表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
43/61

42.対キメラ④

 『ヘヴィー・ブロッカー』は巨躯ゆえに極めて鈍重で、一歩踏み出すだけで大地が軋み、数秒という重い時間が流れる。


 対してガイル・ランバットは、四十を目前にした年齢を微塵も感じさせぬ機敏さで、その巨体の死角を縫うように翻弄し続けていた。


 だが、勝敗を分ける決定的なダメージだけは、まるで通らない。


 全身のあらゆる部位を斬り刻む度に、剣は鋭い金属音と共に弾かれ、分厚い外殻に傷一つ刻めないまま跳ね返されてしまう。



「(なるほどな……全身は『グラウム・ビースト』の装甲。唯一の弱点だった関節部も、『ストーン・タートル』の甲羅を展開して補強してんのか。隙が無いわけだ)」



 刃が通らぬ状況でもガイルの眼差しに焦りは無く、むしろ未知の強敵を前に、内側から昂る熱を愉しんでいるようですらあった。



「いいねぇ。姿を消すだの、刃を逸らすだの、小賢しい魔法を使う魔族(やから)とは散々やり合ってきたが……こういう真正面からの怪物は久しぶりだ」



 剣の腹を軽く拭いつつ、その声音には、戦場に生きる者だけが持つ歓喜が滲んでいた。



「師団長!!」



 背後から、息を切らした三名の兵士が駆け寄る。



「遅れました。我々は何をすべきでしょうか!」



 ガイルは一瞬だけ彼らを振り返り、すぐに視線を『ヘヴィー・ブロッカー』へ戻した。



「今はまだ何もするな、待機」

「し、しかし……!!」



 兵士は言葉を詰まらせるものの、ガイルはそれを見越したように続ける。



「奴の防御力は規格外だ。魔法も物理もまともにやっても通用しない。下手に手を出しても命を捨てるだけだ」



 直前まで戦いを見ていた兵士たちは、その言葉の重さに息を呑む。



「だから視ろ、俺と奴の戦いを。動き、癖、反応、全てを見極めろ。そして活路を見出せ。力で通らないなら知恵で崩せ。それが、今お前たちに出来る唯一の戦いだ」



 それは、部下の想いを切り捨てず、それでいて最大限に活かす師団長としての覚悟が込められた言葉。



「は、はい!!」



 兵士たちは強く頷き、恐怖を押し込みながら目を見開いた。今この瞬間から、自分たちもまた戦場の一員なのだと悟ったからである。


 ガイルが再び剣を構え、踏み出そうとしたその瞬間、不意に足を止めると、もう一度だけ背後を振り返った。



「あ〜それともう一つ。悪ぃが観察はマキナ様の側でしてやってくれ」



 思いがけない指示に、兵士たちは顔を見合わせた。



「それは……動けないマキナ様をお守りするという意図でしょうか?」

「いやいや、そうじゃない。ていうか多分、マキナ様はもう動ける」



 あまりにも予想外の言葉に、兵士たちは声も出せず固まった。


 『ヘヴィー・ブロッカー』の推定体重は五トンを超える。あの巨体に押し潰されれば、常人なら即死は免れない。


 生きているだけでも奇跡だというのに、すでに動けると言われては、理解が追いつかないのも無理はなかった。



「し、しかし……では何故、マキナ様のお側で?」



 だからこそ、兵士達にとっては当然の疑問である。



「あー……恐らくだが、彼女は放っとくと身体が動くタイプだ。そうなりゃ、またあの化け物に向かって行きかねい」

「……はぁ、しかしそれがマキナ様の使命では?」

「おいおい」



 その言葉に、ガイルの声色がわずかに低くなる。



「マキナ様の使命は平和をもたらすことだ。魔物や魔族との戦いは、その過程の一つに過ぎない。だが今、魔物はどこで暴れている?」

「それは……エルゼルク王国内で……あ……」



 言いかけて、ようやくガイルの意図に気づいたのだ兵士達はハッと息を呑んだ。



「国外はともかく、国内に侵入した魔物の討伐は俺たちエルゼルク王国兵団の仕事で使命だ。マキナ様は確かに英雄だが、何でもかんでも頼るな。彼女の立場は義勇兵に近い。そこを履き違えるな」

「は、はい!!申し訳ありません!!」



 兵士は深く頭を下げた。叱責ではなく、責務を思い出させる言葉だった。



「分かったら行け。マキナ様には俺の戦いを見ておくよう伝えてある。お前らは観察しつつ、助言を貰いながら攻略法を探せ。いいな?」

「は、はい!!」



 兵士たちは力強く応え、すぐさまガイルの元を離れると、土煙の向こうで膝をつくマキナのもとへ駆け寄る。



「マキナ様、お側を失礼致します!!」

「えっ!?あ、はい」



 突然三人に囲まれ、マキナは思わず戸惑いの声を漏らすも、兵士たちは彼女の傍らに立ったまま、視線をガイルと『ヘヴィー・ブロッカー』の戦いへと向け続けていた。


 その様子に、マキナはおずおずと口を開く。



「あの……あの方に助力しなくて良いのですか?それか、向こうの戦闘の補助とか……」

「この戦いを観察し、弱点を見出すこと。それが命令ですから」



 迷いの無い即答に、マキナは圧倒される。



「で、ですが……それなら、あの方の側でも良かったのでは?私の近くでなくとも……」

「それもガイル師団長の命令です。マキナ様が動かぬよう見守りつつ、助言を求めろと」

「師団長は、マキナ様が無理をなさらぬかを案じておられます」

「う゛……」



 更にはっきり告げられ、状況によっては、自分が再び戦おうとしていたことを見透かされたマキナは、言葉を失ってしまう。


 そして、マキナは改めて、ガイルと呼ばれた師団長の男へと視線を向け直した。



「(師団長……立ち振る舞いから只者じゃないとは思ってたけど、そんなに凄い人だったんだ)」



 ガイル・ランバット。エルゼルク王国に立ち寄るたび、その名は必ずと言って良いほど耳にしてきた。


 王国が現在の規模へと発展する礎を築いた立役者の一人と語られることも少なくないが、これまで二人が顔を合わせたことは一度もない。


 マキナは一つの国に留まることはなく、討伐を終えればすぐ次の地へ向かうという、ある種の放浪の身だ。


 一方のガイルも、積極的に接触を図ることはなく、かつて前線に立ち続けた男が師団長となってからは、指揮を執る場が主戦場と移り、戦場に姿を見せること自体が稀になっていた。


 これまで交わることのなかった二つの軌跡が、今日、初めて対面するに至る。


 だがその立場はいまや逆転していた。


 常に最前線に立ってきたマキナが膝をつき、戦場を見守る側に回り、前線から退いていたはずのガイルが、今まさに先頭で刃を振るっている。


 事情を知る者が見れば、どこか歪で、奇妙な光景に映るだろう。



「(最初の一撃の時から思ってたけど……あの人、かなり強い。『ヘヴィー・ブロッカー』が鈍重とはいえ、あんな風に正確に死角を突く動き……普通の人じゃ出来ない)」



 ガイルの攻撃は激しくも、しかしその剣筋と足運びには、粗さが一切無い。


 斬り込んでは離れ、軽やかな踏み込みで巨体の死角へと滑り込み、『ヘヴィー・ブロッカー』の重い動きに合わせ、常に安全圏を保ち続ける。


 その無駄のない連続動作は、まるで舞うような戦い振りであり、その流れの中で、ガイルは一度として致命的な危機を迎えていない。



「(危なくなったらすぐ介入しようと思ってたけど、その必要はなさそう。それにしても、こんなに強い人がいたんだ……正面から戦っても、勝てるって言い切れないかも)」



 目の前で展開される洗練された戦闘に、マキナの身体から少しずつ力みが抜け、胸の奥に張り詰めていた緊張が、静かにほどけていくのを感じていた。



「(こんな人を知らなかったなんて……私、本当に世間知らずだったのかな……)」



 マキナのその考えは少し違う。


 エルゼルク王国師団長ガイル・ランバットを筆頭に、各国には『実力者』と呼ばれる者が確かに存在している。


 しかしマキナは、その多くと面識を持っていないが、全員がガイルと同じく接触を避けていたわけではなく、寧ろガイルの方が例外だ。


 多くの実力者は、『英雄』マキナと直接会うことを望んでいおり、それは純粋な敬意、興味、あるいはその力を測りたいという思惑など理由は様々だ。


 それでも機会が訪れなかった理由は単純て、各国の王たちが、故意に接触を避けさせていたのだ。


 マキナはどの国にも属さず、『英雄』という生まれ持った使命のもと、魔族と魔物に挑み続けなくてはならい。


 その為、一国への滞在期間は短く、戦いが始まれば彼女は矢面に立たなくてはならない。


 その間、各国の実力者は国内防衛へ回されることが常であり、結果として、両者が交わる機会そのものが与えられなかった。


 つまり、マキナが世間知らずだったわけではなく、出会うはずの機会が奪われ続けていたのだ。


 しかし今、その実力者の一人と対面し、同じ戦場に立っている。


 目の前で繰り広げられる戦いを見つめながら、マキナの胸の奥で、何かが熱く猛っていた。

※後書きです



ども、琥珀です。


今週は週5更新となります。

この『キメラ編』は一応盛り上がる場面なので、半端に空くより熱を維持したかったので……


少し不規則な更新が続きますが、本編を楽しんでいただければ嬉しいです


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ