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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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100.情報収集③

※100話到達記念として、来週まで連続更新します!

「知る方法をって……ディジー、何か知ってるの!?」



 すがるような言葉にマキナは食いつくように顔を寄せるが、ディジーは顔を離しこそしなかったものの、その先の選択を躊躇っているのか気まずそうに視線を背けた。



「ディジー、お願い教えて!あの『種』は本当に危険なの!もし『種』じゃないものにも成り変えれるとしたら、色んな国に被害が……!!」



 切実な声で更に詰め寄るマキナに対し、ディジーはゆっくりと視線を戻す。


 その瞳はどこまでも美しく、己の使命に対して純粋で真っ直ぐであり、その曇りのない光がディジーの胸の奥で渦巻く深い葛藤に強く影響を及ぼしていた。



「どうして……君は、そこまで……」

「え……?」



 唇を噛み締めて小さく零されたディジーの声はマキナの耳には届かず、ディジーは息を溢す。



「……それが君の美徳なのだとしても……やっぱりボクは……」



 どこか自嘲気味にぶっきらぼうに答えると、ディジーは無造作に手を自身の顔の近くまで掲げて人差し指を立てる。


 その指先にはチロチロと燃えるような蒼白い魔力が漂っており、光の先端が不規則に揺れながらも、まるでコンパスの針のように規則的に同じ方角へと向かって微かに靡いていた。



「ディジー、それは……?」



 不思議そうに見つめるマキナの問いに、ディジーはその揺らめく蒼い光を見つめたままやや険しい顔付きで口を開く。



「これは、マ(・)リ(・)ア(・)ル(・)ザ(・)の(・)魔(・)力(・)だ(・)」



 予想外の回答に、マキナは驚きに大きく目を見開いた。



「正確には、マリアルザの魔力を追っているボクの魔力だ。この揺らめきの方角に沿って進めば、マリアルザの居場所に辿り着くことが出来る」



 最早その事実への驚きが追い付かず、暫く唖然としたまま小さく口を開いていたマキナであったが、やがてハッと我にかえり慌てた様子で改めて問い詰める。



「ど、どどどどどういう……え、なっ、なん……」

「落ち着いて落ち着いて。ちゃんと説明するよ」



 理解が追いつかずに言葉を上手く紡げないマキナを、ディジーは両手を軽く振って宥めるように嗜めた。



「マリアルザの魔法の分析しつつ、魔力そのものも解析していてね。最後の攻撃の最中に、マリアルザの魔力にボクの魔力をマーキングして追尾できるようにしておいたんだ」

「あの戦闘の最中に、そんなことまで……」



 死闘のさなかに仕込まれていた底知れない芸当にマキナが感嘆の言葉を漏らすと、ディジーは「まあ、ボク天才だからね」と誇るでもなくどこか寂しそうにポツリと呟いた。



「じゃあ、さっき言ってた、知る方法って……」

「……マリアルザに、直接問い詰めてやれば良い、って意味さ」



 そのあまりにも単純明快な回答に、マキナの背筋にゾクゾクと氷を当てられたような悪寒が走った。


 それはつまり、つい先程完膚なきまでに敗れた相手に再び挑むという意味と同義だからだ。


 大勢の死者を見せつけられた絶望感がフラッシュバックするが、魔族を倒し世界に平和をもたらす事こそが『英雄』たるマキナの絶対の使命である。


 例え一度敗れようともいずれは必ず打ち倒さなくてはならない相手なのだと自身を鼓舞し、震えそうになる手をもう片方の手で抑え込む。


 そして大きく深呼吸をした時、再び顔を上げた彼女の瞳から恐怖の色は完全に消え去っていた。



「分かった。ディジー、私をマリアルザのところにまで案内してくれる?」



 迷いを振り切ったその声に対し、指先で揺れる魔力をスイスイと弄びながらディジーは冷ややかな視線だけをマキナに向ける。



「案内したとして、君はどうするんだい?」



 これまでマキナに好意的で甘やかすようだった口調とは打って変わり、ディジーはどこか冷たく、しかし真摯に問い返した。



「……マリアルザともう一度戦って、『種』の正体と意味を問い詰める」

「勝てなかった相手にかい?」



 心を射抜くような鋭い視線と的確な切り返しに、マキナはぐっと言葉が詰まってしまう。



「そ……れは……でも……次こそは!」

「それは君が『英雄』だから?それが君の使命だから?だから負けるかもしれない相手に直ぐに立ち向かおうとするのかい?」

「ディ、ディジー?」



 ディジーの口調が次第に強くなり、その視線は怒りを含んだように険しさを増してそのままマキナへと詰め寄る。


 しかし不思議なことに彼女から敵意などはまるで感じられず、その声色から痛いほどに伝わってくるのは行き場のない悲痛な感情ばかりであった。



「君が誰かのために、何かのために、世界のために戦って、辛い思いをして!それが誰かに分かって貰えたことがあるのかい!?人知れず苦しんでいるのを、誰か一人でも支えてくれたのかい!?」

「ディジー……」



 何故彼女がこれほど感情を剥き出しにして言葉を浴びせかけているのか理由は分からないが、その心根が深くマキナを想ってのものであることは、握りしめられた拳の震えから痛いほどに理解できた。



「どうして君が……どうして君ばかりこんな目に合わなきゃいけないんだ」



 終いにはマキナの胸元に崩れ落ちるように顔を伏せ、耐えきれないように肩を震わせ始める。


 彼女がそこまでマキナの境遇に思い詰める理由は定かでは無かったが、マキナは逃げることなくその重い想いを正面から受け止めた。



「ディジー……」



 呼び掛けに反応はないがじっと耳を傾けている様子が見られ、マキナは伏せられた彼女の背中を見つめながら静かに話し始める。



「あのね私、最近になって気付いたんだ。自分が思ってる以上に、私のことを想ってくれている人がいるんだってことに」



 ディジーは何も言わないが、マキナの話の続きを待っているようであった。



「最初は分からなかった。だって魔族と戦うのも、平和を齎すのも、生まれ持った使命だったから。だから、一人で戦って傷付くのは当たり前のことだって、ずっとそう思ってたから」



 その言葉を聞いた瞬間、マキナの腕を掴むディジーの手の力がギリッと強くなる。



「でも、この間のエルゼルク王国での戦いを経て、ちゃんと教えて貰ったよ。私が怪我をしたら悲しむ人がいるってことを」

「……だったら」

「でもね」



 だったら戦うべきではないと小さく溢したディジーの言葉を、マキナは柔らかく遮って続ける。



「私の使命も本当のことだよ。魔族と戦うことも、平和をもたらすことも、私に与えられた『英雄』の使命。だから、それを蔑ろには出来ないよ」



 ディジーの頭にソッと温かい手を乗せ、マキナは言い聞かせるように優しく語りかける。



「痛いし辛い。でもそれを分かってくれて、想ってくれる人がいる。だからこそ、私は逃げずに奮い立たなきゃいけない。だって『英雄』だもん」



 乗せていた手をゆっくりと動かしてディジーの頭を愛おしむように優しく撫で始めると、ディジーは顔を伏せたまま鎧ごしにマキナの腰に手を回し、少しの間だけ強く抱きしめた。


 自分もその一人であると、言わんばかりに。


 程なくしてディジーはゆっくりとマキナから離れると、その目元は堪えていた涙で薄らと赤く染まっていた。



「……これ以上何を言っても今は変わらないんだね?」



 その問いにマキナは言葉にはしなかったが、代わりに困ったような、それでいて決意に満ちた苦笑いを浮かべて答えた。


 その表情を見て完全に観念したのか、ディジーは呆れたように大きく溜息を溢し、いつもの飄々とした表情を浮かべ直した。



「分かったよ、頑固者め。今回はボクが折れよう。マリアルザの追跡、ボクが請け負う」



 マキナがパッと顔を輝かせてお礼を言おうとした瞬間、ディジーがピシッと人差し指をマキナの顔の前に突き出した。



「ただし!ボクも同行する!それが妥協点で絶対条件だ!!」



 明るくいつもの調子の良い口調であったが、その瞳の奥には決して譲らないという強い意志が宿っていた。


 色々と危険を考えた末にこの押し問答を覆すのは不可能だと判断したマキナは、今度は自身が折れる形で彼女の同行を承諾した。

※後書きです



ディ「それはそれとして、マキナを苦しめた奴は末代まで呪ってやる」

マ「ディジーならほんとに出来そうだからやめて」




本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

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