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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
54/62

53.対キメラ⑮

『シ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛!!!!』



 マキナの全身から放たれる凄まじい闘気の圧に耐えかねたのか、『ヴェノム・ストーカー』は激しい雄叫びを挙げ、剥き出しの敵意でマキナを激しく威嚇し始めた。


 引き裂くような咆哮とともに周囲の地面へ毒液が飛び散るが、マキナはその場からピクリとも微動だにしない。


 これが他の通常の魔物であれば、その隙を突いて瞬時に仕掛けていたかもしれない。


 しかし『ヴェノム・ストーカー』が相手では戦いの事情が大きく違ってくる。


 まず大前提として、マキナの最大の武器である徒手空拳は通用せず、直接攻撃を仕掛けても猛毒によってダメージを負うのはマキナの肉体だ。


 加えて『ヴェノム・ストーカー』は『モア・ウルフ』の驚異的な機動力を有しており、線の動きを得意とする『スカイ・ブラー』に対し、瞬間的な跳躍や急激な加速といった点の動きのキレは『ヴェノム・ストーカー』の方が遥かに優れる。


 さらに『ヴェノム・ストーカー』の全長はおよそ十メートルにも及ぶため、この巨体で高速移動を繰り出されれば、いかにマキナといえど完全に回避しきれない局面も起こり得る。


 だからこそマキナには、より冷静で合理的な戦況判断と、瞬間的な決断が常に求められていた。


 しかし一方で、ただ攻撃を待ち続けるのも悪手で、集めたヘイトが散る問題に加え、現状のマキナに決定打が無いことを敵に悟られてはならない。


 それをひとたび悟られれば、『ヴェノム・ストーカー』はマキナに対しても、これまでの兵達と同じようにただ力任せに暴れ回ればよいと理解してしまう。


 だからマキナは、あえて初手を牽制の攻撃に使った。


 直接的なダメージこそ与えられないが、何を仕掛けてくるか分からないという不気味な印象を与えることで、『ヴェノム・ストーカー』の行動と思考を縛るためだ。


 その狙いは見事に功を奏し、『ヴェノム・ストーカー』はマキナを強く警戒し、すぐには攻めへ転じようとはしない。


 そしてここで、更に先手を打って動いたのはマキナ。


 正面から愚直に『ヴェノム・ストーカー』へ向かうのではなく、破損した周囲の瓦礫を影に巧みに利用し、敵の視界から完全に消えるように素早く動き出したのだ。


 しかし『ヴェノム・ストーカー』もそれだけで動揺するほど鈍い存在ではなく、マキナが移動した方角へ向けて『テイル・スコーピオ』の鋭い尾を突き出し、正確にマキナを狙う。


 その動体視力は極めて確かなもので、鋭い尾が空気を貫いた先では、マキナが身を屈めてこれを鮮やかに回避していた。


 対処できる、と『ヴェノム・ストーカー』の本能がそう確信した次の瞬間、突如としてその視界の一部が真っ暗に暗転する。



『シ゛ャ゛!?』



 『ヴェノム・ストーカー』の視界からは全く見えなかったが、その頭部には巨大な瓦礫の一部が衝突しており、それによって顔面の一部が破壊されていた。


 倒壊した建物の影に隠れたマキナは、移動の途中で拳大ほどの瓦礫を密かに拾い上げ、それを気付かれないよう上空へ高く放り投げていた。


 そして、マキナの動きだけを執拗に追っていた『ヴェノム・ストーカー』の視界の死角から、放物線を描いて落下した重い瓦礫が、その顔面を激しく削るようにして直撃したのである。


 無論、瓦礫は『ヴェノム・ストーカー』が纏う強烈な毒性によって即座に融解し、崩れた顔面もまた、溶けたスライムが蠢くように集まり始め、瞬く間に修復されていく。


 だが、その再生が行われる一瞬、ほんの僅かに視界を失ったその刹那の隙を突き、マキナの身体はすでに眼前へと肉薄していた。



「(拳を直接ぶつけちゃダメ。でも『ヴェノム・ストーカー』の意識に確実に刺さるように……!!)」



 限界まで引き絞られ、風を裂いて振り抜かれた拳が、『ヴェノム・ストーカー』の目の前でぴたりと静止する。


 その一撃は、決して不発の空振りなどではない。


 肉体強化の魔法によって引き上げられた膂力が、寸止めの瞬間に一点へと圧縮された事で行き場を失い、それが凶悪な衝撃波となり、爆ぜるように前方へと解き放たれた。


 空気の塊そのものが叩きつけられたかのような、質量を持った重い衝撃が、『ヴェノム・ストーカー』の巨体を容赦なく激しく揺さぶる。



『────ッッッ!?』



 無論、この剥き出しの衝撃波による直接的なダメージ自体は与えていない。


 しかし、その精神的な効果は決して小さくはなかった。


 『ヴェノム・ストーカー』の肉体は柔軟なゲル質で構成されているため、内部の振動や急激な圧力の変化に対して、通常の生物よりもはるかに敏感である。


 水やスライムのような密度の高い流体の中では、振動が空気中よりも速く、しかも減衰しにくいという物理的な性質を有しているためだ。


 さらに言えば、全身が均一なスライムボディであるということは、その肉体の全てが緻密な感覚器官として機能しているということでもある。


 つまり今、『ヴェノム・ストーカー』はマキナの拳という絶対的な凶器の気配を、皮膚どころか全身の核に至るまで叩き込まれたに等しかった。



『シ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛!!!!』



 ゲル状の全身を貫く、かつてない強烈な悪寒を本能で察知した『ヴェノム・ストーカー』は、その巨体が地面を深く抉るほどの勢いで反射的に大きく後方へ距離を取る。


 その瞳には警戒心を超えた、明確な恐怖の色が鈍く滲んでいた。



「(やり過ぎたかな……?)」



 マキナの拳が放った圧倒的な圧を全身で感じ取った『ヴェノム・ストーカー』は、明らかにこれ以上の接近を恐れており、当初の目的であるヘイトそのものは十分に引きつけられている。


 しかし、このままお互いに睨み合いの膠着状態になってしまうと、敵の出方や必要な情報が一切得られない。


 ほんのわずかな逡巡ののち、マキナは再び意を決したようにその拳を力強く握りしめた。


 指の骨が軋むほどの力で拳を握り込み、片足を膝の高さまで高く持ち上げると、ドンッ!と腹の底に響くような重い足音が一帯に轟き、マキナは地面を力任せに激しく蹴り付けた。


 その凄まじい衝撃は一度では終わらず、ドンッ!ドンッ!と何度も何度も力強く踏み抜くようにして地面を叩きつけられ、その度に地表が激しく震え、無数のひび割れが四方へと広がっていく。


 最初こそ、『ヴェノム・ストーカー』はその威嚇の音に先程の衝撃波の恐怖を重ねて過剰に警戒していたが、次第にその様子が変化し始める。


 その胸の奥に深く潜んでいた『モア・ウルフ』の凶暴な闘争本能が、マキナの刻む足音によって激しく刺激されたのか、やがて喉の奥から低く地鳴りのような唸る声を漏らし始めた。



「(よし、『モア・ウルフ』の獣の特性もちゃんと有してた。これならもう少し動かせる)」



 挑発の踏み込みをピタリと止め、マキナが再び意識を限界まで集中させると、次に動いたのは『ヴェノム・ストーカー』の方だった。


 背後で不気味に蠢いていた蠍の尾が、鞭のように鋭く跳ね上がり、そのまま自身の最大の矛でもある『テイル・スコーピオ』の一撃でマキナを牽制する。


 一瞬で間合いに迫る尾の軌道を見切り、マキナは流れるように身を屈めてそれを最小限の動きで回避する。


 しかし、その単調な回避動作はこれで三度目。


 マキナの回避の動きを完全に読み切っていた『ヴェノム・ストーカー』は、間髪入れず『モア・ウルフ』の爆発的な脚力で地面を蹴り、凄まじい質量と速度でマキナの肉体へと肉薄する。


 だがこの局面においても、マキナの集中力は微塵も途切れていない。


 迫り来る巨大な影を視界の端に克明に捉えたまま、目の前の敵ではなく足元の地面に向かって拳を振り下ろした。


 先ほどの連続の踏み付けによって無数の亀裂が走っていた地表へ拳を叩き込むと、その破壊の衝撃が地中へと一気に伝わり、岩盤が地表から爆ぜるように上方へと噴き上がる。


 地中で圧縮された衝撃波が、剥がれた岩塊とともに前方へ真っ直ぐ奔り、至近距離まで接近していた『ヴェノム・ストーカー』の顎へと直撃する。


 その威力は凄まじく、その巨体が大きく()の字に折れ曲がり、そのまま後方へと激しく弾き飛ばされていった。


 その信じられないようなその圧倒的な戦闘光景を、グラップ、シェリー、そして背後に控える兵団の一行は、ただ言葉を失って呆然と見つめていた。

※後書きです



ども、琥珀です。


先ずお知らせですが、本来は今週は残り金曜日の更新のみでしたが、諸々ありまして明日も更新することにしました。

なので明日も更新します!


気付いたらもう七月。ジメジメとした梅雨はまだ続き、それを越えても暑い時期が始まりますので、皆様体調にはお気を付けて下さい。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時ごろを予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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