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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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54.対キメラ⑯

 戦場には未だ『ヴェノム・ストーカー』が撒き散らした致死の猛毒の匂いが色濃く漂い、粉砕された瓦礫の隙間からは土煙がゆっくりと立ち昇っている。


 その淀んだ空気の只中で繰り広げられているのは、もはや常人の動体視力では到底追うことすら叶わない戦闘光景であった。


 巨大な異形の魔物と真っ向から対峙しているのは、たった一人の『英雄』。


 その小柄な人物が戦場の主導権を完全に掌握し、圧倒的な闘気の存在感で十メートルにも及ぶ巨躯の魔物を手玉に取るように翻弄し続けている。



「『英雄』マキナ様……戦場でご一緒したのはこれが初ですが、ここまでスゴイとは思いませんでしたわ……」

「物理攻撃が効かない中で、これほど立ち回れるとは……経験、知恵、そして工夫……その全てが今のマキナ様を表している」



 魔法師団を率いるシェリーはもとより、これまで過酷な死線を潜り抜け、何度かマキナと共闘してきた歴戦のグラップでさえ、驚愕のあまり開いた口を閉ざすことが出来ない。


 『ヴェノム・ストーカー』が繰り出す、一撃必殺の凶悪な攻撃を紙一重の極小の動作で軽々とかわし、瞬時にその無防備な懐へ深く入り込む。


 そして、スライムボディに対して決定打にならないはずの寸止めの打撃でさえ、衝撃波の反発を利用して確実に敵の行動を制限するための布石として意味を持たせている。


 その一つ一つの洗練された流れるような動きが、果てしない場数と、死地における絶対的な判断力に裏打ちされた戦い方であることを、同じく長く戦場を生き抜いてきた彼らは痛烈に理解していた。



「……自覚はありませんでしたが、魔法師団長になったことで自惚れが生じていたみたいですわ。これは、私も一から学び直すくらいの気持ちで訓練し直さなくていけませんわね」



 並の戦士であれば、己と『英雄』との間にある果てしない実力差を見せつけられ、絶望して自信を失ってもおかしくはない。


 しかしシェリーは眼前に突きつけられた絶対的な差を真っ直ぐに直視したうえで、折れることなく自身を激しく奮い立たせ、部下を率いて立場を守る者としての気高い矜持を働かせていた。


 それでもなお、自身とマキナが立っている世界の高さの違いをはっきりと実感したのは事実であり、シェリーの青ざめた頬を一筋の冷たい汗が静かに伝い落ちていく。


 背後にいる彼らの深い驚愕を他所に、マキナは攻撃の手を一瞬たりとも休めることなく、疾風のごとく戦場を駆け続けていた。



「(この2回の攻撃で、完全に意識を向けることは出来たはず!!このままもう一度私から攻勢を仕掛ける!!)」



 足元の岩盤を粉砕するほどの勢いで地表を蹴り、先ほど敵が吹き飛ばされていった方角へ向かって一直線に跳躍し、『ヴェノム・ストーカー』への猛烈な追い討ちを仕掛ける。


 その恐るべき速度での接近を即座に察知した『ヴェノム・ストーカー』は、蠍の尾を突き刺す軌道ではなく、自身の領域への接近そのものを力任せに弾き飛ばすための、強烈な横薙ぎの一撃を大きく振るう。


 空気を引き裂く轟音が戦場に響き渡るが、マキナはその巨獣の防衛反応の軌道を完全に読み切っていた。


 暴風が吹き荒れる空中で、予め余力を残していた身体を捻り、重力を無視するかのような鮮やかに身のこなしで尾の攻撃をすり抜け、最短距離で『ヴェノム・ストーカー』の懐へと深く潜り込んだ。



「(さっきのは牽制を兼ねての威嚇だったけれど、今度はもう少し攻撃的に……コアの部分に衝撃を絞る!!)」



 マキナが繰り出す打撃の動作自体は先ほどの寸止めと変わらず、限界まで引き絞った右の拳を真っ直ぐに突き出し、ゲル状の皮膚に触れる直前でピタリと止める。


 しかし、その直後に魔物の体内で生じる破壊の衝撃の質は、先ほどとはまるで違っていた。


 先ほどの衝撃波は、スライムボディを伝って肉体の全体へと波紋のように広がるよう、意図的に力を拡散させていた。


 だが、今度はその真逆である。


 寸前で拳をわずかに引き戻す微細な動作を瞬時に加えることで、前方へ解放されるはずの爆発的なエネルギーを一点へと無理やり圧縮させた。


 収束した凄まじい圧力が逃げ場を完全に失い、目に見えない強固な鋼の杭のようになって、前方へと鋭く突き刺さる。


 それは表面の肉体を叩くだけでは終わらず、物理攻撃を無効化するはずの半透明なスライムボディを通り抜けるように内部へ深く浸透し、最深部に隠された『ヴェノム・ストーカー』のコアを直接力任せに揺るがせた。



『シ゛ャ゛ッ !!』



 自身の命を根底から脅かす未知の衝撃を内部に受け、『ヴェノム・ストーカー』の不気味な瞳の色が、警戒から明確な狂気へと一瞬で変わる。


 これまでマキナの打撃を恐れて距離を取ることを優先していた巨体が、ここにきて初めて、生得の狂暴な攻撃の意思をむき出しにした。


 大質量を誇る巨大な前腕が天高く振り上げられると、そのままマキナを圧殺せんばかりに、凄まじい風圧を伴って叩き下ろされる。


 その大雑把な質量攻撃の動作を冷静に見切り、マキナは軽く後方へ跳躍してこれを回避する。


 しかし、その着地先を正確に狙うようにして、死角から再び蠍の鋭い尾が迫っていた。


 空中で体勢を崩した状態から、もう一度連続で跳躍して避けるだけの時間的な余裕はないと瞬時に判断し、マキナは着地と同時に両脚の力を完全に抜いた。


 武術に通じる完璧な『膝抜き』によって、マキナの身体は重力の枷を外されたように真下へと落下し、同時に後方へ大きくのけ反ることで迫り来る尾の軌道を、紙一重の差でやり過ごす。


 しかし体勢を戻して反撃に転じるよりも早く、今度は目の前に広がる巨大な顔面そのものが、大口を開けてマキナを丸ごと噛み砕こうとする捕食の動きが視界を塞いだ。


 強烈な毒の口臭と、空気を噛み砕く鋭い牙が迫る最中、仰け反った不安定な体勢から両手を頭の横に添えるようにして冷たい地面に鋭く突く。


 それを頑強な支点として瞬時に作り出すと、そのままバネのように身体を大きく回転させ、後方へ流れるように転回しながら迫り来る巨大な顎を鮮やかに躱しきった。


 接近したままでは追撃は避けられないと考え、マキナはそのまま一度『ヴェノム・ストーカー』から距離を取ることを試みる。



「(上手く煽れたかな。私に対して限定で暴れてくれれば計画通り……)」



 素早く無傷で着地を決め、『ヴェノム・ストーカー』の次の動向を確認するべく鋭い視線を向けた、まさにその時であった。


 マキナの研ぎ澄まされた視界の先で、ほんの僅かに、『ヴェノム・ストーカー』の巨大な体内で何かが不気味に蠢く。


 ドロドロとしたゲル状の身体の奥深くで、透明な気泡が一つ、ぷくりと異様に大きく膨らんだのだ。


 それは瞬きをする暇すらない、ほんの一瞬の出来事であった。


 それが一体何を引き起こす前兆なのかを確認するよりも早く、『ヴェノム・ストーカー』の大きく裂けた口内から、極限まで圧縮されたおぞましい毒液が、音を置き去りにするほどの凶悪な弾丸となって真っ直ぐに射出された。

※後書きです



ども、琥珀です。


予定になかった急遽な更新でしたが、何とか形になりました……


ただ、一話分無理やり詰め込んだので、ストックの数字も全部ズラさないといけないという地獄の作業が……



がんばります……


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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