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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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61.対キメラー終ー

 『ヴェノム・ストーカー』の内部を体熱で上昇させ、発生したガスへ炎を引火させて止めを刺す、この作戦は三人が短く話し合った段階で既に決定事項となっていた。


 しかし、最後に自らの首を最も強く絞めたのは、『ヴェノム・ストーカー』自身が取った行動り。


 最後の攻防、ガイル達の不意打ちを予見できなかった『ヴェノム・ストーカー』は、コアの位置を移動させるという奇策で反撃に出た。


 その判断は確かにガイル達の隙を生み、奇襲を成立させなかったという意味では効果があったが、同時にガイルの剣は『ヴェノム・ストーカー』の身体のおよそ三分の一近くを深く切り裂いていた。


 切り裂かれた肉体の内、コアのない方の身体をそのまま操り、無数の毒槍と化してガイル達へ襲い掛からせたが、その行動もまた結果として裏目に出る。


 体積が削られたことで内部に溜まっていたガスの逃げ場は大きく減り、さらに体内を巡る熱の回りも早くなってしまった。


 その結果、引火するには十分すぎる量のガスが既に内部に滞留し、討伐の算段が整えられていた。


 周囲へ降り注いだ毒液やガスが誘爆しないかという懸念もあったが、この問題もマキナが地面を踏み砕き大きな穴を作ったことで解決している。


 爆発は地中へ閉じ込められ、爆風と熱はそのまま縦に吹き上がり、すべて上空へと放出され、発想と機転が噛み合った、まさに最良の対処だったと言えるだろう。


 やがて荒れ狂っていた爆炎がゆっくりと収まっていくと、それまで一帯で猛威を振るっていた毒が黒い塵へと崩れ、風に流されるように静かに消滅していった。


 攻撃を終えたシモンとミアリー、そして師団長であるガイルとシェリーの二人もまた、張り詰めていた力が抜けるようにその場へ倒れ込む。



「勝った……勝ったんだな……」

「えぇ……これでようやく終わりましたわ……」



 未知の魔物を相手に死力を尽くした面々は、疲労の色を隠せないまま地面へ身を預けながらも、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。


 毒が完全に消えたのを見計らい、グラップ、そして師団長補佐であるランドが近くへ降り立つ。



「ガイル師団長!!レイズウォッド師団長!!」



 師団長クラスの二人が地面へ倒れ込む姿など見たことがないのだろう、ランドは慌てた声を上げながら二人のもとへ駆け寄った。



「心配すんなランド。重い怪我なんてしちゃいねぇよ」



 座り込んだまま、ガイルは軽く手を振りながら自身の無事を部下へ伝える。


 その言葉を聞いたランドは一度安堵の表情を浮かべたものの、すぐに顔を曇らせ、どこか沈痛な面持ちへと変わった。



「申し訳ありません、ガイル師団長。私は補佐でありながら何にも出来ず……」

「あ〜やめろやめろ辛気臭い。せっかく勝って終わってんだからよ」



 悔恨の言葉を口にしようとするランドを、ガイルは面倒くさそうに片手を上げて制する。



「お前が近くにいなかった理由はちゃんと分かってる。グラップ訓練兵長の依頼で、ロス国王の警護に回ってたんだろ?」



 ガイルの言葉に、ランドは小さく頷いた。



「あんだけの事態、一介の兵だけじゃ統率がとれなくなる。だから訓練兵長がお前を遣わして、指揮にあたった。それで正解だよ」

「……しかし、師団長他、皆さんが命を賭けて戦っていたというのに私は……」



 なおも後悔の言葉を口にしようとするランドに対し、ガイルは困ったように頭を掻きながら答えた。



「……身を晒すことだけが戦いじゃねぇよ。あのまま冷静さを失った兵達が残ってたら、大勢の命が失われてた。あのまま統率なく兵達が散ってたら、俺達もまともに戦えなかった。訓練兵長が落ち着かせ、お前が束ねてくれたから、俺達は全力で戦えた」



 そう言うとガイルはゆっくりと立ち上がり、落ち込んだまま俯くランドの肩へ静かに手を置いた。



「場所は違えど、お前のやったことも十分戦いだ。果たした役割を誇れ」



 ガイルの言葉は、慰めでも気休めでもない、紛れもない本音だった。


 実際に市街地で戦うことになり、付近に人がいるかどうかという差を、ガイル達は身をもって思い知らされていた。


 もし人が残っていたなら、ガイルは全力で剣を振るうことなど出来なかっただろうし、もし人が残っていたなら、シェリー達魔法兵も迷いなく魔法を行使することは出来なかっただろう。


 そしてもし人が残っていたなら、この一帯には『ヴェノム・ストーカー』の毒によって命を落とした多くの骸が転がっていたはずだ。


 そうならないよう、マキナは戦闘前から人々の避難と安全の確保を優先し、ランドは混乱を広げないよう兵と国民をまとめ続けていた。


 ほんの一つでも結果が違えば戦況は大きく変わっていたかもしれない。

 だからこそ今回の勝利は誰か一人のものではなく、エルゼルク王国すべての力で掴み取ったものと言える。



「……はい」



 若くして師団長補佐にまで登り詰めたランドは、自分の未熟さと後悔を胸に刻みながら、静かにガイルの言葉へ頷いた。



「それはお前もな、ガイル」



 奥から歩いてきていたグラップがすれ違いざま同じようにガイルの肩へ手を置き、そのまま何事もなかったかのように通り過ぎていく。


 最後の最後、結局ガイルはマキナに救われており、己の未熟さを悔いていたのはガイルもまた同じだった。


 その心を見透かされたような一言に、ガイルは静かに瞼を閉じ、自分の未熟さを改めて噛み締める。


 グラップはそのまま歩みを進め、いまだ強い熱波を放ち続けている穴の縁に立つマキナのもとへと近づいていった。


 元々ボロボロだった外装は、戦闘を経たことでさらに酷い有様になっており、傷や凹みが増えているだけでなく、毒によって鎧のあちこちが溶け落ち、金属が歪んだまま崩れかけている。


 だがそれ以上に、これまで幾度となく傷付きながら戦ってきたマキナの姿は、その壊れかけた鎧と相まって、ひどく痛々しく、そしてあまりにも小さく見えた。


 グラップは知っている。


 数々の恐ろしい魔物を前に一切弱音を吐かず立ち向かう『英雄』の正体が、まだ年若い少女であるということを。


 今回の戦闘の直前、マキナは確かに変わった。


 力があるがゆえに一人で全てを背負い込み、どんな状況でも自分だけで解決しようとしていた彼女は、しかしようやく側にいる仲間を頼るということを覚え始めていた。


 それに応えるように、ガイル、シェリー、シモン、ミアリー、そしてグラップと、多くの人々が迷うことなくマキナへ力を貸した。


 だがどの場面を切り取っても、攻略の起点となったのは常にマキナであり、その実力差は天と地ほど離れている。


 踏み潰されようと、叩きつけられようと、毒を浴びようと、マキナは最後まで立ち続け、そして勝利をその手で引き寄せた。


 この勝利は、マキナ無しでは決して成り立たなかった。


 自分たちのために傷付き続ける彼女へ抱く感情は、圧倒的な畏敬。

 しかし同時に、その隣へ並び立つことすら許されない己の非力さが、グラップの胸を強く締め付ける。


 ボロボロになった鎧よりも、いつか限界を迎えるかもしれない彼女の心の方が、今にも音を立てて砕け散りそうで恐ろしかった。



「マキナ様……」



 壊れないように、崩れないように、まるでガラス細工へ触れるかのような声でグラップが呼びかけると、マキナはゆっくりと振り返り、溶け落ちた兜の奥でその視線がグラップと重なった。


 そこに勝利へ酔う様子はなく、見えるのは深い疲労と、ただ自分が果たすべき役目を終えた者の静かな佇まいだけだった。



「周辺に魔物の姿は?」

「……ありません。師団長補佐に周辺の警戒をさせていましたが、種は全て回収出来ていたようです」

「被害は?」

「周辺の建物には被害が出ていますが、一区画離れればほぼ無傷です。人的被害も兵団の怪我のみで、死者は一人も出ていません」



 その報告を受けると、マキナはゆっくりと天を仰いだ。



「良かった……」



 それは心の底から零れ落ちた安堵の言葉であり、『英雄』マキナが、ようやく胸に背負っていた重荷をほんの僅かだけ下ろすことの出来た瞬間でもあった。


 これ以上望めないほどの成果、その戦いを労おうとグラップが声を掛けようとした、その時だった。



「マキナァ!!」



 いまこの瞬間、最も聞きたくなかった声――ロス国王の叫びが、静まり返った戦場へ大きく響き渡った。

※後書きです



ども、琥珀です。


二回分の更新お読みいただきありがとうございました。

本来は今日で『キメラ』編がぴったりと終わる予定だったのですが、調整していたら合わなくなってしまい、やむを得ず一日二回更新にしましたた


来週に回しても良かったのですが、やはり区切りの良いところで終わらせたかったので……


というわけで、『キメラ』編はこれにて終了!

来週からは新しい展開に入りますので、また宜しくお願いします!


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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