116.遊撃依頼
大ホールのモニター付近。
その前に設置された椅子に、皇帝ウィガードがドッシリと腰掛ける。
「構わん、楽にしろ」
ウィガードが威厳のある声で許しを出し、畏まっていた一同が下げていた頭を上げてその場に直る。
「ガディール、説明を始めろ」
「はっ」
ウィガードの命を受け、最高執政官であるガディールが一歩前に進み出て作戦の説明を始めた。
「ここにお集まりいただいたのは、皆様に今回の作戦において『遊撃』をお願いしたいからで御座います」
その予想外の提案に各国の代表全員が困惑して眉を顰めるなか、すぐさまレイスが挙手した。
「どうぞ」
「パワリア王国戦士長、レイス・ローマンです。遊撃と仰いましたが、つまり帝国の作戦に沿った行動ではなく、独立した動きをせよ、という事でしょうか」
戦い慣れた者であれば直ぐに至る疑問であり、マキナ達も同様に頷いた。
「仰る通りでございます。理由と致しましては、我々帝国兵の強みである統率された動きが、今回ばかりは欠点になり得るからです」
続けて説明された理由にマキナやレイスは首を傾げていたが、傭兵として死線を潜り抜けてきたレヴィだけは、理解したように深く頷いていた。
「アタシ達も職業柄調べることがあるから分かるよ。行動のパターンを読まれるってことだろう」
「ご推察の通りです。我々帝国は高度に統制された集団行動を強みとしており、それを最新鋭の技術と兵器で増強し魔族を退けて参りました」
そこまで説明し、ガディールは「ですが……」と表情を険しくして続ける。
「統制された動きというのは、言い換えれば戦術が完全にパターン化されているとも言えます。型にハマっている状況では強さを発揮しますが、一旦崩れると一転して脆くなってしまいます」
理由が説明されると、レイスが少し遅れて理解した様子を見せる。
「なるほど。魔族は予測不可能な行動を取ることもあるため、帝国の一辺倒のやり方では、一度崩されたら総崩れする可能性がある、と言うことですね」
「そんで、その不測の事態に備えることと、向こうにパターンを見抜かせないための目眩しとして、統率されてない遊撃部隊が必要ってことなんだろう?」
レイスの言葉にレヴィが戦術的な視点から補足して説明を加えると、ガディールは深く頷いた。
「帝国の兵士達は、先程共有させていただいた最新の装備の訓練を施したばかりです。そこで統率性の無い動きを取り入れることは、戦場でのリスクを高めてしまいます。そこで実力者である皆様に、臨機応変な遊撃をお願いしたく存じます」
一同はそれぞれの立場と思惑を踏まえて考え込み、最初に答えたのはマキナだった。
「分かりました。私はその方向で動きます」
マキナの横に立つディジーが心配そうに見つめるが、マキナは視線だけで大丈夫だと小さく頷いた。
「元々私は一国に留まらずに戦って来た身なので、規則的な動きに合わせるより自由に動いて戦う方が慣れてます。そういう意味では今のお話と逆で、私が無理に型にはまった動きをすると却ってリスクになると思いますので、私は戦況に応じて動こうと思います」
マキナの頼もしい言葉にガディールが頷くと、ディジーも手を挙げて続く。
「じゃあボクもそれで。あんま人と共闘したことないし、そもそも戦闘自体が経験少ないからね」
ディジーの最後の一言に、実力を測っていたレイスとレヴィが僅かに眉を顰めたが、特に深く追求することはなかった。
次いで声を挙げたのはレヴィ。
「『砂漠の教義』も遊撃で構わないよ。臨機応変に戦場を動くのは傭兵の強みだからね。ただ条件というか、頼みがあるんだけど」
「お聞きしましょう」
「アタシ達にも、紹介された三つの魔道具を貸して欲しいんだ」
ガディールの目が僅かに鋭く細められたが、口を挟むことなくレヴィの話の続きを待った。
「説明を聞いた限り、新兵器はかなり機動力があるみたいじゃないか。遊撃である以上、状況に応じて必要な箇所のフォローに回る必要があると思うが、今のアタシ達の装備じゃそこまでは不可能だ。それじゃあ遊撃の意味がないだろう?」
要求の意図を汲み取ったのか、ガディールは口を挟むことなく、髭を弄りながら思案を巡らせる。
「タダで寄越せなんて言わないさ。アタシ達は盗賊なんかじゃないからね。ただ、もし無事に戦争が終わって十分な戦績をあげることができたら、今回の報酬の金銭を半分を削る代わりに、装備を譲って欲しい」
一方的な要求ではないその提案に、ガディールは改めて暫く考え込んだのち、ウィガードの方へと目を配った。
それに気付いたウィガードは、小さく不敵な笑みを浮かべた後、「好きにしろ」と言わんばかりの余裕を見せて肩をすくめた。
「良いでしょう。具体な話は後ほどさせていただくとして、その方向性で調整致しましょう。ただ残された時間で装備を使いこなせますか?」
「こちとら毎日のように戦場で生きてるんだ。数時間でモノにしてみせるさ」
懸念点はこれで払拭できたのか、両者はそれ以上の追求はこの場ではせず、残すはレイスのパウリア王国のみとなった。
「……我々パワリア戦士団は、帝国と形は違えど団結力で真価を発揮する部隊です。遊撃という形を取ることも不可能ではありませんが、そうなると我々である必要が無いように感じます」
「……なるほど」
事前に同盟国の部隊情報を得ていたガディール自身も、まさにその点で彼らをどう組み込むべきか頭を悩ませていたのだろう。
指摘に深く頷き、僅かな沈黙を落として改めて思考を巡らせる。
「そこでご相談なのですが、基本は我々も帝国の陣形の動きに準じ、必要な際に即座に遊撃に回る形はどうでしょうか」
「ほぅ。と申しますと」
ガディールが続きを促すと、レイスはレヴィの方に視線を向ける。
「基本の遊撃はマキナ様と『砂漠の教義』の皆様が担うことになります。ただマキナ様は立場と名声上、より強力な魔族と戦うことが見込まれると思います」
「ま、アタシらは無名だからねぇ」
揶揄うような声色でレヴィが口を挟むと、レイスは困ったような苦笑いを浮かべた。
「そうご自分達を卑下しないで下さい。寧ろあなた方の機動力を信頼しての提案になりますから」
「ほほぉん?聞かせて貰おうじゃ無いの」
レヴィが更に問い詰めると、レイスは真剣な眼差しで改めて説明を始めた。
「先程のお話の通りなら、『砂漠の教義』の皆さんも帝国の魔道具によって高機動力を得ることになります。なので、戦況に応じて我々の行動の道標を示して貰うのはいかがでしょうか」
レヴィはまだしっくり来ていない様子であったが、マキナはいち早くその意図を理解した。
かつてエルゼルク王国で大型の『ボルム』が出現した際、グラップの的確な指揮で色別の信号弾を魔法であげ、魔物の位置を全軍に知らせていた。
それと似たような高度な情報伝達を行おうとしているのだろう。
「それでアンタ等の動きを決めるにしたって、入り組んだ戦場のなかじゃ、そんな簡単に身動きは取れないだろう?だからアタシ達は帝国の兵器を借りようとしてんだからさ」
「その通りです。ですから動かすのは我々ではなく、帝国兵と魔族になります」
レヴィはますます分からないと言った表情を浮かべるが、レイスは冷静に続ける。
「つまり、『砂漠の教義』の皆さんの合図で帝国兵を移動させ、魔族を誘導します。我々は誘導で開いた場所に真っ直ぐに向かうことで、魔族の群れと対峙します」
「あ〜……つまり、不測の事態で劣勢になった戦況をリセットする立ち回りをするってことか」
レイスが描いた戦術の全容がパズルのように繋がり、レヴィは「なるほど」と口角を上げて深く頷いた。
「無論それ以外にも応用は効くでしょうが、余り複雑にすると連携に支障が出るでしょうから、パターンは三つほどに留めましょう。無論、『砂漠の教義』の皆さんが協力して下されば出来る話ですが」
「ハッ!優男の癖に言ってくれるじゃないか。良いとも。この後細かく詰めていこうじゃないか」
両者が互いに戦士としての視線を交わし合い、力強く頷いた。
「どうやら内容はまとまったようだな」
ここで、これまで言葉を発していなかったウィガードが、足を組んだままの姿勢で口を開いた。
「この戦いは人類にとって非常に重要な分岐点となる。勝利を得るためには、帝国の力だけでは足らぬ。諸君らの尽力が必要だ」
グッと前屈みになった状態で、やはり皇帝らしい威圧的で不遜な口調で告げた。
「ともに、人類のために戦おうではないか」
※後書きです
ディ「(ボク一言しか話してないなぁ……早く終わんないかなぁ……)」
レイス「あの……ディジー殿が先程から虚空を見つめてらっしゃいますが……」
マキ「興味ない話が続いてるからぼーっとしてるだけです」
レヴィ「……度胸あるねぇ」
本日もお読みいただきありがとうございました。
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