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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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19.グラップ

※5月6日まで連日投稿します

「マキナ様。現在の対応状況をお聞かせ願えますか」



 硝煙と土埃が舞う戦場に、本来なら実戦に赴くはずのない齢を数えた老兵が凛として立っていた。


 その装備こそ他の兵士たちと変わらぬ簡素なものだが、無駄のない立ち居振る舞いからは年齢を感じさせない、熟練の風格と戦士としての重圧が漂っている。



「申し遅れました。私は現在、若者どもの訓練兵長を務めておりますグラッブと申します」



 老兵――グラッブは年季の入った兜を脱ぎ、礼節を持って丁寧に頭を垂れると、鋭い眼光を宿したまま兜を被り直してマキナに向き直った。



「現在、我々は“魔物の討伐”の命のみ受けており、詳しい戦況は把握しておりません。ですが、マキナ様がこれまでに取られていた対応を共有していただければ、即座にそれに則って行動を開始できます」



 迷いのない口調も落ち着き払った態度も、幾多の死線を越えてきた経験を物語っていた。


 その揺るぎない物腰に触れ、焦燥に駆られていたマキナの心も自然と凪いでいく。



「……私が出会った衛兵たちには、国民の避難を最優先に命じ魔物の討伐は指示していません。原因はまだ不明ですが、結界は機能したままの様子でしたので、避難先は壁沿いと伝えてあります」



 マキナが簡潔に説明を終えると、グラッブは深く刻まれた皺の寄る顎に手を添え、蓄えられた白髭を指で撫でながら深く頷いた。



「なるほど、結界の余波を盾として利用する……実地での賢明なご判断かと存じます。となれば、我々の優先事項は国民を追う魔物の徹底した間引きと時間稼ぎですな」



 断片的な情報から即座に最善の戦術を導き出した彼は、一拍おいて決然と顔を上げた。



「ではマキナ様。国内に散らばっている小型の魔物への対応、および現場の指揮は私にお任せください」

「え……で、でも、皆さんは……」



 突然の申し出に思わず戸惑うマキナへ、グラッブは慈父のような微笑を湛えながら静かに、しかし力強く言葉を重ねる。



「ご安心を。先ほども申しました通り、私は訓練兵長としてここにいる若者たちの特性は、誰よりもよく知っております」



 そう言ってグラッブは後方で控える若い兵士たちへと信頼の目をやり、再びマキナの瞳を真っ直ぐに見据えた。



「彼らは若く、実戦の経験も乏しい。しかし過酷な訓練を耐え抜き、正式に兵団の一員となった誇り高き者たちです。決して弱くはありません、一人一人が十分に戦えるだけの力を持っています」



 その言葉が響いた瞬間、マキナは背後に並ぶ兵士たちの纏う空気が劇的に変貌したのを肌で感じた。


 さき程までの若者らしい不安げな顔つきは消え去り、代わりに守るべきもののために命を懸ける、精強な軍人の覚悟が宿っている。



「足りぬ経験は、この老兵が知略で補えば良い。そうすれば彼らは王国の精鋭と何ら変わらぬ働きをしてくれるでしょう」



 もはや彼らの表情に迷いの色はなく、死地へと踏み出す者だけが持つ鋭い光が宿っていた。



「……分かりました。では、街の中の対応はすべてお任せします」



 兵士たちの瞳に灯った不屈の意志を見て、マキナはグラッブの言葉が信頼に足る本物であると確信し、決意を込めて深く頷いた。



「ありがとうございます。我々はすぐに行動を開始します。マキナ様、代わりというには大変心苦しい役目なのですが――」

「わかっています」



 マキナは迷わず兵士たちに背を向け、銀の兜の奥から真っ直ぐに、屠るべき標的を見据える。


 その視線の先には、今も尚、大地を震わせる咆哮を上げながら市街を蹂躙し続ける、山のごとき巨大な魔物の姿があった。



「あの巨大な魔物は、私がここで仕留めます」






●●●






 小型魔物の討伐と民衆の避難誘導を最優先に動いていたため、破壊を撒き散らしながら移動を続ける大型魔物との距離はいつの間にか大きく開いていた。


 一刻の猶予もないと判断したマキナは、最短距離で間合いを詰めるべく、民家の屋根から屋根へと強靭な脚力で跳躍しながら疾走する。



「(あれは『ボルム』、だよね? でも、今まで対峙してきたどの個体よりも規格外に大きいし、外殻の色も不気味。なんでこんな個体が、よりによって国内に……?)」



 獲物の接近を察知したのか、ボルムが鼓膜を裂く咆哮と共に、岩塊のごとき巨腕を天高く振りかぶった。



『ル゛ア゛ァァァァァァァ!!!!』



 大気を震わせる絶叫の直後、巨大な拳が吸い込まれるように地表へと叩きつけられる。


 その瞬間、大地は爆ぜ、大気そのものが悲鳴を上げて激しく歪んだ。


 行き場を失った大量の空気が極限まで圧縮され、猛烈な圧力となった衝撃波がマキナの鼓膜を容赦なく叩きつける。


 着弾と同時に、世界を壊死させるような轟音が空間を完全に支配し、周囲の喧騒が一瞬にして掻き消えた。


 あまりにも強烈な破壊の奔流が、あらゆる五感を白く塗り潰していく。


 だが、その不自然な静寂も束の間――次元を抉り取るような余波が遅れて炸裂し、周囲の残骸を塵へと変えて吹き飛ばした。


 巻き起こる爆風は凄まじく、まだ百メートル以上の距離があったマキナの小柄な体が、思わず宙に浮きかけるほどの威力だった。



「(なにこの出鱈目なパワー……!? たった一撃振るっただけで、周囲の建物が形もなく吹き飛んだっていうの!?)」



 熱風に抗い、地面に爪を立てて踏ん張るマキナの視界に、砂煙の向こうからこちらを睥睨するボルムの禍々しい姿が映る。



「(今のは……単なる威嚇? たしかに一瞬肝を冷やしたけど、それよりもこれ以上好き勝手させられない。建物の中には、まだ逃げ遅れてる人がいるかもしれないんだから……!)」



 猛烈な衝撃の余波が収まり足元の瓦礫が安定したのを確認すると、マキナは再び弾かれたように前方へと駆け出した。


 その時、灰色の空へ数発の眩い閃光が打ち上がり、鮮やかな光となって戦場を照らした。


 マキナは一瞬眉をひそめたが、すぐにその光が持つ戦術的な意味を察する。



「(あの屋根の上に立ってるのは……さっきの兵団の一人? そっか、魔力感知を使って位置を特定して、閃光弾で他の部隊に魔物の居場所を伝えているんだ!)」



 全身の神経を研ぎ澄ませて魔力を感知すると、グラッブの指揮下にある兵団の面々が各地の魔物に向けて迷いのない動きで接近しているのが手に取るように分かる。


 さらにグラッブを含む九人の精鋭が三つの小隊に分かれ、すでに各地で連携の取れた波状攻撃を開始していた。



「(一人が観測役となって位置を探知し続け、それを頼りに残りが確実に追撃する。圧倒的な人数の少なさを、分隊ごとの機動力で完璧に補っている……なんて素早くて的確な戦場判断。すごい……!)」



 グラッブが兵士一人一人の特性を熟知し、それを極限まで活かして神速の指示を飛ばしていることが、変化していく戦況から明らかだった。


 マキナの胸の中に渦巻いていた、仲間に背を向けることへの微かな迷いが、涼やかな風に吹かれたように霧散していく。



「グラッブさんたちは信用して大丈夫……なら私は、この『ボルム』を討ち取ることだけに全力を使える……!」



 心とともに瞳からも一切の迷いが消え去り、マキナは一点、真っ直ぐに巨獣の眉間へと視線を据えた。


 すでに距離は五十メートルを切り、鼻を突く魔獣の腐臭が漂ってくる。


 マキナは脚に一気に魔力を込めた。



「いっ……くぞぉ!!!」



 爆発的な力で地を蹴り、弾丸となって全身で跳躍。


 その瞬間、踏みしめた地面にはクモの巣状のひび割れが走り、周囲一帯に凄まじい反動の衝撃が広がった。


 だが、今回の跳躍はこれまでのように高さを稼ぐものではない。


 狙いは、最短にして最速の前方。加速のみを追求した極低空の水平跳躍――それはもはや、肉身を投擲する超高速の突進に等しかった。



『ル゛ア゛……?』



 あれほど傲慢に周囲を警戒していた『ボルム』が、あまりの速度にマキナの姿を完全に見失う。


 そして次の瞬間、網膜を焼くほどの至近距離に現れた小さな拳が、山のごとき顔面へと深々と振り下ろされる。



「どっ……りゃああああああ!!!!!」



 身長百五十センチほどの可憐な少女が、二十メートルを越えようかという漆黒の巨躯へと、魂を乗せた渾身の一撃を叩き込む。


 それは客観的に見れば、蟻が巨人に挑むに等しい、絶望的なまでの体格差。


 だが、現実は違った――。



『ル゛ア゛ァァァァァァァ!?』



 マキナの拳が硬質な皮膚に直撃し、骨を砕く衝撃波が裏側まで突き抜けるや否や、『ボルム』の絶大な質量が耐えかねたように大きくのけ反った。

※後書きです






ども、琥珀です。


自炊する事が増えたのと同時に、何回かお菓子作りをすることがありました


最近だとアイスクリーム、パンケーキ、それからポンデリングやケーキですね


次はミルクプリン作りたいです


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。

もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします

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