101.集結
※100話到達記念で16日まで連日更新します!!
辺境の最奥、巨大な山岳地帯。
その岩陰から入った冷たく湿った洞窟の最深部に、無数の傷を負ったボロボロのマリアルザが、痛々しく身体を引き摺りながら生還を果たしていた。
「アーハッッハッハッハッハッハ!!派手にやられたなマリアルザ!!」
姿を見せた瞬間、マリアルザの無惨な有様を嘲笑う下劣な笑い声が薄暗い洞窟内に反響し、マリアルザは射殺すような鋭い視線を笑い声のした方へと向ける。
視線の先には三人の人影があり、その内の中央に腰を下ろす人物が下卑た笑みを浮かべていた。
「相変わらず品のない笑い声と声量ですわね、フェッランテ。癪に障りますわ」
敵意を剥き出しにして吐き捨てたマリアルザの言葉に、フェッランテと呼ばれた魔族は微塵も動じず、寧ろ立ち上がって重い足音を響かせながらマリアルザへと近づく。
彼女は恐ろしくも麗しい肉体美を持つ女性の魔族だった。
身長は二メートルに迫り、筋骨隆々としたその身体からは、ただ立っているだけでも濃厚な闘気が立ち込めている。
自然体でいるだけでも他者の本能を畏怖させるほどの威圧感があり、並の者であればその凶悪な眼光に睨まれただけで足が竦む程の存在感を放っていた。
「あんだけ見栄を切っておいて、こんな無様な姿で帰ってきたお前に言われたくねぇなぁ」
巨体を屈めてマリアルザの顔に自らの顔を近づけるが、圧倒的な体躯差から、それでも見下ろされるような形になっており、マリアルザの表情が屈辱でますます険しくなる。
「何にもせずに引き篭もっている貴方達に言われたくありませんわね」
売り言葉に買い言葉となり、マリアルザとフェッランテの間でチリチリと肌を焼くような一触即発の空気が漂う。
「もう良い。いつまでやってる」
フェッランテの背後で座っていた二つの影のうち、片方の人物が静かに声をあげて間に入った。
「重要なのは魔力だ。マリアルザ、魔力の回収は出来たのか?」
その人物が静かながらも芯のある重い口調で問い詰めると、マリアルザは幾分か落ち着いた表情を取り戻し、どこからともなく取り出した鉄扇を優雅に広げた。
広げられた鉄扇の扇面には無数の小さな光が集約されており、洞窟の闇を照らすように煌々と妖しく輝いている。
「魔力は回収してありますわ。予定より少なくはありますけれど」
「その使命が果たせてるなら良い。『器』に注いでおけ。フェッランテももう十分だろう」
その言葉を聞いて、マリアルザとフェッランテの両者は素直に距離を取り、マリアルザは休む間もなく洞窟の更に奥へと入っていった。
彼女の姿が闇に紛れて見えなくなると、フェッランテは再びニヤリと悪魔的な笑みを浮かべる。
「見たかよフォルゴール、ヴィンセリス。いつもの余裕綽々の笑みが完全に消えてたぜ。誰にやられたんだろうな!」
フェッランテの嬉々とした言葉に、フォルゴールと呼ばれた男性の魔族が呆れたように深い溜息を溢す。
「よせと言っただろう。勝敗など問題じゃない。重要なのは魔力だ」
「ハッ〜〜〜冷めてんな!!私は人間に敗れるなんてプライドが許さねぇけどな。なぁヴィンセリス!!」
岩陰に座るもう一人の人影にフェッランテが話を振るも、ヴィンセリスと呼ばれた小柄の女性の魔族は表情一つ変えずに淡々と応えた。
「興味ない」
「カッ〜〜〜!!お前もかよ!!どいつもこいつも腑抜けてんなぁ!!」
退屈そうに天を仰ぎながら乱暴に髪を掻きむしり、フェッランテは近くの岩にどすんと音を立てて荒々しく座る。
「ったく、いつまで私達はこんな薄暗いところに居なきゃなんないんだ?とっとと私達で人間共を殲滅しちまえば良いだろ」
不機嫌に不貞腐れた様子で不満を漏らすフェッランテに、フォルゴールが冷ややかな視線を向けた。
「その行動を取った結果、我等は一度、たった一人の人間に敗れたことを忘れたか」
過去の絶対的な屈辱を突き返されたことで、フェッランテは不機嫌そうに顔を歪めながらも押し黙った。
「もう同じ轍を踏むわけにはいかない。だから我等はここを守るのだ。魔王様生誕のその時まで」
「……わぁったよ」
フォルゴールの言葉の重みに納得し、フェッランテは渋々といった様子で頷いた。
程なくして奥に入っていったマリアルザが三人のもとに戻ってくるが、時間の経過で魔力に余裕が出来たのか帰還時に見られた怪我の殆どは修復されている様子であった。
「マリアルザ、どうだった」
問われたマリアルザは直ぐには答えず、自らが座れる岩場までゆっくりと移動し、腰を下ろしてから口を開いた。
「ダメですわね。100人前後の魔力を注ぎましたけど、半分も溜まっていませんわ」
その期待外れの返答に、フォルゴールは瞼を閉じて僅かに俯いた。
「やっぱ人間共のちっぽけな魔力じゃ足りねぇんだって。魔族から魔力を掻き集めれば手っ取り早いだろ」
「そうなれば人間共と戦える同胞が減る。生き死には構わないが、ここを嗅ぎ付けられる事態になることは避けたい」
あまりこういった理詰めの話は得意ではないのか、フェッランテは「チッ」と舌打ちしながらもそれ以上の反論はしなかった。
「でもフォルゴール、このままじゃ遅かれ早かれ、ジリ貧よ」
「……分かっている」
ヴィンセリスの冷静で的確な指摘に、フォルゴールは頭を悩ませるかのように額に手を充てる。
重苦しいしばしの沈黙が流れたその時、ふとヴィンセリスがある事に気が付いた。
「ねぇマリアルザ。それ、何?」
「……?なんのことでしょう?」
マリアルザが自身の変化に気付けないでいると、ヴィンセリスが音もなく岩から降りてマリアルザに近付き、肩の辺りを指差す。
「これ」
「……?……ッ!?」
そこまで細かく指摘され、マリアルザはようやく自身の纏う魔力の一部に、異質な不純物が紛れ込んでいることに気が付いた。
「こ、これは……!?」
屈辱に顔を歪めたマリアルザが忌々しげにそれを取り除こうとした瞬間、いつの間に接近していたのか、フォルゴールがその手をガシッと止め、興味深そうにその魔力の残滓を見つめた。
「……驚いたな。ここまでマリアルザの魔力に寄せられるのか」
「すごいね。今の今まで、私達誰も気付けなかったもんね」
最早敵ながら感心の域のレベルの技術に、フォルゴールだけでなくヴィンセリスも興味を持ってその微細な魔力を見つめていた。
「でもフォルゴール、これってまずいんじゃない?」
「……これがマーキングのような役割を果たしているのだとすれば、この場所が特定されるかもしれないな」
フォルゴールがそう事実を口にすると、背後でフェッランテの腹を抱えるような大きな笑い声が洞窟内に木霊した。
「笑えるぜマリアルザ!!お前負けただけじゃなく、マーキングまでされて帰って来たのかよ!!」
ギリッ、と奥歯を強く噛み鳴らす音が聞こえたものの、致命的な失態を犯したマリアルザは何も言い返せず、悔しそうに黙り込む。
「どうするフォルゴール。今からこれを祓っても、もうこの場所は特定されてるかも知れないわ」
ヴィンセリスの言葉に、フォルゴールはしばし考えた末に静かな声で結論を出した。
「そのままで良い」
「おいおい正気かぁ!?この場所を手放すつもりかよ」
堪らずフェッランテが問い詰めるが、フォルゴールは片手を挙げて「落ち着け」と制止する。
「いまここでこの残滓を消せば、この魔力の持ち主も気付き警戒する。場所を特定され警戒までされては、我々が不利になるばかりだ」
「……それで、どうするのです」
自らの魔力に不純物が混じったままで強い嫌悪感を見せるマリアルザが問い詰めると、フォルゴールが淡々と答える。
「その魔力の持ち主が場所の特定をしようとしているのなら、逆に誘い込んでやろう」
予想外のこの言葉に三人は三様のリアクションを見せる中、一番冷静そうなヴィンセリスが問いかけた。
「何のために?」
「魔力のためだ」
フォルゴールがそう答えるとヴィンセリスとマリアルザは意図を理解したのか頷くが、フェッランテだけはまだ首を傾げていた。
「分かんねぇな。なんでここに呼び込むことが、魔力を集めることに繋がるんだ?」
フォルゴールはフェッランテの方を振り返る。
「ならもっと分かりやすく言ってやろう」
その端正な表情にひどく悪どい笑みを浮かべながら、彼はこう告げた。
「人間共を集めて根こそぎ魔力を集めるのさ」
※後書きです
ヴィ「マーキングされたって……なんかえっちだよね」
マ「やめてくだいます!?」
本日もお読みいただきありがとうございました。
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