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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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50.対キメラ⑫

 『スカイ・ブラー』の肉体が完全に崩れ去ったのを見届け、マキナは胸の奥に溜め込んでいた息を吐き出した。



「マキナ様……」



 その時、背中に背負われたミアリーが遠慮がちに声をかけてくる。



「ど、どうされました?まさか、どこか怪我を!?」

「い、いえ……あの……」



 プルプルと身体を震わせながら、ミアリーはか細い声を絞り出した。



「鎧が……痛いです……」

「ご、ごめんなさい!!」



 慌てて紐をほどいてミアリーを解放すると、ミアリーはその場で小さく息をつき、安堵と痛みが入り混じったように表情を歪めた。


 心なしか、その瞳はうっすらと涙で潤んでいる。



「(……すごい汗)」



 改めてミアリーの様子を見つめると、額や頬には玉のような汗がいくつも浮かび、首筋へと伝っていた。


 それは痛みによるものだけではなく、先程まで読み取れなかった表情にははっきりと疲労の色が滲み、口元からは微かに乱れた呼吸が漏れている。



「(やっぱり緊張してたんだ。いや、それだけじゃない。未知の魔物を相手に、『英雄(わたし)』と一緒に一瞬の判断を求められる戦いをしてたんだもんね。肉体よりも精神をかなり疲弊させてたはず)」



 実際、戦闘中に痛みを訴えなかったのは、それを上回るほどの緊張が彼女を支配していたからで、戦闘が終わった事で一気に表面化したのだろう。



「(もしかしたら、表情が出ないんじゃなくて、出さないように努めてくれてたのかな)」



 兜の奥から柔らかな視線を向けながら、マキナは静かに声をかける。



「ミアリーさん、ありがとうございました。貴方の正確な魔力制御と精密な魔法技術があっての勝利でした」



 マキナの言葉に、ミアリーの瞳に一瞬だけ微かな光が宿るも、直ぐにそれは消えて、再び無機質な静けさへと戻っていった。



「……いえ、私はマキナ様に言われた通りのことをしただけです。それ以上のことは何も……」



 その返答に、マキナは自分の姿を重ねた。


───当然のことをしただけ

───使命を果たしただけ

───出来ることをやっただけ


 数多くの人々に声を掛けられても、マキナはそう答えることしかしてこなかった。


 魔物を倒すことも、魔族を討つことも、自分にとってはごく当たり前の行為だと思っていたからだ。


 だが、多くの人々との出会いが、その価値観を少しずつ無意識に変えていた。


 討ち倒す使命そのものは変わらないものの、それが当たり前だと言い切るのは、どこか違うのではないか、と。


 自身が傷つくことを嘆き、一人で抱え込むことを叱ってくれたグラップ。


 圧倒的な魔法の才で、決して自分だけが特別ではないと教えてくれたディジー。


 そして、マキナを『英雄』ではなく、一人の人間として見てくれたリベル、ラヴィス、イグニヴァの三人。


 そうした出会いと気付きが、マキナの中に確かな変化をもたらしていた。


 今回、種を早期に発見できたのも、一人で解決することに固執せず、力を貸してくれる人々の存在を受け入れたからこそだ。


 結果としてキメラは誕生してしまったが、その後の対処もガイル、シモン、ミアリーたちを頼ることで着実に解決へと向かっている。


 それは、かつてのマキナ——すべてを独力で背負おうとしていた自分では成し得なかったことだろう。


 だからこそ今のマキナには、自然と口にすべき言葉が思い浮かんでいた。



「確かに、貴方は貴方の出来ることをしたに過ぎないのかもしれません」



 静かに告げられたマキナの言葉に、ミアリーの表情が心なしか陰っていく。



「でもそれは、それが貴方の強みだったから、私は貴方の力を借りたんです」



 続けて紡がれた言葉に、ミアリーは戸惑うように顔を上げる。



「私は魔法がろくに使えません。風の魔法も、音の魔法も、空を飛ぶ魔法なんて以ての外です。だから先程のような相手には、身体を酷使して強引に戦うしかありませんでした」



 マキナがそれを可能にする身体能力を持っていて、その度に、戦いの後でマキナが傷だらけになっている姿を、ミアリーは知っている。


 実際今もマキナは目の前で傷付きながら戦っていた。



「でも今は貴方がいました。貴方が『スカイ・ブラー』を落としてくれたから、私の拳が届いた。貴方が超音波を跳ね返してくれたから、討伐することが出来た。その結果は揺るぎません」

「ですがそれは、マキナ様がいてくれたからからこそで……」



 なおも自分を低く評価しようとするミアリーに、マキナはゆっくりと顔を向けた。



「そうです、私がいたからです。同じように、貴方がいてくれたから、と私は言っているのです」



 その言葉に、ミアリーは大きく目を見開く。



「同じことです、ミアリーさん。私と貴方、出来ることを尽くした二人がいたから対処できた。だから勝つことが出来た。出来ないことを嘆くよりも、出来たことを讃えましょう。結果がこうして示されているのですから」



 ミアリーは無意識に自身のロッドを強く力を込めていた。



「『だけ』だなんて言わないで下さい。貴方と私は、やれることが違います。でもお互いの力を尽くせば、こんな強敵であっても対処出来るんです。そのことを、忘れないで下さい」



 ミアリーは必死に言葉を紡ごうとするが、口を開くたびに嗚咽が込み上げ声にならないため、代わりに何度も頷き、強く唇を噛みしめた。


 それに応えるようにマキナも小さく頷くと、その直後、少し離れた場所から大きな衝撃音が響き渡る。


 反射的に視線を向けると、その先では最後のキメラである『ヴェノム・ストーカー』が荒れ狂っていた。



「あと一体……行かなくては」

「わ、私も一緒に……」



 マキナが身体を向けるとミアリーも後を追おうとするが、強い目眩に襲われ足元が大きく揺らぐ。


 すぐさまマキナが肩を支えたが、ミアリーの顔色は明らかに青ざめていた。



「先程の『ウル(上級)反音魔法(レゾン)』……かなりの出力でしたが、ミアリーさんが現在出せる瞬間出力を超えて発動されましたね?魔力回路に過負荷がかかっています」



 ミアリーは何も答えなかったが、黙り込んだままの様子が指摘の正しさを物語っており、同時に『スカイ・ブラー』の超音波がそれだけ強力であった証でもある。


 自分を守るためにそこまで無理をしてくれたのだと理解し、マキナは胸の奥で静かに感謝した。



「ミアリーさんは暫くここで休んでいて下さい。少しすればガイル師団長達が到着するはずです。そこで合流してください」

「い、いえ……大丈夫です。まだやれます」



 元の無機質な表情がかえって裏目となり、その言葉が無理から出たものであることは一目で分かる。


 これまでのマキナであれば、その熱意に押されて受け入れていたかもしれないが、今は違う。


 誰かに頼ることの意味を理解したマキナは、心を引き締めてミアリーに向き直った。



「ミアリーさん、ここで無理をして戦闘に参加したとして、足を引っ張ることが無いと確実に言えますか?そのほんの僅かな隙が致命的にならないと、断言できますか?」



 先程よりも強い語気に、ミアリーは目を伏せてしまう。


 だがその意図は伝わったのか、握りしめていたロッドをゆっくりと膝元まで下ろし、戦闘態勢を解いた。


 それを見届けると、マキナは再び柔らかな声色に戻る。



「ミアリーさん、悔しい気持ちは分かります。ですがここで無理をして、万が一命を落とすようなことがあれば……ここでの勝利が無意味になってしまいます。それでは本末転倒でしょう?」



 口元を僅かに引き結びながらも、ミアリーはその正しさを理解し、小さく頷いた。



「貴方の力は、この先も必ず必要になります。貴方を失うことは、エルゼルク王国にとって大きな損失です。だから今はしっかり休んで、また力を貸して下さい」



 ミアリーの肩にそっと手を置き、静かに諭す。



「一緒に掴んだ勝利を無駄にはさせません。必ず『ヴェノム・ストーカー』を倒し、エルゼルク王国を守り抜いてみせます。だから、ここから先は任せて下さい」



 最後にそう告げると、マキナは肩から手を離し、背を向け、次の瞬間、最後のキメラである『ヴェノム・ストーカー』に向けて大地を蹴る。


 その背を見送りながら、ミアリーは必死に自分を納得させようとするも、その背を追えない己の弱さに肩を震え続けていた。

※後書きです



ども、琥珀です。


以前の私は、寝るのが0時過ぎでした。

それが普通だったんですが、ある契機を経て、今は遅くても22時には寝るようにしています。


理想の睡眠時間は人それぞれですが、私は早く寝ないと寝る時間が足りなくなる!という脅迫概念から解放されて、寝付きがよくなりましたね笑


睡眠でお悩みの皆様、そういう目的でちょっと早寝、してみませんか?


……何の後書きなんでしょうね、これ


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝七時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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