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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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43.対キメラ⑤

 マキナ達が固唾を呑んで戦闘を見守る中、『ヘヴィ・ブロッカー』と対峙し続けるガイルもまた、その本質を徐々に掴み始めていた。



「(……見えてきた。コイツ単体なら大した相手じゃねぇ。攻撃力は高いが鈍重。当たらなきゃどうってことはない。厄介なのは異常な防御力だが、それだけなら倒さずとも対処はできる)」



 ゆっくりと振り向く『ヘヴィ・ブロッカー』の動きに合わせ、ガイルは滑るように位置を変え、再び死角へと潜り込む。



「(だが、残り二体のキメラと合流されると面倒だ。回避に専念できなくなる上、こっちの攻撃はコイツに防がれる。かといってコイツを崩そうと集中すれば、他の二体に背後を取られる。要するに、コイツが要になるわけだ)」



 振り返りきる前の一瞬を突き、再び斬り込むも、何度繰り返しても、ガイルの刃は無慈悲に弾き返された。



「(二体から引き離せたのは運が良かった……だが裏を返せば、ここで仕留めなきゃ次はねぇ)」



 決断したガイルは、あえて距離を取る。それまで刀身を見せるように構えていた剣を引き、切先を真っ直ぐ敵へ向ける刺突の構えへと移行した。



「少し、攻め方を変えてみるか……」



 足の爪先に力を込め、深く息を吸い込む。肺の奥まで空気を満たし、意識を一点に収束させる。



「斬ってダメなら───」



 腰を落とし、姿勢をさらに沈め、握り締めた剣に力が宿る。



「突いてやらぁッ!!」



 溜め込んだ力を一気に解放させ、地面を蹴った瞬間、弾丸の如き速度で踏み込んだことで土埃が後方へ噴き上がり、その剣先が『ヘヴィ・ブロッカー』の首元へと突き立てられる。



 ────ギィィン……!!



 響いたのは、冷酷なまでに硬質な金属音。


 舞い上がった土埃が晴れると、そこにあったのは確かに首元へ届いた、ガイルの剣。


 だが刃は一切食い込まず、皮膚一枚傷つけることは叶わず、逆に跳ね返された衝撃が腕を襲い、手甲の隙間から血が滲み出していた。



「クソッ……斬っても突いても通らねぇのかよ……!」



 その瞬間、わずかに生まれた間合いと隙を逃さず、『ヘヴィ・ブロッカー』が初めて明確な反撃に転じた。



「ちっ!!」



 痺れる腕を無理やり動かし、ガイルは後方へ跳ぶも回避は僅かに間に合わず、鎧の端を爪の先が掠める。


 次の瞬間、常識を超えた衝撃が全身を貫き、骨が軋み、内臓が揺さぶられ、視界が白く弾け、ガイルの身体は、紙切れのように宙へ吹き飛ばされた。



「師団長!!」



 兵の一人が思わず叫ぶも、ガイルは空中で身を翻しながら着地すると、片手を軽く上げてそれを制した。



「大丈夫だ。待機継続」



 飛び出しかけていた姿勢を無理やり押し留め、兵は歯を食いしばってその場に踏みとどまる。


 対するガイルは、膝をついた姿勢のまましばらく動かず、肉体の回復に努めた。



「(爪先が掠っただけ……それだけでこんなダメージを負うのかよクソッタレ)」



 胸中で毒づきながら、呼吸を必死に整え、ゆっくりと立ち上がる。



「馬鹿げた攻撃力だが……当たらなきゃいいだけだろ」



 ガイルは先程よりも更に気迫を増し、剣を構え直す。



「(だが、このままじゃジリ貧なのは変わらねぇ。俺の体力だって無限じゃない。回避し続けながら削る戦いにも限界がある……頼むぜ、お前達)」



 振り返りはしなかったが、背後に感じる気配へと静かに意識を向け、兵たちへ可能性を託す。


 その想いに応えようと、兵士たちは必死に打開策を巡らせるが、決定打となる結論は未だ見出せずにいた。



「あの装甲の内側に魔法を通すのはどうだ」

「師団長の突きでさえ傷一つ付かない外皮だぞ。俺達の魔法で通用するとは思えん」

「なら超振動で内部から破壊するのは?」

「『グラウム・ビースト』の層までは届くかもしれんが、その内側で『ストーン・タートル』の甲羅を重ねられたら終わりだ」

「クソ……!じゃあどうすりゃいいんだ!!」



 打つ手の見えない状況に焦燥を募らせる兵士たちをよそに、マキナの脳裏には一つの可能性が浮かび上がっていた。



「『グラウム・ビースト』の堅牢な外皮……『ストーン・タートル』の強固な装甲……あの強烈な突きさえ通さない硬度……それなのに、どうして……」



 側にいる兵士達にも届かないほどの小さな声で、マキナはぶつぶつと呟きながら、なおも観察を続けていた。



「『グラウム・ビースト』の外皮は、関節部分を柔軟にすることで可動域を確保していた……でも『ヘヴィ・ブロッカー』は、剥き出しだったはずの首元を攻撃しても弾いた……そんなことが可能なの……?」



 その時、ようやく一人の兵士がマキナの独り言に気付き、そっと視線を向ける。



「ま、マキナ様?何かお気付きになられたのですか?」



 その声すら耳に入らないほどの集中力で、マキナはなおも推察を巡らせていく。



「『グラウム・ビースト』の特性と弱点を補うために、関節部分へ『ストーン・タートル』の甲羅を都度展開しているんだと思ってた……でももし違うとしたら……甲羅を別の形で使っているのだとしたら……」



 周囲の兵士たちも次第に異変に気付き、互いに顔を見合わせたその瞬間、マキナはハっと顔を上げ、そのまま兵士達の方へと向き直った。



「あの、お三方の中に魔法が使える方はいらっしゃいますか?」



 あまりに突然の問いに兵士たちはわずかに戸惑うが、そのうちの一人がおずおずと手を挙げる。



「シモン・カガリー、二級魔法使いです」

「専門は?」

「バッファーですが、ハイレベルでなければ、概ね全分野対応できます」



 その言葉に、マキナは思わず感心してしまう。専門外の魔法を扱える者は決して多くはないからだ。


 この世界には様々な役職が存在するが、その中で唯一『魔法使い』だけは、等級と専門性という二つの要素が重なり合っている。


 魔法は単なる鍛錬だけで成り立つものではなく、何よりも才覚が大きく左右する世界であり、同時に、その力を世のために用いる者もいれば、己の欲のために悪用する者もいる。


 等級とはすなわち、その安全性と信頼性、そして才覚の高さを示す指標と言えるだろう。


 魔法使いと名乗れるのは、最低位である四級の称号を得てからになり、最高位の特級ともなれば、三代先まで困らぬほどの財と権力を得るとさえ言われている。


 だが現存する特級魔法使いはわずか二名。


 この制度が始まって以来でも三名しか存在していない事実から、その階級がいかに狭き門であり、常人離れした才を求められるかが分かる。


 一般に一級へ到達すれば成功、二級であっても十分優秀とされるため、目の前に立つこの兵士も疑いなく優秀な魔法使いであることは間違いない。


 さらに魔法使いには複数の系統が存在する。


 味方の治癒や状態異常の回復を担う『ヒーラー』、能力の強化・弱体化を操る『バッファー』、そして攻撃や防御を司る『ソーサラー』の三種である。


 シモンの言う通りなら、彼は敵を弱体化させるか味方を強化する魔法を得意とする魔法使いだ。


「『防御力強化(プロテス)』の魔法は?」

「安定して使えるのは『アル』までですが、短時間であれば『ウル』も可能です」

「『ウル』を?素晴らしいですね」



 マキナの率直な感嘆に、シモンはわずかに照れた表情を浮かべた。


 一部の例外を除き、魔法には初級から最上級までの四段階が存在する。


 初級は魔法名のみであり、そこから順に『中級(アル)』、『ウル(上級)』、『オル(最上級)』と格付けされる。


 オル級は莫大な魔力と極めて繊細な制御を要求され、習得は極めて困難であるため、多くの魔法使いが到達を目指すのはウル級となる。


 それとて決して容易ではなく、少なくとも基礎となる魔法を詠唱破棄で発動できるほど極めなければ、アル級にすら届かない。


 それにも関わらず、短時間とはいえウル級の発動が可能だと言い切った事実だけで、彼の技量の高さは明らかだ。


 魔法に詳しくないマキナでさえ理解できるほどの実力であるからこそ、彼女は素直に感心していた。



「ですが『プロテス』をどうされるのですか?『ヘヴィ・ブロッカー(キメラ)』の攻撃ダメージを軽減することは出来るかもしれませんが、肝心の攻撃が通らないのでは……」

「いいえ」



 シモンの言葉を、マキナははっきりと否定した。



「もし私の考えが正しければ、貴方の魔法で『ヘヴィ・ブロッカー』を倒すことが出来るはずです」



 兜越しでも伝わる確信に満ちた声音に、シモンは緊張でごくりと喉を鳴らした。

※後書きです




ども、琥珀です。


創作秘話

今話から登場したシモン・カガリーは、この後の5.6話くらい書いてから急遽名前を付けました


最初は彼、で統一していたのですが、途中から書いてる私が「?」となってしまったのと、この後の展開で別キャラが名前出すのにシモンはつけないのか?と思い、5分くらいで名付けました……


創作は臨機応変に……


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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