10月31日(木)-12
圭はもどかしそうに言葉を続ける。
「だから、小学校も中学校も根滝の近くだろ? 学校って言う事は、ほぼ毎日通ってるじゃねぇか。部活に入ったり、友達と約束してれば土日だって学校に行く。学校に行くということは、根滝の近くに行くってことだ」
言われてみれば、確かにその通りだ。章くんは小学校に入る前までは厄を喰らうことがあったというが、それは小学校に入れば厄を喰らう事はなかったということだ。
小学校に入学し、ほぼ毎日通うようになったから。
「あと、水だな。根滝から流れる川の水に、よく触れていたはずだ。なんなら飲んでいたんじゃないか?」
「そりゃあ、友達と根滝の方に行った時とかは飲んでたし……川で遊んだりもしたけど」
章くんが、戸惑ったように言う。
色んな情報が、章くんの中に流れ込みすぎている。
自分が、半分鬼になっているという事。
自分が生まれる時、母親が亡くなった事が起因している事。
小学校に上がるまでは厄を食べていたという事。
そして、身近に流れている根滝から流れる川にヒントがあるという事。
きっと、どこから確かめていいのかが、分からなくなっているのではないだろうか。
「あの……良ければ、みんなで根滝に行きませんか? こんな薄暗い屋根裏で話すより、いいような気がするんですけれど」
私が提案すると、圭と水葉嬢がこっくりと頷いた。ずっと閉じ込められていたから、ということもあるのかもしれない。
私は楠木さんの方を見、口を開く。
「楠木さん、一緒に行きませんか? 私も、だんだんわからなくなっていまして。歩きながら根滝まで行けば、気持ちも整理できるような気がして」
楠木さんは、少しだけ考えてから「そうですね」と言って頷いた。章くんも、楠木さんと私とを見比べたのち、頷いた。
私はほっとし、それから「あ」と気づく。
「あの、良ければちょっと水筒を洗わせてもらっていいですか? それか、なんかこう、水を入れる入れ物が欲しいんですけれど」
私が楠木さんに尋ねると、楠木さんは戸惑いつつ「ええと」と返す。
「水筒を洗うのは構いませんし、なんなら水筒をお貸ししても構わないのですけれど……」
「ありがとうございます。根滝のお水、せっかくだから汲んで帰りたいなぁって思いまして。キャンプ場に、私と一緒に来た片桐さんという方がいらっしゃるんですけれど、ぜひお水を飲んでいただきたくて」
勢いよく話すと、楠木さんは少し笑って「いいですよ」と頷いた。
やった、これで片桐さんにお水を持って帰れる。
私が喜んでいると、圭と水葉嬢が肩を震わせている。呑気な私に、怒っているのだろうか。
「あ、違うんだ。さっき、いや午前中か、その時根滝に行って、お水がおいしくってね。それを片桐さんにも伝えたのだけれど、やっぱりお水というのは飲まないと美味しさって伝わらないだろう? だけど私が持ってきている水筒が、直接口をつけるタイプだったから、持って帰れなくてね」
慌てて弁明すると、圭が「もう無理」と言いながら大声で笑い始めた。それにつられ、水葉嬢も「おじさまったら」と言いながら笑い始めた。
怒ってなかった。
ほっと胸をなでおろしていると、今度は楠木さんと章くんが笑い始めた。
そんなに笑う事だろうか?
だけど、笑うということは、肩の力が抜けたということだ。肩の力を抜いて、現状を笑い飛ばせるのならばその方がいいに決まっている。
「本当に、美味しかったから」
「追撃やめろ!」
圭の突っ込みに、私も笑いをこぼした。
これからまた山登りだけれど、一人じゃないからきっと大丈夫だろう。
体も、心も。




