表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

10月31日(木)-4

 山を、なめていた。


 本日二度目となる反省が、頭の中を駆け抜けていく。

 分かっていたのだ。小学校から中学校へ登ったとき(あえて登るとする。あれは、ほぼ登山だった)に覚悟をしていたとはいえ、中学校からさらに本格的な登山が始まるとは思ってもみなかった。


 舗装されていないとはいえ、二人分くらいの道がある。簡素ながら柵もある。むしろその柵を掴んでいるからこそ、歩けているのかもしれない。

 木々を吹き抜ける風が心地よい。空気もおいしい気がする。山道の傍に小川が流れていて、さらさらと流れる音が気持ち良い。

 が、しんどい。

 立ち止まって後ろを振り返ると、中学校がもう見えなくなっていた。前を見ると、まだまだ道が続いている。


「……上るか」


 私は息を吐きだしたのち、歩き始める。いつの間に体力が落ちたのだろう。営業という仕事柄、足をよく使っているとは思っていたのだけれど。


 私は足を動かしながら、先程の章くんのことを思い返す。彼の言う「ちぐはぐ」が、どういう意味なのかがいまだに分からない。

 家とか村とか自分とか、と彼は言っていた。思春期によくありがちな「俺は本来の俺ではなく、ここも本来、俺があるべき場所ではない」とかいう、いわゆる厨二病だろうか。


 私もかかったことがある。

 漫画の主人公が指先から霊力の塊を撃ち出すのを見て、もしかしたら自分の指からも出るのではないか、とか。街中の人が能力者として目覚めたのを見て、自分も実は何らかの能力者なのではないだろうか、とか。

 いずれも違ったけれども。

 何かの運命を背負っているのかも、と夕日を眺めたりしたっけ……恥ずかしい……。


 だが、章くんのいう「ちぐはぐ」は、それとはちょっと違うような気がする。

 そういう「ちぐはぐ」を他人に、しかもキャンプにやってきた余所者に相談するだろうか。私なら絶対にしなかった。自分だけでひっそりとやっていた。もしかしたら、とは思っていたけれど、本当にそうだとは思っていない部分があって、それをさらけ出すのは恥ずかしかったから。

 いや、何かしらがあったら、実は、と言っていたかもしれないけれど。

 ともかく、私のような余所者に相談するということは、第三者に判断を委ねたいという事だ。


「なんとなく、だけど。圭君に関わっている気がする」


 私は呟く。ちぐはぐとなっている原因が、圭たちにあるのではないか。余所者のせいでちぐはぐとなっているのだから、余所者に相談したいとか。


「あ」


 私は思わず声に出る。

 ようやく、目の前の視界が開けた。トトトトト、という軽やかな水の音がする。強くはない、かといってちょろちょろという弱々しさもない。

 一定のリズムで刻まれる、細い水の柱が降り注がれている。


「これが、根滝」


 私は呟き、滝に近づく。水が、恐ろしいほど透明度が高い。綺麗だ。

 両手で滝に触れると、すぐに冷たさが伝わってきた。さすが山水、きんと冷やされている。

 両手で水を受け止め、口元に持って行く。どういう味がするかとか、そういうのはよくわからない。

 よく分からないけれど、口から出たのは「おいしい」だった。

 甘いとか酸っぱいとか、そういうのは本当に分からない。ただ、水がとても澄んでいて、喉を通ると心地よい。ここまで必死に歩いてきたから、というのもあるだろうけれど、それだけではないような気がする。


「頑張って、良かった……」


 私はタオルで手を拭き、時計を確認する。

 午前九時半。

 キャンプを出たのが八時前くらいだったので、一時間半経っている。


「多分、20分では来れてないなぁ」


 私は苦笑し、滝近くにあった大きめの岩に腰掛ける。見回すと、滝の傍に「根滝」と書かれた看板がある。今は腰掛けてしまったので、後で見に行くことにする。

 私はスマホのカメラを起動させ、根滝を写真に撮る。素人ながら、なかなかいい写真が撮れたような気がする。


「一応、送ってみよう」


 生存確認、というには少し早いけれど、片桐さんに写真を送った。すぐに既読がつき「素敵な場所ですね」と返信があった。


「根滝、だそうです。水も、おいしいです、と」


 私はメッセージを打ち込み、ポケットにしまう。水筒をもう一本、持ってくればよかった。そうすれば、お土産にできたのに。

 今持っているものを空にすることも考えたが、これからまた降りることを考えると、結局口をつけてしまう。コップタイプの水筒ならばよかったのだが、持ってきたのは直接口をつけるタイプなのだ。


「とはいえ、もう一度ここに、という気分はないかも」


 はは、と軽く笑ったのち、再び根滝を見つめる。水が落ちて流れていく様を見るだけで、心が癒される気がする。


「来れてよかったな」


 私は呟き、よいしょ、と岩から立ち上がる。

 後回しにしていた看板を、見ておかなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ