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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
59/62

58.対キメラ⑳(挿絵有り)

挿絵あります

 グラップ達の背後に立っていたのは、先程まで『ヘヴィ・ブロッカー』と死力を尽くした激闘を繰り広げていた男、師団長ガイルだった。


 全身には過酷な戦闘の痕跡が色濃く残っており、その荒い息は完全には整っていないながらも、大地を踏みしめる両足は、しっかりと地に足着いていた。



「ガイル!?もう行けるのか!?」

「えぇ、十分に休ませて貰ったんでね」



 肩で荒く息をしながらも、短く返された彼の言葉には、死線を越えてきた者特有の揺るぎない確かな自信が宿っていたものの、そのやり取りを傍らで聞いていたシェリーは、わずかに表情を曇らせる。



「ですがガイル、一帯には致死の毒が撒かれていますわ。いくら貴方でも、毒を中和せずに突っ込むのは不可能でしてよ。私が同行すれば話は変わりますけれど……」



 先程までの激情とは違う、多少なりとも指揮官としての冷静さを取り戻したのか、シェリーは先程グラップが語った理性的な懸念を口にした。


 マキナが倒れる前方の戦場はすでに濃密な紫の毒霧で満たされており、大地がチリチリと溶ける不気味な音が響いており、無策で踏み込めば肺が焼け爛れ、マキナを救う前に血を吐いて倒れる可能性すらある絶望的な環境だ。



「そこは我々がお力添えします、師団長」



 静かな決意を秘めたその声に、今度はシェリーが勢いよく振り返る番だった。


 背後から聞こえてきた声に目を向けると、そこに立っていたのは、ガイルと共に『ヘヴィ・ブロッカー』と戦った青年、シモン。


 そして、その隣には『スカイ・ブラー』へ最後の一撃を叩き込んだ女性、ミアリーの姿もあった。


 二人ともキメラとの戦いの傷癒えぬ状態にあるはずだが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。



「貴方達……良くぞ無事で……」



 シェリーの震える声に、自然と深い安堵が滲む。


 彼らの実力を信頼して任せたとはいえ、決して心配していなかったわけではない。


 だが二人の無事な姿を確認した瞬間、胸の奥で鉛のように重く溜まっていた緊張が少しだけ解け、シェリーの口元に小さな笑みが浮かんだ。


 シモンとミアリーは一度顔を見合わせ、静かに頷き合い、改めて真っ直ぐにシェリーの目を正面から見据える。



「毒の中和は、ボク達が今から解析しても間に合いませんが……」

「それでも、私達はまだ魔力が残ってます。師団長の負担を減らすことくらいは出来ます」



 その迷いのない言葉を聞いた瞬間、シェリーは二人の決定的な変化をはっきりと感じ取った。


 シモンは元々、優れた魔法技術を持っていたが、自分の力に確信を持てていない脆弱な部分があった。

 ミアリーも同様に高い技術を有しつつ、その能力の高さゆえに他者へ頼ることを苦手とし、孤独な戦いを好んでいた。


 しかし今、シモンの表情には一切の迷いがなく、その瞳には自らの力を信じる確かな自信が宿っており、ミアリーもまた自分の殻を破ったのか、自然に「共に支え合う」という選択を口にしている。


 それは以前の未熟な二人には決して見られなかった変化であり、この変化の持つ大きな意味を、シェリーは誰よりも深く理解していた。


 師団長として何年も彼らを見守ってきた自分でさえ、言葉や訓練で与えることが出来なかったものを、あの『英雄』マキナはたった数分の戦闘の最中で与えてしまったのだ。


 マキナという存在が持つ、周囲の人を変えていく圧倒的な影響力に、シェリーの胸は熱い感動で震えていた。



「シェリー」



 低く鋭いガイルの声に呼ばれ、シェリーはハッと我に返り現実へと引き戻される。


 いまは部下の成長という感傷に浸っている場合ではない。刻一刻とマキナの命は削られているのだ。



「一番動ける俺がマキナ様救出に動く。その間、俺の毒の中和を頼めるか」



 即座に状況と求められる役割を理解し、シェリーは表情を冷静に引き締め、はっきりと答えた。



「可能ですわ。ですが、ここまでの『ヴェノム・ストーカー』の行動を見ますと、未だ何をしてくるか分からない危険性があります」

「……つまり?」



 ガイルが問い返すよりも早く、シェリーは動き出し、魔法使いとしての優雅な服の袖と裾を素早く捲り上げ、邪魔にならないよう端を固く結ぶ。



「私が貴方と共にマキナ様の救出に向かいますわ。その方が直接マキナ様の処置が出来ますので」



 泥臭く戦うためのその決意の言葉に、シモンとミアリーは思わず驚きに目を見開くも、グラップとガイルの二人はただ静かに目を細めるだけだった。


 危険すぎる死地への同行だが、その決断こそがシェリーという誇り高き人物を現しており、最も尤もらしいものだと、歴戦の彼らは理解していたからだ。



「『ヴェノム・ストーカー(あのバケモン)』のスピードは『モア・ウルフ』並みだ。ついて来れんのか?」

「あらお忘れですの?訓練生時代、貴方は一度も私に対人訓練で勝つことが出来なくてよ?」



 極限状態の中で懐かしい話を持ち出され、張り詰めた空気が一瞬だけ緩み、ガイルはバツの悪そうに頭を掻いた。



「真面目に答えますと、私に出来る身体強化の魔法をフルに掛ければついていく事は可能ですわ。ただ過剰な回避などは出来る限り避けたいところですわね」

「俺の後をついてれば、ある程度の安全圏は確保できる。それよか魔力は持つのか?」

「中和を広範囲から対象を絞れば問題ありませんわ。往復で魔力は尽きそうですけれど、最後はシモンとミアリーに任せますので大丈夫ですわ。問題は道中の攻撃の対処でしてよ」



 マキナを救うための時間は一秒たり無駄にすることは出来ず、だからこそ無駄な言葉は全て省き、最前線に迫る問題点だけを次々と洗い出して短い会話のなかで情報を共有していく。



「お前の魔力を俺の剣に纏わせるのはどうだ。直接交戦するわけじゃないから、二、三回対処出来れば十分な筈だ」

「宜しくてよ。ただしあの毒で魔力が乱されますから、纏うのではなく、刃の表面を高速で循環させて弾くようにしますわ。但し、鞘に収めてしまうと効果が切れてしまいます。ですから……」

「抜き身のまま戦えば良いってことだな、任せろ」



 シャキンッ!と鋭い金属音が戦場に鳴り響き、ガイルが大剣を鞘から引き抜く。


 すかさずシェリーが杖を振るうと、ガイルの剣の表面を透明な魔力の激流が覆い尽くし、空気を切り裂くような甲高い風切り音を上げ始めた。


 問題点、懸念点。それらを短時間で完璧に擦り合わせ、わずか一分の間に救出作戦は完成し、最善の形へとまとめ上げる。



「他に問題点は?」

「ありませんわ!!」



 結論は出た。二人は同時に身体を、濃密な毒の霧の向こうで蠢く『ヴェノム・ストーカー』の方へと向ける。



「シモン、ミアリー!!合図を出したら直ぐに攻撃できるように。任せますわよ!!」

「「はいっ!!」」



 二人の若き戦士の力強い返事が響き、シェリーは未来を託すようにしっかりと頷いた。



「すいません、訓練兵長。まだ暫く指揮をたのんます」

「うむ、任された」



 背中を預けるグラップの短い返答には、彼らの覚悟の全てを託す意思が込められており、それを受け取ったガイルは小さく不敵な笑みを浮かべる。



「よぉし!!いっちょ部下達にかっこいいところを見せてやるかシェリー!!」

「望むところですわ!!師団長の座は伊達でないということを見せて差し上げます!!」



 渦を巻く激しい魔力と、限界を超えて燃え上がる闘気。エルゼルク王国が誇る二人の師団長がいま、『英雄』救出のために完全に足並みを揃えた。



挿絵(By みてみん)

※後書きです



ども、琥珀です。


梅雨が明けたのか、晴れの日が増えてきましたね。

ただここから気温の上昇が一気に高まると思いますので、熱中食対策、水分補給や塩分補給は徹底しましょう。

私みたいにぶっ倒れてからでは遅いですからね。私みたいに。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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