115.協力者
早朝。
ガディールからの招聘を受けた二人は、軍事基地の広大なホールへと案内され、そこで巨大なモニターに映し出された作戦概要の説明を受けていた。
その場に居たのは、召集者である最高執政官のガディール、マキナとディジー、帝国兵の幹部クラスの将校十数名に加え、帝国とは違う風貌の二名の人物。
更には皇帝ウィガード自らも最前列に同席しており、室内はこれまでの基地の殺伐とした空気とはまた違う、威圧的で重厚な緊張感が漂っていた。
「……以上が、今回のドロミット岩峰における魔族掃討作戦の概要となる」
淡々とした口調でひとしきりの作戦概要を話し終えると、ガディールはモニターを指すのに使っていたタクトをスッと手元に収納した。
「質問のある者はいるか」
ガディールの問い掛けに対し沈黙が続くなか、マキナは周囲に気づかれないよう兜越しに小声で隣のディジーに声をかけた。
「(……聞いてた感じ、おかしなところは無さそうな真っ当な作戦だったよね)」
その率直な問いにディジーは直ぐには答えず、頭の中で提示された膨大な情報を整理してからゆっくりと口を開いた。
「(前衛、中衛、後衛に陣を分けて、新型装備の機能と圧倒的な数で押し切る。編成は小隊規模を中心に対応に当たらせ、魔族一人に対して分隊をぶつける……まぁ質実剛健、教科書通りの堅実で手堅い作戦だね)」
そこまで冷静に分析を述べた上で、ディジーはどこか腑に落ちないような険しい表情を浮かべていた。
「(だからこそ、ボクは怪しいと思うけどね)」
「(え……?)」
続けざまに発せられた不穏な言葉の内容にマキナは驚いて聞き返そうとするが、ディジーは「後にしよう」と短く告げ、それ以上は話さなかった。
代わりに前に立つガディールが質疑応答の時間を打ち切り、全員に向けて改めて声を上げる。
「決行は明後日。場所はドロミット岩峰にて奴らを奇襲し、殲滅にあたる。各人、明日の昼までにすべての準備を整え、出立の用意を済ませよ」
「「「ハッ!!」」」
その場にいた将校達が一斉に声を張り上げて力強く返答すると、そのまま会議は終わり、彼らは足早に部屋を後にした。
その後ガディールに呼ばれてモニターの側に集まると、二人の他にも同じようにして呼び寄せられた者達がいた。
ウィガードとガディールの二人は少し離れた位置で部下達に何やら細かな指示を出しており、その待機時間に二人がマキナへと近寄ってくる。
「マキナ様、こうして直接お会いしてお話させていただくのは初めてになりますね。私はパワリア王国所属のレイスと言います」
「あ、宜しくお願いします、マキナです……」
最初に声をかけたのは、筋肉質な体型の長身の男性であった。
笑顔で差し出された手を握り返して握手を交わした瞬間、マキナはその掌の分厚さと、内から伝わってくるズシリとした重い圧を感じ取った。
「(この人、強い……)」
幾多の死線を潜り抜けてきたマキナの直感が、掌から伝わるマメや骨格の感触だけで目の前の男が只者ではないことを察知する。
そこでマキナは、パワリア王国とレイスという名前の響きから、遅れてある一つの事実に気がついた。
「パワリア王国のレイスって、もしかして『変幻万武』のレイス・ローマンさん……?」
そう名前を告げられ、レイスは人懐っこい穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ご存じでいらっしゃるとは光栄です。改めて、パワリア王国の戦士長を務めさせていただいております、レイス・ローマンです」
レイス・ローマン。
あらゆる戦場状況に即座に対応し、最前線で魔族と戦い抜いてきた、パワリア王国最強と謳われる戦士である。
エルゼルク王国のガイルやシェリーと同格か、あるいはそれ以上の実力者だと世界的に評される人物だ。
「……驚きました。近隣諸国に増援依頼をかけた話は伺っていましたが、まさか戦士長自らいらっしゃるとは……」
「ははは。スカラビア帝国には平素より色々懇意にさせて貰っていますから。私は王の命に従うだけですよ。それに、驚いたというのなら私の方もです」
打算など微塵も感じさせない快活な笑い声を上げた後、レイスはゆっくりと手を離し、真っ直ぐにマキナを見据えて続ける。
「『英雄』マキナ。その名を知らぬものなど世界にいないと言われるほどの伝説的存在。そんなお方と共に並び立って戦えるなんて、一人の戦士として光栄の至りです」
背後に眩しい後光が見えそうな程の屈託のないキラキラとした笑顔を向けられ、褒められ慣れていないマキナは兜の中で顔を引き攣らせていた。
「私では役者不足かも知れませんが、人類の平和のために微力ながらお力添えさせていただきます」
片手を胸に当てて恭しく頭を下げられてしまい、マキナがタジタジになって困惑していると、レイスの後ろからまた別の人物が近付いてくる。
「どきな、優男。『英雄』様が困ってんだろ」
半ば強引にレイスの肩を押して退けると、その前に青髪が特徴的なスリムな体型の女性が立つ。
「初めましてマキナ様。アタシはレヴィ・ベンダー。『砂漠の教義』っていう集団傭兵やっててね。今回の戦闘で雇われてここにいるのさ」
これまで接してきたどんな人種にも当てはまらない、粗野だが気さくな雰囲気に戸惑いつつも、マキナは差し出された手を素直に握り返す。
すると、レヴィは何故かひどく驚いたような表情を浮かべ、握り返された自身の手とマキナの顔を交互に見比べていた。
「驚いた……まさか普通に握手してくれるとは思わなかったよ。差別意識のない人だって噂では聞いてたけど、まさか本当だとはね」
「……それってどういう?」
マキナが困惑して尋ねると、それを察したレヴィがどこか自嘲するように申し訳なさそうにしつつ説明を始めた。
「ほら、傭兵って国の内部で安全に過ごしてるわけじゃないし、金で動く荒くれ者なイメージがあるだろ?だから雇い主とか国の中に入っても、正規の軍人からはあんまり良い顔されないんだよね」
そこまで話して、レヴィはいまマキナに握られたばかりの自分の手を見つめながら話す。
「今みたいに挨拶のつもりで手を差し出しても、握り返されないばかりか、汚いものを扱うように弾かれることも少なくなくてさ」
カラカラと明るく笑う口調とは裏腹に、マキナに握り返された手を見つめる彼女の瞳は、これまでに味わってきた冷たい記憶を思い返すように細められていた。
「……国の外は、魔物や魔族による危険で溢れてます。それは、私が誰よりも何よりも知ってます」
ふと、突然マキナが静かながらも重みのある声で語り出し、レヴィは戸惑いつつもその言葉に耳を傾ける。
「国と国の間を移動する時、物を売るために移動する時、色々な状況下において、国に所属する兵士だけでは対応できないこともあります」
マキナの顔は無骨な兜で隠れて見えないが、レヴィは自分がいま真っ直ぐに見つめられていることをハッキリと感じ取っていた。
「私もそれなりの修羅場を外で潜ってきているので、いまレヴィさんの手を握って、貴女が同じくらいの死線を潜ってきたのかも分かります」
マキナから放たれるのは視線だけではない。
言葉、意思そのものが真っ直ぐ自身に向けてぶつけられており、レヴィの肌がビリビリとそれを感じる。
「傭兵全体のことは分かりません。でもそこを生き抜いて、自分達に出来ることを果たし続けて、その上で手を取ることを忘れない。私は、とても凄い事だと思いますし、そんな方々と一緒に戦えるのは、とても心強いです」
一切の偏見や飾りのないマキナの真っ直ぐな言葉を受けて、レヴィは胸を打たれたようにしばし呆然としてしまう。
「やば……マキナ超イケメン……天然のたらしじゃん……」
一連のやり取りを見ていたディジーが背後で呆れたように小さく呟いていると、奥からウィガードとガディールの二人が近寄ってくる。
「皆様、大変お待たせいたしました」
※後書きです
ディ「……どう?惚れた?惚れちゃった?」
レヴィ「……ちょっとキュンとはさせられたよ」
ディ「やっぱもうちょっとイケメン度合い抑えさせないとだめだなぁ……」
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は・の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。




