112.協力要請③
ディジーが突きつけた三つの指摘は、実戦において致命的となる欠点であったにも関わらず、ガディールは自信に満ちた表情を微塵も崩すことなくそう返した。
「その理由をご説明いたしましょう。先ずはこれらの魔道具に必要な資源についてですが……」
そう説明しながらホログラムに向けて指を二回ほど振ると、そこに無数の『オア』鉱石のデータがズラリと表示されていく。
「採掘した鉱石をもとに、その成分や仕組みを徹底解析し、人工的に作り出すことに成功しています。既に増産体制も整っており、間も無く全軍に必要な個数を揃えられることでしょう」
「人工的に、あの特殊な鉱石を……!?」
マキナが驚きに思わず言葉を漏らしているのに対し、ディジーは口にこそしなかったが、その難しさを知っているが故に、険しい表情の裏で内心激しく動揺していた。
「無論、相応のコストと高度な技術が必要となりますが、天然の『オア』の八割近い出力は確保しております。流石にまだ従来の純度のものには劣りますが、実戦投入するには十分という検証結果が出ております」
再度指が振るわれると、ホログラムの映像がさらに切り替わり、目移りするほどの膨大な検証データが下から上に矢継ぎ早に流れていく。
「魔道具の外殻に必要な資源も、各拠点で確保しております。増産体制は整っております故、数の指摘についてはこちらで如何でございましょうか、プロディジー殿」
ガディールが余裕の笑みで問いかけると、ディジーは悔し紛れに「ふんっ」とだけ鼻を鳴らし、言葉は発しなかった。
それを肯定と受け止めたのか、ガディールは次の指摘についての回答を進め始める。
「さて、もう一つの魔力確保の問題ですが、こちらも対策はしてあります」
今度は指を横に振るうと、ホログラムに映っていた資料が横にズレて消え、再び盾の『ブルヴェール』が表示された。
「先程こちらの『ブルヴェール』の機能をご紹介させて頂きましたが、実はまだお話していなかった機能が御座います。それがこちらです」
ホログラムに映し出されていた盾が細かく分解され、複雑な回路を持ったいくつかのパーツとなって映し出される。
マキナはそれを見ても全く構造を理解できなかったが、ディジーは次第に目を細めていき、食い入るように眉を顰めた。
「これはまさか……」
そのままゆっくりとホログラムへと近づいていき、目を凝らしながらその回路の数々を視界に収めていく。
「分解した敵の魔法の魔力を吸収して、自らの魔道具の魔力として再利用するつもりか」
そこから導き出された答えを口にすると、マキナの視線は驚きのあまりディジーとホログラムを激しく行き来してしまう。
「それって、実質的にほぼ無限に魔道具を使えるんじゃ……」
「理論上はそうなります。無論、まだまだ解決しなくてはならない細かな課題は多く御座いますが、魔法の分解と吸収という根本的な形式は既に整っております」
宙をタップするようにガディールが指を動かすと、盾が再び一つの形状へと戻り、今度は実戦を想定したシミュレーションの映像へと切り替わった。
「先ず盾の中心部につけられた『ディスラプト・オア』、この効力が発揮する箇所を局所ではなく、盾の表面全体に、ヴェール状に展開されるよう調整致しました」
その情報だけでもマキナには驚愕であったが、本題はその先であるため、固唾を飲んで傾聴を続ける。
「魔法を分解するための効果範囲を拡げたため、『ブルヴェール』自体に掛かる負荷も大きく軽減され、分解できる魔法の規模も拡大。人間基準にはなりますが、『ウル』級の魔法の分解にも成功しています」
「『中級』まで……それを全軍に量産できるとなれば、確かに大いなる脅威だ。勝率も大きく変わってくる」
論理的に全てを解決された以上、流石のディジーも唸ることしか出来ず、反論することなく重い沈黙へと陥ってしまう。
「さて、これでプロディジー殿の仰っていた課題は全てクリアしたかと思われます。最終調整にあと数日の時間を要しますが、それさえ終えれば準備は整いますが……」
そこまで話したところで、ガディールはホログラムから目を離し、マキナとディジーの方へと静かに向き直る。
「『クイントスクーロ』が加わったことで、これだけでは不十分であると考えております。そこで……」
そう言うとガディールはそのまま丁寧に腰を折り、頭を深く下げ、二人に頼み込む。
「人類の悲願のため、人類の平和のため、この戦いに二人のお力をお貸しいただきたい」
国内で最高執政官という皇帝に次ぐ絶対的な地位に有りながら誠意を欠くことなく、ガディールは正式に二人に依頼をかけた。
ディジーとしては彼らの強かさに懸念と同じくらい不安や不信感が募っていた。
しかし、帝国の最新の技術を一切秘匿することなく伝えた上に、自身が指摘した課題に対しても非の打ち所がないほど真摯に回答を示したのだ。
「……分かりました。私は協力します」
そうなれば、マキナが拒否する理由はなくなり、悲しき『英雄』の性として了承することは目に見えて分かっていた。
一抹の不安を残しつつも、ガディールが誠意を見せたのは事実であり、マキナがこれを飲んだ以上、ディジーもこれ以上断ることは出来なかった。
「……分かったよ。ボクも協力する。だがもう少し詰めた作戦内容を共有してくれよ?流石に装備だけ作って突撃するだけじゃ無いんだろう?」
「もちろんで御座います。細部を詰めて確定致しましたら、お二人にも作戦会議に参加していただきたく存じます」
最後の了承を経たところで、二人は重苦しい司令室を後にする。
その背中が完全に見えなくなるのを見届けたのち、ガディールは兵士達が座るモニターの方へと体を向けると、先程までの慇懃な口調とは全くことなる、冷ややかな口調で告げた。
「『ドミニオン』の完成を急げ。時間は残されていないぞ」
「「「ハッ!!」」」
ガディールの冷酷で淡々とした指示に、その場にいた兵士たちが一斉に答えた。
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用意された自室に戻り、マキナはベッドに腰掛け兜を取り、ディジーはベッドに飛び込むようにして仰向けに寝転んだ。
そして昨日と同様に指をパチンと鳴らすと、二人の周囲に透明な薄い膜が貼られ、直ぐに大気に溶け込んで透明になって見えなくなる。
「あ〜クッソ〜〜〜!!完璧に手玉に取られたというか、完全に掌の上で転がされてるって感じだぁ!!」
確実な防音状態になったことを確認してから、ディジーはベッドの上で手足をジタバタとバタバタさせながら子供のように喚き出した。
「みっともないよ、ディジー」
「だって!!君は悔しく無いのかい!!最初の戦いの話から、解決案まで、全部向こうの用意した段取り通りに進められたんだよ!!」
マキナに優しく嗜められるも、ディジーは腹の虫が全く収まらないといった様子で尚もギャーギャーと喚き続ける。
「しょうがないよ。『英雄』なんて言われてるけど、戦場では一介の戦士。向こうは国を動かす執政官。私がいくら喚いたところで、何か変わるわけじゃないから」
達観したように、そうひどく寂しそうに話すマキナの言葉を聞いて、ディジーのバタバタとした動きがピタリと止まり、ハッとしてマキナに目を向けた。
「……ごめん」
「えっ!?あ、違う違う!!ディジーを責めたとかそういうのじゃないよ!!ただ私にとって、魔族関連で誰かの意向に沿って動くのは当たり前のことだったから……わわっ!!」
慌ててそこまで話したところで、ディジーはベッドから勢いよく起き上がって、マキナの身体をギュッと抱きしめた。
マキナとしては気を使わせてしまったことへの謝罪のつもりであったが、それが更にディジーの心を痛め、気を削ってしまっていたことに気づいていなかった。
「うぅ……君はもっと自由に生きて良いんだよマキナ……ボクが君を幸せにするからぁ……」
「お婿さんじゃないんだから……」
そのままマキナに涙ぐんで抱きついていたものの、マキナが硬い鎧を外していなかったために物理的な痛みの方が勝ったのか、程なくして「イテテッ」と離れる。
「何はともあれ、魔族との大規模な戦闘が起こるのは確定した。帝国に協力する以上、ボク達も備えないわけには行かない。それに……」
痛む胸をさすりながら、ディジーは表情を真剣なものへと変わっていく。
「帝国はまだ何か隠しているようだしね」
※後書きです
ディ「それはそれとして、やっぱり掌で踊らされてるのは悔しい!!」
マ「ディジーだって似たようなことするじゃん……」
ディ「マキナさん!?」
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