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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
61/62

60.対キメラ㉒

 毒の攻撃の包囲網を掻い潜りジャミングを張ったその瞬間、ガイルとシェリーは、この不意打ちを成立させるための打ち合わせを終えていた。


 結果として、迂回した判断が功を奏した。


 ほんの僅かにではあるが、ガイルの剣へ再び魔力を纏わせる余裕が生まれていたからだ。


 ガイルの剣に魔力を纏わせる直前、シェリーがダミーの魔力を放出。そしてその箇所だけジャミングを意図的に弱める。


 これにより、シェリーの目論見通り『ヴェノム・ストーカー』はダミーの魔力を本体だと誤認し、意識をそちらへ向けた。


 その瞬間、ガイルは音もなく死角へ滑り込み、そのまま懐へと踏み込むことで、奇襲は成立する。


 魔力を纏った剣であれば、一時的とはいえ『ヴェノム・ストーカー』にも致命傷を与えられるため、その一撃に全てを賭けて、ガイルは持ち前の剣技でコアへと狙いを定めていた。


 シェリーの魔力を纏ったガイルの剣が閃き、刃は迷いなく振り抜かれ、『ヴェノム・ストーカー』の胴体を綺麗に切り裂いた。



「(()()()()()!!)」



 重たい肉体が裂け、スライム状の体液が飛び散るも、事前に確認したはずのコアは、その場所には存在していなかった。



「コイツ!!コアの位置を動かしやがった!!」



 注意深くボディを確認すると、間違いなく胴体にあったはずのコアが、頭部の額の部分へと移動しており、その内部で核が鈍く光っている。



「スライムボディだからコアの位置も自在ってか!?クソッタレ!!」



 奇襲は完全に失敗し、これ以上の継戦は状況を悪化させるだけだと判断し、ガイルは即座に後退を始める。


 振り返った先では、シェリーがマキナを抱き抱え、治療を行いながら同じく後退の準備を進めていた。


 だが───



「退くぞシェリー!!マキナ様を連れて……」

「ガイル!!後ろですわ!!」



 鬼気迫るシェリーの声に、ガイルは反射的に振り返る。


 そこには、斬り裂かれた胴体を無理矢理動かし、無数の毒槍へと形を変えて襲い掛かってくる光景が広がっていた。


 裂けた肉体がうねり、鋭い槍へと変形し、それらが一斉にこちらへ向けて射出されていた。


 並外れた動体視力でこれを見たガイルは、瞬時に回避不可能だと理解する。



「(ダメだ躱せねぇ、だけじゃねぇ!!この攻撃範囲、シェリー達にも届く!!)」



 せめてシェリーとマキナだけでもと、ガイルは身体を広げ、盾になるように二人の前へ躍り出ようとした。


 しかし次の瞬間、何かが首根っこを掴み、強引に後方へと引き寄せる。


 予想外の力に身体が浮き上がり、そのまま勢い良く後方へと吹き飛ばされ、視界が揺れる。


 横を見ると、同じく吹き飛ばされたシェリーの姿が並んでいた。


 慌てて前へ視線を戻すと、そこには、二人を引き離して手放したマキナの姿があった。



「マキナ様!!」



 シェリーの悲痛な叫びよりも早く、『ヴェノム・ストーカー』が作り出した無数の毒の槍が、マキナの身体を貫いていった。


 鋭い音を立て、槍が次々と『英雄』の身体を突き抜けていく。


 程なくして、安全圏へと投げ飛ばされた二人は地面へと転がるように着地する。


 しかし、助けに来たはずの自分たちが逆に守られたという現実を理解した瞬間、二人の顔には抑えきれない悲痛な表情が浮かび上がっていた。


 既に致命傷を受けていた身体に加えて無数の毒槍が突き刺さった状況では、いかにマキナであろうと生き延びる可能性は限りなく低いことを理解していた。


 絶望の淵へ突き落とされた二人は力を失ったようにその場へ崩れ落ちた───その時だった。


 それまで殆ど身動き一つ取らなかったマキナの身体が突如として動き出し、身体に突き刺さった毒の槍を躊躇なく掴み取ると、それを強引に引き抜いて『ヴェノム・ストーカー』の目に勢いよく投げつけた。



『シ゛ャ ッ!?』



 もとは自身の身体で構成された毒槍である以上、直撃したところでそのまま再吸収されるだけで致命的なダメージにはならない。


 それでも、槍そのものが視界を遮ることで『ヴェノム・ストーカー』の視界は一瞬だけ完全に塞がれ、槍を取り込んだ次の瞬間、そこに立っていたはずのマキナの姿は既に消えていた。


 言いようのない悪寒に突き動かされるように視線を下へ落とすと、そこには再び懐へと潜り込んでいたマキナの姿。


 その存在を視認するや否や『ヴェノム・ストーカー』は反射的に真下へ向けて大量の毒液を吐き出した。


 圧縮する時間は無いと判断したのか、ただ液体のまま吐き出された毒は奔流のように周囲へ広がり、広範囲を覆って地面へと降り注ぐ。


 毒が周囲一帯を覆うと同時に、強力な酸によって地面は音を立てて溶け始め、白い水蒸気と刺激臭を帯びたガスが一帯へ立ち込める。



 その腐食と蒸気の中心に、マキナは立っていた。



 毒液を浴びたことで手甲を外していた側の手の皮膚は赤く爛れ、肉が焼けるような損傷を受けていたが、それ以上の外傷には至っていない。


 何より、致命的であるはずの毒そのものの効能がまるで作用していなかった。



「何で効いていないのか……気になってる?」



 毒を浴びる直前と変わらぬ姿勢のまま、マキナは半ば融解して崩れかけている兜の奥から、静かな声で『ヴェノム・ストーカー』へ語りかける。



「実際、ホントに危かったんだ。再生よりも速い速度で毒が蝕んで、痛みよりも死を感じたのは初めてかも」



 魔物である以上、本来その言葉が通じるはずはない。


 それでも『ヴェノム・ストーカー』はまるで聞き入るかのように、その場から一歩も動かなかった。



「だからかな。途中から対処方法が変わったみたいでね。再生は肉体が崩壊しないギリギリに留めて、残ったリソースで毒の分析を始めたんだ」



 否、聞き入っていたのではない。それは恐怖だった。


 幾度となく自身の命を脅かし、遂には最大の矛である毒を浴びながらもなお目の前に立ち続けている人間(マキナ)の存在に、『ヴェノム・ストーカー』は本能的な恐怖によって身動きが取れなくなっていたのだ。



「少し時間かかったし、結構ギリギリだったけど……でも、無事に出来たよ、()()



 マキナの身体を自動で修復する『祝福(呪い)』は、マキナが継戦出来る状態を維持するために自動で実行される。


 傷が出来れば傷を修復し、骨が折れれば骨を修復する。


 その対象は臓器であろうと神経であろうと例外なく作用し、マキナが戦闘を継続出来る状態へと肉体を強制的に治していく。


 今回のケースはややイレギュラーではあったが、毒による腐食の速度が再生速度を上回ると判断した肉体は、その脅威の根本を対処する方向へ機能を切り替えた。


 シェリーが長時間かけて行っていた毒の解析をわずか数分で完了させると、毒の効果そのものを無効化する抗体を体内で生成し、完全に無力化したのである。


 苦しみながら、死を実感しながら、それでも『祝福』はマキナの肉体を修復し続け、再び戦える状態へと無理矢理引き戻す『呪い』として機能し続けた。


 そんな死地を彷徨いながら、なお揺るがぬ闘志を向けてくる『マキナ(化物)』を前に、『ヴェノム・ストーカー』は生まれて初めて心の底からの恐怖を覚えていた。



「もう毒は効かない。もう毒は使わせない。もうこれ以上、被害は出させない!」



 次の瞬間、マキナは力強く地面を踏み込む。


 周囲の地面は先程吐き出された毒によって深く腐食しており、踏み込みの衝撃に耐え切れず亀裂が走り、そのまま大きく崩落していった。


 足場を失った『ヴェノム・ストーカー』は自重もあって抵抗する間もなく崩れた地面とともに落下し、数十メートル下へと滑り落ちていく。


 ベショ!!という液体特有の重たい音を響かせ最深部へ叩きつけられると、『ヴェノム・ストーカー』は反射的に上を見上げた。


 そこにはシェリーからの合図を受け取り、穴の上空ぎりぎりまで接近しながら炎魔法を構えるシモンとミアリーの姿があった。



「こんなに苦戦したのはホントに久し振りだったけど……この勝負、私()の勝ちだね」



 マキナの姿が穴の縁の陰へと消えた瞬間、二人は互いに呼吸を合わせ、それぞれ魔法名を唱える。



「『上級(ウル)出力強化(レイズ)』!!」



 シモンが魔力の出力を引き上げる強化魔法を発動し、



上級(ウル)炎魔法(フレイム)!!」



 その強化を受け取ったミアリーが、『火魔法(ファイア)』の上位魔法である『炎魔法(フレイム)』を撃ち放つ。


 放たれた炎は一直線に穴の底へと落ち、『ヴェノム・ストーカー』へ直撃した瞬間、目を焼くほどの閃光が炸裂し、次の瞬間には巨大な炎の柱が地の底から噴き上がった。

※後書きです



ども、琥珀です。


本日はこの後19:00頃にもう一度更新しますので、宜しくお願い致します。


本日もお読みいただきありがとうございました。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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