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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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25.素顔

 街の中心街から壁沿いへ向かう道のりを、マキナはただ黙々と歩いていた。


 問いかける資格など自分たちにはないと、誰もが、そう思っていたからだ。


 想定外の魔物の襲撃、それに対する迅速な迎撃、未確認の強化体『ボルム』との戦闘、そして、己の身を犠牲にしてまで民を守り抜いた姿。


 それだけの戦いを経てなお、国民からは罵声を浴びせられ、国王からは叱責を受ける


 悲しみも怒りも吐き出さず、すべてを飲み込むように、マキナはただ静かに耐えていた。


 それは、あまりにも孤独で、痛ましい姿。


 実際、この場にいる兵士たちも、もし戦場に共に立っていなければ、他の国民と同じく、マキナを責めていたかもしれない、そう思う者は多かった。


 だからこそ彼らは、言葉ではなく行動で応えようと決め黙ってついて行くことを決めていた。


 やがて、壁沿いへ到着した時、その沈黙を破ったのは、マキナ自身だった。



「皆さん、申し訳ありません。私の失態で、このようなことに巻き込んでしまい……」



 その言葉に、兵士たちは一瞬、息を呑んだ。


 責められる立場ではないはずの彼女が、自ら責任を背負おうとする姿に、誰もすぐに返事を返せなかった。



「これは、私の至らなさが招いたことです。だから……結界の調査は私が一人でやります」



 どこまでも、他者を思いやる姿勢、痛みすら隠して、それでも『英雄』であろうとする意志、言葉は、これまでならば称賛を呼んだかもしれないが、彼らの胸には深い痛みとなって突き刺さった。


 マキナは、ボロボロだった。


 血と汚れにまみれた鎧ではなく、疲弊した身体でもなく、彼女の心が限界を迎えつつあると、皆が感じていた。


 特にグラッブは、何故もっと早く気づいてやれなかったのかと、拳を握りしめながら胸の奥から湧き上がる後悔に苛まれていた。


 その場にいる全員が堪えきれずに沈黙したその瞬間、マキナは思いがけない行動に出た。


 これまで『英雄』としての威厳を保つため、一度も外すことのなかった兜を、ゆっくりと丁寧に外し始めたのだ。


 戦闘で傷つき、ボロボロになった兜を壊さぬよう慎重に持ち上げると、中で束ねられていた髪がほどけ、艶やかに肩へと垂れていく。


 やがて、ゆっくりと現れたその顔に、一同は息を呑み、驚愕の表情を一斉に浮かべた。



「(しょ、少女……!?)」



 誰もが言葉には出さなかったが、グラッブと同じ想いを抱いたに違いない。


 確かに背丈は小さく感じられたものの、これまでの振る舞いからは到底想像できなかった。



「(こんな……こんな幼い少女に、我々は『英雄』であることを求めていたのか。こんないたいけな少女に、罵声を浴びせさせてきたと言うのか……なんと……なんということだ……)」



 もちろん、マキナがグラッブのような目線を避けるために兜を被ってきた理由は明白だ。


 どれほど実力が優れ、言動が立派でも、幼い外見では求心力が下がってしまう。


 だからこそ、無意識のうちに顔を隠し、『英雄』としての仮面を守ってきたが、それはつまり裏を返せば『英雄』であるための呪縛であり、枷となった。


 その上で、今まさに兜を脱いだのは、自分のために戦いに身を投じ、そして今も助力してくれる兵士達への感謝を込めた、彼女なりの敬意の表れだろう。



「迷惑をかけてごめんんさい。上手く立ち回らなくてごめんなさい。次は……次はもっと完璧にこなしてみせます。だからこれは、私がやらなくちゃいけない罰なんです。皆さんはどうか休んでいて下さい」



 頭を深く下げて必死に謝るその姿は、ただの幼い少女そのものであり、彼女の言葉に兵士たちの胸は締め付けられた。


 マキナが再び兜を被り、結界の調査に向かおうとしたその瞬間、グラッブが力強く手を掴んで制止した。



「……グラッブさん?」

「マキナ様……どうか、もうお止めください」



 老兵とは思えない力強さと共に、震えるような切実さが込められていた。



「止めるって……何を……」

「もう、一人で全てを抱え込むのはやめてください!魔物の襲撃も街の損害も、貴方が責任を負う必要など何一つありません!」



 グラッブの言葉に、マキナの身体が小さく震える。


 振り返ると、そこにはグラッブの発言に賛同する兵士たちの頷きがあった。


 溢れそうな感情を堪えつつ、マキナは『英雄』としての決意を言葉にした。



「……それでも、私は……私がやらなきゃいけないんです。私は『英雄』だから。『英雄』であることを求められているから」

「それは……ですが、いま貴方が私たちに見せてくれた姿を人々に見せれば……!!」

「そんなこと、できるわけない!!」



 突然の怒声に、グラッブは思わず手を離してしまう。



「私は……私は『英雄』だから求められる!!『英雄』だから頼られる!!みんなが求めているのはマキナじゃない!!『英雄』なんです!!」



 その声には明らかな怒りが混じっていたが、同時に深い悲しみもにじんでいた。



「私は『英雄』として生まれ、『英雄』として生きてきました!!それが無くなってしまったら……私は……」



 グラッブ達は一つの誤解をしていた。


 マキナは『英雄』であることを重荷に感じていると考えていたが、実際は違う。


 確かに負担はあるが、それ以上に彼女は『英雄』であろうとしているのだ。


 人々の期待に応え、戦うことでその役割を全うしようと、本心から望んでいた。


 いや、正確にはそう思うように、人々が求めてしまった。


 その結果、彼女の『英雄』という姿は歪められ、人々の欲望によって作り上げられた、『英雄』という仮面を被ることを強いられた。


 彼女が身につける兜は、『英雄』の証であり、仮面であり、呪いでもある。


 その奥で、年端もいかない少女がどれほどの感情が渦巻いているのかを、グラップ達では推し量ることさえ出来ない。



「……すみません、取り乱しました」



 叫んだことで少し冷静さを取り戻したのか、マキナはいつもの『英雄』の姿を取り戻し、再び踵を返してその場を去ろうとした。



「マキナ様!!」

「結界調査の手伝いの申し出、ありがとうございます。魔物が出る可能性があるので、私が外側を回ります。皆さんは内側をお願いします」



 グラッブの言葉を遮るようにして言葉を被せ、マキナはその場から逃げるように去っていった。


 掴む場所を失い、虚空を切る手を見つめながら、グラッブは立ち尽くす。



「訓練兵長……」



 兵士の一人が声をかけるも、グラッブは直ぐには反応を見せなかった。



「戦いを共にしたことで、あの子の孤独を理解したつもりだった……だが、理解するだけでは足りんのだ」



 やがて悔しげに歯を食いしばり、拳を握りしめる。



「我々は、あのボルムと戦った時、ほんの少ししかお支え出来なかった。その背中を追うことさえできなかった。それではダメだ。マキナ様に並び立つくらいにならねば、彼女を止めることはできない」



 辛くも切実な言葉を、兵士たちも強く胸に刻んだ。



「強くならねば。マキナ様が安心して背中を預けられるくらいに。彼女が辛い時に、本音を吐露できるくらいに」



 グラッブは振り返り、兵士たちの顔を見渡す。



「その境地に達するには、私は老い過ぎた。だが、お主らはまだ無限の可能性を秘めている。マキナ様の横に並び立つ覚悟はあるか?」



 その場にいる誰もが、マキナ一人に全てを背負わせようとは考えておらず、兵士たちは互いに目を合わせ、力強く頷いた。



「ならばしっかりと研鑽せよ。マキナ様に並ぶのは、人並みの努力では到底足りんぞ」

「「「はっ!!!!」」」



 力強い返答に満足し、グラッブは再び壁へ視線を向けた。



「さて、まずは目の前の与えられた使命からだ。さっさと内側の壁を調べて、マキナ様の外側の仕事も奪ってしまうぞ」



 こうして、覚悟を新たにしたグラッブたちが、すぐに調査に取り掛かろうとした次の瞬間。



「うんうん、ボクも大賛成だ。じゃあ始めようか!!」



 突如、謎の人物の声がグラッブ達のもとへと響いた。

※後書きです



ども、琥珀です。


今更ですが、累計評価PTが100を突破しました!

これも読んで評価をしてくださる皆様のお陰です!


正直100ptは半年くらいを目標にしていましたが、まさか1ヶ月半で評価いただけるとは……


これからも勇往邁進してまいりますので、応援宜しくお願いします!


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は・を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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