20.救出
※5月6日まで連日更新致します
『ボルム』の上半身が大きくのけ反り、踏みとどまるように一歩後退した。
岩のように硬質な表皮には明確なヒビが走っており、マキナの攻撃が確実にダメージを与えていたことを物語っている。
「ッ!?」
だがマキナも無傷ではなく、叩き込んだ拳からは血が滴り落ち、兜の中では痛みを堪えるように表情が歪む。
「(硬い……!!やっぱり今まで対峙してきた個体とは段違いに強い!!)」
衝撃を反転の動力に変え、空中で身を翻して地面に着地したマキナは、すぐさま使用した拳に目を落とす。
ガントレットは『ボルム』の硬質な外殻に砕かれていたが、出血はすでに止まっていた。
「手は問題なし。問題はあの装甲をどう貫くか……」
だが思考する暇は与えられず、『ボルム』は重々しく一歩を踏み出し、再び間合いを詰めようと試みる。
「遅い!!」
その動き出しを見た瞬間、マキナは地を蹴り『ボルム』の胸元の懐へと一気に潜り込んだ。
「ハァァァァァァァァァァァ!!!!」
拳が胸元から腹、腰、膝、足と、高速移動する間際に打ち下ろされ、硬質な表皮が一撃ごとに砕けるような連打の拳が叩きつけられ、砕けた表皮が辺りに撒き散る。
だが拳を振るうたびにマキナ自身の手からも血が迸り、その皮膚が裂けていく。
最後に足の甲を打ち据えたところでマキナは跳躍し、再び距離をとると、真紅に染まった拳を軽く振りながら、彼女は無言で『ボルム』を見据えた。
「やっぱり表面をいくら削ってもダメか……すぐに再生してるし」
マキナの目の前で、『ボルム』の砕けた装甲が音もなく再生し、先ほどまで露出していた肉の部分も、瞬く間に新たな表皮に覆われてしまった。
「再生速度が通常の個体とは比にならない。これを倒すには……」
同じくすっかり元通りになった両手を視認し、マキナは唇を噛んで考えを巡らせる。
「(魔物の弱点は再生不可能なダメージを与えるか、魔力核を破壊すること。でもあの硬さだと、核に届く前にこっちの拳がおしゃかになる。それに、通常の個体と同じ箇所に核があるかどうかも分からない……)」
思考が渦巻くなか、『ボルム』もまた警戒心を高め、攻めあぐねている様子であり、緊張の糸が張り詰めた静寂のなかで、両者が睨み合う状況が続く。
「(一点集中で表皮ごと核を打ち抜く。それしかない……けど、ボルムは間違いなく暴れる。もしバランスを崩して倒れでもしたら、街への被害は計り知れないものになる。それはできるだけ避けたい)」
その思考の半分は、マキナ自身の善意からくるものだったが、もう半分は民衆が『英雄』に押し付けた狂信的な期待という名の呪い。
仮に被害を顧みずに全力で戦えば、『ボルム』を倒すこと自体は恐らく可能だが、その余波で街が被害を受ければ、完璧な『英雄』像を求める民衆は容赦なくマキナを糾弾するだろう。
そこまで明確に意識していたわけではないが、しかしマキナは無意識のうちに、己を縛るその重圧を自らに課していた。
「(確か……少し先に広場があったはず。あそこなら被害を最小限に抑えながら戦える……うまく誘導できれば!)」
覚悟を決め、マキナは両手を握って開くと痛みの残らないことを確かめた後、空にグラッブが率いる魔法兵の魔法の閃光弾が放たれると、それが合図となり両者が同時に動き出した。
先手を取ったのはマキナ。
ただし、今回は懐へ潜るの跳躍ではなく、あえて『ボルム』の視界内にとどまる位置へと飛び上がると、『ボルム』は対抗して巨腕を振りかぶり、その拳をマキナへと突き出した。
「せえぃ…っや!!!!」
凄まじい風圧と共に迫る拳を前に、マキナは空中で身を捻りつつ、横合いからその拳を蹴り上げると、軌道を逸らされた拳は宙を切り裂きながら空を掠め、『ボルム』の上半身が仰け反る。
「(よし!注意を引いた!このまま奴の意識を釘付けにして、広場まで誘導する!)」
マキナの予想通り、『ボルム』はマキナを執拗に追い続け、彼女は何度も跳躍を繰り返しながら巧みにその間合いを調整し、建物にも街にも一切の損害を与えることなく誘導することに成功していた。
「(あと少し……広場まで、あと100メートル……!)」
視界の先に広場の入り口が見え始めた、そのときだった。
「……〜〜てッ!!」
微かに耳に届く、か細い叫びが聞こえ、耳を澄ますと、今度はよりはっきりと聞こえてくる。
「…すけてっ!!」
声のした方向へ視線を走らせると、倒壊した家屋の隙間から母子が手を伸ばして助けを求める姿を視認した。
「避難漏れ!?まさか、さっきの衝撃で……!?」
家の屋根には巨大な瓦礫が食い込んでおり、その角度から察するに、『ボルム』が地面を叩いた際に飛び散った破片が直撃したものと思われた。
「私が不用意に『ボルム』に突っ込んだから……!!」
頭の中が真っ白になりかけたが、マキナは必死に理性を繋ぎ止め、すぐさまボルムの方へと振り返る。
「(一瞬でいい!動きを止めなきゃ!)」
ボルムが再び腕を振るう瞬間、マキナは今度は高く跳躍せず前方へと突っ込みつつ、着地と同時に『ボルム』の膝裏へと跳び上がり、渾身の力を込めて蹴り飛ばした。
身体構造が人間に近いボルムの膝裏は装甲が薄く、急所の一つとなっているため、一撃を食らうと同時に『ボルム』の足が崩れ、巨体が片膝をつく。
完全な転倒には至らなかったが、それでも時間を稼ぐには十分であると判断したマキナは、即座に壁を蹴り、倒壊した家の前に着地する。
マキナは荒い息を吐きながら、瓦礫の破片に手をかけ、救出を試みた。
「ま、マキナ様!!」
「待ってて下さい!! すぐに助けます!!」
力を込めて瓦礫を動かそうとするが、その瞬間、家全体が低く不穏な音を立てて軋み、崩壊の気配が一気に強まる。
「(家はもう崩壊寸前……!!むしろ、この瓦礫がバランスを保ってるんだ……!!)」
一手間違えれば、中にいる母子を巻き込んでしまう状況に、マキナは焦りを感じ始める。
マキナの怪力をもってすれば、瓦礫をどかすこと自体は難しくないが、家そのものが崩れ落ちるとなれば、救出の難易度は一気に跳ね上がる。
まるで綿密なパズルのように、順序と手順を誤れば全てが終わる状況下で、慎重に一つずつ瓦礫を取り除くための悠長な時間は残されていない。
歯を食いしばり、マキナは目をギュッと瞑り、覚悟を決めて家の前に立つと、瓦礫のさらに奥へと手を伸ばし、深部に手のひらを滑り込ませ、今度は力の入れ方を変える。
「ふっ……んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!!」
彼女が選んだのは、瓦礫含む家全体を持ち上げるという選択。
崩れかけた家を内側から支えるのではなく、外から包み込むようにしてゆっくりと、だが確実に押し上げていく。
───ズズズ……!!
唸るような音が空気を震わせ、崩落寸前だった建物がわずかに持ち上がり、その瞬間、母子を塞いでいた瓦礫の隙間に細い空間が生まれた。
「こ、ここから脱出してください!! 急いで!!」
「は、はい!!さあ、あなたから先に!!」
母親は即座に子を抱き寄せ、背中を押し出すことで幼い娘は小さな体を活かし、するりとその隙間から抜け出すことに成功した。
続いて母親が身をかがめて進もうとするが、マキナが作り出した隙間は、大人の体には狭すぎた。
「うっ……!服が引っかかって……!!」
体の半分を外に出したところで身体が引っ掛かり、身動きが取れなくなってしまう。
「くっ……は、早くッ!!」
全力を出し続けた肉体は限界に近づいており、その手足が激しく震え始め、家は押し戻されつつあった。
「ママ!! がんばって!!」
娘の叫びが響き、そこ声に応えるように、母親は再び体に力を込めて、必死にもがいた。
だが家がわずかに沈み込み、隙間はさらに狭まり、まるで母親の体を呑み込もうとしているかのようだった。
「ッ!!」
そのとき、ズシンッ!!という重い音が地面の揺れを感じ視線を向けると、『ボルム』の巨大な影がゆっくりと立ち上がっていく光景を目にした。
その目は怒りに満ち、真っ直ぐにマキナを睨み据えている。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!!」
疲労と焦り、そして恐怖。
マキナの呼吸が激しく乱れ、全身は小刻みに震え、酷使し続けた肉体はとうに限界を迎えており、その鼻からは血が一筋、静かに垂れていた。
「ママ!!がんばって!!」
『ボルム』が目の前に迫っているというのに、彼女は逃げもせず母の手を引き、必死に助けようとしていた。
恐怖に震える目。それでも少女は、母を決して見捨てることはなく、その姿にマキナの心に再び炎を灯らせ、混濁しかけていた思考が一瞬だけ晴れる。
「い、今から……3つ数えた瞬間、一瞬だけ家を持ち上げます。そのタイミングで……抜け出してください!!」
少女と母親は顔を見合わせ、そして強く、何度も頷いたのを確認すると、マキナは大きく深呼吸をし、目に決意を宿らせる。
「行きます!! 1、2の……3!!!!」
全身の筋肉を限界まで酷使し、彼女は再び家を押し上げると、ほんの一瞬、だが確かに、隙間が広がった。
母親は全力で身をよじり、少女も懸命に手を引く。
バキバキバキ!! と木材が軋み、裂ける音。次の瞬間、母親の体が、まるで引き抜かれるようにして瓦礫から抜け出した。
※後書きです
ども、琥珀です。
皆さん、にんにくお好きですか?
にんにく、最高ですよね……
場とタイミングは限られますけど、それでも私はラーメン屋とかであると必ず入れてしまいます……
そして家に帰ってお腹下します……
ふふ……ままならない、ですね
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。
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