卓の縁に魔力を込めると、ホログラムの地図上の数カ所に赤色の点が次々と打たれていく。



「……これは」



 光の粒子の追加が止まった時、マキナは網膜に映る現状への素直な感想を口にした。



()()()、ですね。帝国の規模を考えれば」

「仰る通りです」



 その率直な指摘に、ガディールも重々しく同意した。



「陛下からマキナ様のご懸念を聞き、貴殿がこちらへ到着されるまでの間に情報を集約させておりました。お恥ずかしながらその精査の段階で私共もようやく交戦頻度の低下に気が付いたのです」



 広大な帝国領土を映したホログラム上に点在する赤い印は、僅か三十ほど。


 大半を戦場での迎撃に費やすマキナの日常と比較すれば、この数は明らかに異常だった。


 本来であればその数倍の衝突があってもおかしくはないはずなのだ。



「マキナ様の仰られた『魔族の行動の変化』という仮説は、我々が掴んでいるこの膠着した状況と照らし合わせても、非常に信憑性が高いものであると思われます」

「やはり、そうですか……」



 帝国の中枢に座るガディールの賛同を得られたことで、マキナの内にあった漠然とした予感は確信に近い重みを帯びていく。



「時にマキナ様、その『エルゼルク王国』に運び込まれたという『種』の現物は、すべて処分されたので?」

「あ、はい……申し訳ありません。あまりに事態が切迫していたため、安全を最優先しました」

「いえ、責めているわけではありません。一刻を争う危急の折、当然の決断かと思われます。ただ……もし現物があれば、我々の最高水準の設備で更なる詳細な調査が行えたのではないか、と思った次第でして」



 ガディールの言う通り、事象の分析や解体に関して帝国の技術力の右に出る者はいない。


 人の魔力を吸い上げて成長するあの『種』も、ここで解析にかけられれば、その製造過程や、裏に潜む魔族の意図そのものを暴けたかもしれなかった。


 だが、それでも種を根絶やしにした判断そのものは間違っていなかったと、マキナは自分に言い聞かせる。


 万が一解析のために放置した種が暴走し、街で二次被害を出していれば、取り返しのつかないことになっていただろう。


 あの状況においては、あれが最善の選択であった。


 ガディールも彼女の葛藤を理解したのか、それ以上の追及をすることはなかった。


 しかし逆に、『種』の話題が出たことで、マキナの思考はふとした可能性へと跳躍していた。



「ガディールさん、差し出がましい提案かもしれませんが……念のため、『スカラビア帝国』に配備されている備品も点検された方が良いかもしれません」

「我々の備品を、ですか? 『スカラビア帝国』は土地の性質上、外部から食糧や植物の種子を大量に運び込む機会は滅多にありませんが」



 唐突な進言に、ガディールは怪訝そうに眉を顰めるも、マキナは即座にその理由を補足した。



「『種』という形態が唯一の仕組みであるとは限りません。今回の事件の本質は、魔物が自前の魔力ではなく、人間の持つ魔力を利用して生み出された点にあります」

「……まさか、我々自身の中にすでに魔の手が入り込んでいると?」



 ガディールは尚も半信半疑といった様子であったが、マキナは臆することなく言葉を重ねる。



「可能性は否定できないと思います。『エルゼルク王国』では豊かな自然資源を利用するために植物の種に擬態した。ならば、膨大な魔導技術に依存しているこの『スカラビア帝国』で、最も効率的に魔力を吸い上げられる依代は……」

「……()()()



 自国が最も誇り、かつ信頼を置いている中枢に狙いを定められ、ガディールは片手で長く白い髭を撫でながら低く唸った。


  やがて何事かを決心したのか、彼は近くに控えていた一人の部下を呼び寄せると、耳元で小さく、しかし峻烈な声で指示を飛ばす。


 その兵士は、弾かれたようにその場を離れていった。



「どんな些細な可能性であれ、リスクは事前に排除すべきであると判断いたしました。マキナ様、その鋭いご指摘に感謝いたします」



 ガディールは胸元に重々しく手を当て、マキナに対して丁寧に頭を下げて謝意を示した。


 そして、マキナの助言をきっかけとして、帝国内のあらゆる備品に対する、前代未聞の総点検が開始された。

※後書きです



ども、琥珀です。


皆さんスター○ォーズはご存知ですか?

先日ライト○ーバーを買いまして、絶賛振り回しております


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

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