111.協力要請②
空中に展開された青白いホログラムに映し出されたのは、用途の異なる三つの魔道具であった。
「えっと……盾に靴に……これは、小型の砲身?」
「当たらずとも遠からず、といったところで御座いましょうか。順番にご説明致します」
ガディールが再びホログラムを操作すると、三つの魔道具のうち、まずは靴の映像が空中に引き伸ばされて拡大される。
「こちらは推力を発生させるシューズで御座います。安直では御座いますが、『スラストブーツ』と名付けましょうか」
ガディールが空中でタクトを振るように指を滑らせると、ホログラムの靴は細部の構造を晒すようにゆっくりとその場で回転を始めた。
「複雑な説明は省かせていただきますが、ブーツの底に『ウィンド・オア』より更に強く希少な『ゲイル・オア』の破片が精巧に組み込まれています」
「ははぁん?つまりそれを使って推進力を得ようと言うわけか」
ガディールが解説し切る前に、ディジーが鼻を鳴らしながらあっさりと仕組みを言い当てる。
だが彼は不快な顔一つ見せず、寧ろ感心したように深く頷いた。
「流石で御座います、プロディジー殿。仰る通り、これは兵士の機動力を上げる目的で作られたものに御座います」
「ふぅん……効果自体は目新しい物では無いけど、ここまで小型化したのは素晴らしいね。大きくて便利な物ならいくらでも作れるが、それを人の足に収まるよう小型化するとなると、途端に難儀するからね」
技術の勘所を突いたディジーの的確な評価に、ここで初めて、機械のように無表情だったガディールの顔に僅かな驚きが走った。
「驚きましたな。大抵の者はその分かりやすい効果に目を向けるのですが。プロディジー殿は着眼点がまるで技術者そのものだ。どこかで学ばれていらっしゃるのですか?」
「ボク、天才だから」
いつもマキナに向けて笑いかける軽快なトーンは、そこには微塵もなく、突き放すような冷たい声色で口にした。
あまりの態度の違いにマキナは兜の奥でハラハラと視線を彷徨わせたが、ガディールはそれ以上踏み込むことなく、淡々と次の魔道具を空中に映し出す。
「次はこちらです。見ていただくと分かる通り、一見はただの盾に見えるかと思います」
ガディールの言葉通り、形状はオーソドックスなヒーターシールドに近い。
肩から腰までを覆えるサイズで、その分厚さから、実物はそれなりの重量になりそうに見えた。
「こちらは、帝国兵達の基本装備である『ブルワーク』という盾を基礎に、いくつかの特殊な機能を付け加えたもので御座います」
ガディールが手を翳すと、ホログラムの盾が幾層にも分解され、内部構造が表示される。
「この新型『ブルワーク』、名前を『ブルヴェール』と申しますが、直撃した魔法を分解する機能が付いております」
魔法を分解する機能。それにディジーは怪訝そうに眉を顰めた。
「魔法を分解……?簡単に言ってるが、かなり高度な技術だよね?」
ディジーの指摘にも、ガディールは落ち着いた様子で盾の中心部分を拡大させた。
「ご覧下さい。盾の中心に、『ディスラプト・オア』が設置されております。マキナ様はご存知でいらっしゃいますか?」
「……ごめんなさい。『オア』系列の鉱石があることは知っているのですが」
話を振られたマキナは、素直に首を横に振って答えた。
「鉱石系は普通に生活していたら接点が無いからね、仕方の無いことだよ」
そこですかさずディジーがフォローに入り、ガディールに代わって流暢に語り出す。
「『ディスラプト・オア』は通称、魔法使い殺しと呼ばれている鉱石だ。他の『オア』と同様に大気に触れると効力を発揮するんだが、これが厄介でね。噴き出した魔素が、従来の大気に蔓延している魔素を強制的に乱しちゃうんだ」
「魔素を……あ、そうすると魔力を上手く操れなくなるから、魔法も使えなく……」
マキナが戦士としての勘で推測を口にすると、ディジーは我が事のように頷いた。
「あれ?でもそれって、ディジーが使ってた『チャフ』と同じ……」
マキナがふと小声で呟いた途端、ディジーが隣で「んん゛っ!!」と大きな咳払いをした。
分かりやすく話を遮るような態度に、マキナはそれ以上追及せず口を噤んだ。
「先ほどプロディジー殿が説明された通り、『ディスラプト・オア』にはそのような効力があります。その効果範囲を制御し、盾の前面にヴェール状に展開することで、敵の魔法を無効化する代物で御座います。これにより、魔族の魔法にある程度対抗する事が可能となります」
ディジーは小さくため息をこぼしたが、最後の一つがまだ残っていたため、すぐには口を挟まずに静観した。
「そして最後はこちらでございます。小型の砲身、射出器となっており、込めた魔力を放つ魔道具。名を『エーテルエミット』と申します」
「魔力を放つ……ね。つまり、『スラストブーツ』で機動力を確保し、『ブルヴェール』で身を守り、『エーテルエミット』で攻撃するわけだ」
最後の一つの説明を受けたところで、ディジーは不満げにホログラムを睨みつける。
「確かに、理に適ったバランスの良い装備だ。小型化もされていて、兵士の扱いにも困らないだろう。だが……実戦投入となると、いくつか不明な点があるな」
マキナとガディールの視線が集まる中、ディジーはスッと人差し指を一本立てる。
「まず一つ目、量産化の目処だ。いくら優秀でも、少なくては戦場でそこまで大きな効果は見込めない。量産化出来ないなら、魔族を相手にするための戦力としてカウント出来ないな」
マキナが戦力差を想像して頷く横で、ディジーは二本目の指を立てた。
「二つ目。そもそも増産するのに必要な資源の確保だ。鉄程度ならいくらでも補充がきくだろうが、『オア』系、とりわけ『ディスラプト・オア』は希少だ。量産の前に確保すら困難なら話にならない」
ディジーは鋭い眼光をガディールに向け、「そして……」と続けながら三本目の指を立てる。
「その装備を使うだけの、肝心の『魔力』。一つ一つの機能と連携させた時の性能は凄まじいだろうが、それには当然、莫大な魔力が必要になる。三つも同時に使いこなすとなれば尚更だ。一介の帝国兵が実戦で持続させられるとは、到底思えないがね」
淀みなく突きつけられた三つの課題を聞き、マキナも「言われてみれば……」と頭を切り替える。
『ディスラプト・オア』の希少性は、先ほどガディール自身が語ったばかりだ。
一軍を満たすほどの確保は至難を極めるだろう。
そして何より、魔力消費の問題は見過ごせない。
人類の平均的な魔力量は、魔族に比べて少ない。
この魔道具が一回の使用でどれほど魔力を喰うかは分からないが、自身の魔力を動力源として使う以上、持久戦には全く向かない。
死闘の最中に魔力の残量を気にする懸念は、そのまま死に直結する。
人類の英雄として誰よりも苛烈な死線を潜り抜けてきたマキナだからこそ、それがどれほど致命的なリスクであるかは容易に想像がついた。
ディジーに続き、マキナもスッと目を細めてガディールを見据える。
本当に、この武器に実用性はあるのか。
鋭く刺さるディジーの指摘と、実戦の過酷さを知るマキナの静かで重たい眼差し。
二人の視線が交差して突き刺さり、室内の空気は呼吸すら躊躇われるほどに張り詰めた。
しかし、その只中に立つガディールは、表情筋一つ動かすことはなく、冷静な眼差しのまま、自信に満ちた声で短く答える。
「問題ございません」
※後書きです
マ「私も使ってみたいなぁ……」
ディ「君の場合、走る殴るの方が手っ取り早いと思う……」
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