102.追跡
※100話到達記念で16日まで連日更新します!
拠点を離れてから丸一日が経過していた。
二人は隠しておいた『アリヴェント』を駆り、マリアルザの魔力の残滓を辿ってひたすらに移動を続けていた。
「前に乗った時はヘーニオさんの運転だったけど、ディジーも操縦出来るんだね」
「だからアレはボクが生み出したもので……いやでも確かに操縦はヘーニオがしてたから間違ってないのか……?」
自身の生み出した人形との関係性に頭がこんがらがりそうなやり取りの最中、マキナはふと気付いて尋ねる。
「そう言えば、何でヘーニオさんを作って接触したの?最初からディジーの姿で出てきてくれれば良かったのに」
痛いところを突かれたように、ディジーは「うーん……」と唸ってから気まずそうに答える。
「君の前に姿を見せるか悩んでいたんだよね。実際、相手がそこらの魔族だったらある程度の補助をして去るつもりだったから。でも現れたのが『クイントスクーロ』の『迷霧のマリアルザ』だったから、やむを得ずね」
「……そんなに私と会いたくなかったの?」
「いや違くて」
シュンと肩を落として項垂れるマキナに対し、ディジーは慌てて釈明する。
「うーん……ボクもボクで探しているものがあってね。まだその道半ばだから、君の手助けをしたら、それを探す旅を続けるつもりだったんだよ」
「……じゃあ、私がディジーの旅の邪魔をしちゃったってこと?」
「いや違くて」
更に見るからに落ち込んでしまったマキナを、ディジーが必死に嗜める。
「まぁ正直少し行き詰まっていてね。次の目的地をどうしようか悩んでいたんだ。そこに君の窮地が重なって、そして別の目的が出来た。だから好都合だったんだよ」
誤解を解くように屈託の無い笑みを浮かべてマキナに向けると、彼女もようやく安心したように微笑んだ。
「それにしても君、前に会った時とは違う防具付けてるね?」
落ち着きを取り戻したディジーは横目でマキナを見遣り、彼女の身に纏う新調された防具に目を付ける。
「あ、うん。前のはさっき話した、エルゼルク王国でのキメラとの戦いでボロボロになっちゃって。一緒に戦った人達が贈ってくれたの」
マキナの言葉にディジーは「ふぅん……」と興味深そうに呟いた後、ジッとその真新しい防具を凝視する。
「うん、良いね。どれもかなり良い物ばかりだ。正直前のは安上がりすぎて、見ていて心配だったからね」
「え゛っ」
図星を突かれたマキナの反応にディジーは「クックック!」と笑い声を上げた後、真剣な眼差しで改めて防具に目を向ける。
「でもそれだけじゃ無い。防具にいくつかの魔法がかけられているね」
その言葉に、マキナは思わず目を開いて驚いた。
「すごい……見ただけで分かるの?」
「まぁボク天才だからね」
最早彼女の決まり文句となった言葉を口にして、ディジーは真っ直ぐに前へと向き直る。
「まぁ実際、すごい整った魔法がかけられてるね。君の戦闘スタイルの邪魔にならないようにしつつ、様々なデバフ対策や魔法耐性をかけてある。それに防具自体の耐久度も上げてあるのかな?なんにせよかなりの実力者とみた」
一目見ただけで高度な魔法構造を完璧に見抜いてみせたディジーに驚きつつ、マキナは大切そうに自身の防具に手を触れた。
「その魔法は、エルゼルク王国の魔法師団長のシェリーさんがかけてくれたんだ。少しでも、傷を減らせるように、って」
「エルゼルク王国魔法師団長、シェフェリア・レイズウォッドか。直接会った事は無いが、名前を耳にした事はあるよ。なるほどね、そりゃ綺麗な魔法構造になるわけだ」
ディジーにとってもその名は納得のいく人物だったのか、感心したように何度か深く頷いた後、今度はマキナの胸元の辺りを見る。
「……懐にも何か防具があるのかい?」
「え?ここには何も。あとは足場に置いてある兜だけだけど……」
そう言い返した直後にふと思い出してマキナは自身の懐を漁りだし、そこから取り出されたのは桜色の宝石が付けられた花形の髪飾りであった。
しかしそれを見た瞬間、ディジーの顔が明らかな驚愕に染まるも、手元に夢中なマキナはそれに気付かない。
「そ……れは……」
「これはね、ラヴィスさんって人から貰った、大切なものなの」
貰ってから日にちが経ち、幾多の過酷な戦場を迎えたにも関わらず、その髪飾りは傷一つなく綺麗に維持されており、あしらわれた桜色の宝石は眩しいほどに澄んだ輝きを放っていた。
マキナがどれほど大事に扱っているかが見て取れる美しさであったが、ディジーの目は装飾の美しさではなく、全く別のところへ向けられていた。
「その……宝石。それにかけられているのは……」
震える声でディジーが何かを言いかけるも、次の瞬間にはハッと前方に顔を向け直し、急ブレーキをかけるように『アリヴェント』を停止させた。
「ディジー?」
ディジーは直ぐには答えず、『アリヴェント』の浮遊を完全に止め、マキナを地面に降り立たせる。
自身も静かに降りたったあと、『空間魔法』で作られた空間の穴に手際よく『アリヴェント』を収納した。
「ディジー、どうしたの?」
ただならぬ気配にマキナが改めて問いかけると、ようやくディジーはマキナの方を振り返り、やや険しい表情を浮かべながら自身の指を見せた。
以前にも見た指先の魔力の蠢きであったが、その揺らぎは以前よりも遥かに強くなっており、迸る蒼白い魔力も小さな炎ほどに大きくなっていた。
「近い、ってこと?」
「少なくともこれくらいの反応が出るくらいにはね。それに……」
ディジーは魔力が強く揺らぐ前方の山奥へと目を向け、立ち込める不気味な気配を凝視するようにして見つめる。
「恐らくだが、マリアルザに匹敵する魔力の持ち主がいる。それも一人じゃない」
「マリアルザに匹敵って……もしかしてそれって」
確信を帯びたマキナの言葉にディジーが静かに頷き、その続きを重い口調で口にした。
「恐らく……いや、間違いなく、残りの『クイントスクーロ』が集結しているのだろうね」
強大な魔族たちが一堂に会しているという絶望的な事実を突きつけられ、マキナの顔付きが険しくなり、握る拳にギュッと力が入る。
「じゃあ、そこに行けば……」
「色々分かることもあるだろうね。君の話す『種』のことも、勿論」
マキナの覚悟を認めるように頷きつつも、ディジーは「でもね……」と釘を刺すように続ける。
「それは理想の話だ。今から向かう場にいるのは『クイントスクーロ』だ。話してくれるなんて都合の良いことは絶対に起こらないし、ましてや戦闘になれば敗北はほぼ必須だ」
「……ディジーがいても?」
「ボクが居ても、だ。『クイントスクーロ』一人ならなんとかなるかもしれないがね、四人も揃っているともなると、どう足掻いても不可能だよ」
一切の希望を持たせないディジーの即答に、マキナは暫く黙り込むが、やがて顔を上げて力強い瞳で真っ直ぐに返した。
「それでも、行く。可能性があるなら、行かなきゃ」
「……ま、君ならそう言うだろうと思ったよ」
ディジーもマキナの真っ直ぐな性格から答えは分かっていたのだろう。
無謀な決意を拒絶することなく、その回答をすんなりと受け入れた。
そして再び『空間魔法』を発動させ、その空間の穴をゴソゴソと弄りだしたかと思うと、スポッと勢いよく手を引っこ抜く。
抜かれた彼女の手には、二枚の怪しげなローブが握られていた。
「……それは?」
「『遮断隠密ローブ』だ!」
尋ねられたディジーはえっへん!と得意げに胸を張って答える。
「これは内側が自身の魔力を遮断する作り、外側が外部の色と同色に変色する優れものでね!!姿気配を消して立ち回りたい時にうってつけの魔道具さ!!」
先程までの緊迫した空気など微塵も感じさせないほど鼻高々と見せびらかすディジーに対し、マキナは複雑且つひどく冷めた表情でそれを見つめていた。
「……一応聞くんだけど、その魔道具って」
「無論!!ボクのオリジナル作さ!!」
ヒュウー……と寒々しい風が吹き抜けていきそうな程の静寂ののち、マキナは片方のローブへ手を伸ばして静かに受け取った。
「……驚くのも疲れちゃった。もう何でもありだよね、ディジーって……」
何もかもを諦めたような呆れ果てた様子で、マキナはその怪しげなローブを身に纏い、そして手に持っていた兜を頭から被った。
※後書きです
マ「空を自由に飛びたいよディジえもん〜」
ディ「ボクは未来から来たロボットじゃないんだが!?」
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。




