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10月31日(木)-2

 友重さんに軽く挨拶をし、キャンプ場を出発する。朝八時前、空気が澄んでいるように感じる。

 道を歩いていくと、学生服に身を包んだ子ども達とすれ違う。ランドセルを背負った小学生は、元気よく挨拶してくれる。スポーツバッグを持った中学生は、会釈したりしなかったりで、思春期を感じられる。


「ええと、ぐるっと回ると言っても、結構広いからなぁ」


 私は呟き、道の端で地図を広げる。午後から古籠神社に行くとして、午前中は反対方向に行くのがいいかもしれない。

 地図上には、小学校と中学校がある。登校中の子ども達についていけば、確実に辿り着くことができるだろう。

 だが、同時に不審者に間違われないように気をつけなくてはならない。圭たちを探すという目的を悟られないよう村を巡り、更に子ども達に害をなす不審者と間違われないように気を付けるために、なんらかの目的を作った方が良さそうだ。


「そうだな……」


 地図を眺め、小学校と中学校のその先に「根滝」と書いてあるのを見つけた。村の中を流れている川の上流部分にあたる場所で、名前がついている滝があるようだ。そういえば、友重さんのSNSにも写真があったような気がする。


「よし、行ってみるか」


 私は地図を持ったまま、学生たちの後ろを歩き始める。何か言われれば「この根滝というところを目指しておりまして」と言えばいいだろう。ついでにその周辺について聞けるかもしれないし。


 私の目論見通り、子ども達は私に不審な目を向けるどころか、逆に「おじさん、何してるの?」と話しかけてきた。人懐っこい子ども達だ。少し心配になりながらも、名目上の目的である滝の話をすれば、笑顔を向けながら「それなら学校の裏だよ」「結構山の上だよ」と教えてくれた。


「有名なところ?」

「んー知ってるけど、行ったら駄目って言われてる」

「子どもだけで行ったら、危ないんだって」

「確かに、結構勢いあるもんな」


 わいわいと子ども達が話してくれる。かわいい。


「おじさんみたいに、見に行く人って結構いるのかな?」

「たまにいるよー。そういえば、この間もいたよね」

「いたいた。なんか、恋人同士っぽかったよね」

「イチャイチャしてなかったけど」


 ちょっとませてる子ども達だ……って、この間?

 この間、滝を見に行った、恋人同士だって?


 そう言われて、すぐに思いつくのは、圭と穴吹さんだ。二人が滝を見に行ったのならば、恋人同士に見えるかもしれない。


「その人たちは、他に何を見にいったか、分かる?」


 私はドキドキしながら尋ねる。

 落ち着かねば。他愛のない世間話として、同じキャンパーとして、人が行ったところに行ってみようとするだけなのだと装わねば。

 子ども達はそんなドキドキする私には気付かず「どうだっけ?」「神社にはいくっていってたっけ?」と話している。


「そういや、鬼のこと聞かれなかったっけ?」


 ドクン、と心臓が強く撥ねた。

 間違いない、子ども達が話している、この間、滝を見に行ったという恋人同士とは、圭と穴吹さんだ!


「聞かれたー! 悪い事したら鬼になっちゃうんだよって教えたんだよね」

「お姉ちゃんは笑ってたけど、お兄ちゃんの方は怖かったよね」

「でも、イケメンと美女だったよね」

「そうそう、羨ましかったー」


 私は、ちゃんと笑えているだろうか。

 笑うように努力をし、子ども達の話に相槌を打っているけれど、ちゃんと笑えているだろうか。


 圭と穴吹さんは、私と同じような場所を、調査していた。

 その事実が、二人が確実にこの村にいたこと、そして私も同じ場所にいるという事を、思い知らされる。


 子ども達は、私の心配をよそに話し続け、ついに学校へと到着してしまった。


「案内してくれてありがとう」


 私が手を振ると、子ども達も「ばいばーい」と言いながら手を振り返してくれた。校門には先生らしき大人の女性が立っており、私に会釈してきた。不審者と思われるだろうか?

 私は違う意味でドキドキしつつ「おはようございます」と声をかける。


「子ども達に、案内してもらったんです。根滝、という場所を目的としておりまして。あ、私、キャンプ場に泊っているものなのですけれど」


 不審者疑惑を晴らすべく話すが、先程の動揺が抜けていないためか、逆に胡散臭くなってしまった。

 先生は小さく笑い「大丈夫ですよ」と優しく返してくれた。


「時々、そういう方がいらっしゃるので、子ども達も私たちも慣れておりますので」


 ああ、良かった。ほっと胸をなでおろす。


「結構いるのですか?」

「そうですねぇ、一か月に一組くらいはいらっしゃる気がします。この間も、同じようにいらしてましたし」

「確か、カップルだったんですよね? 先程、子ども達がイケメンと美女だった、と教えてくれまして」

「まあ、あの子たちったら」


 先生がくすくすと笑い、頷いた。


「その時も私、校門に立っておりまして。会釈したら挨拶してくれましたよ。根滝の場所を聞かれて、ついでに世間話を少し」


 世間話を聞きたいが、そこを聞くのは危ない気がする。私はぐっと堪える。


「根滝は、この裏にあると聞いたのですけれど」

「そうですね、この横道を上がると中学校がありまして、その上の方にあります」


 山か。

 いや、さっき子ども達も山だとは言っていたけれど、やっぱり山なのか……。


「その、結構登りますかね?」

「え?」

「あ、その……軽い気持ちで来たというか……滝があるなら見ようかな、くらいの軽い気持ちでやってきたもので、その」


 私がどぎまぎしながら言うと、先生はぷっと噴き出した。


「すいません、つい。ええと、そこまで本格的な山ではないと思いますよ。中学校から徒歩20分ほどでしょうか」


 近いと言えば近いが、山道だからなぁ。


「じゃあ、とりあえず行ってみます。自分の体力と相談しながら」


 私がそう言うと、再び先生は噴き出した。そ、そんなに面白いだろうか。


「根滝の水は、飲料水にできるくらい澄んでいますので、できれば行って飲んでみてください。体の悪いところを治す、と言われているそうですよ」

「へぇ。先生も、飲まれたことがあるんですか?」

「はい。この学校に赴任してきて、学区内を回るついでに。美味しかったですよ」


 ふむ、なら頑張ってみようかな。

 校舎の方から、チャイムの音が響いた。


「すいません、お引止めしてしまって」


 私が謝ると、先生は「とんでもない」といって笑った。


「どうぞ気を付けて行ってきてください」

「はい、ありがとうございます」


 私は礼を言い、先生に教えられた道を歩き始める。

 とりあえずは、中学校を目指すのがいいだろう。

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