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147 もう戻れない場所 1

 ステラの小学校生活最後の登校日、その日は卒業式だ。


 冬の制服を着た生徒たちが学校敷地内の講堂に集まる。講堂はとても広く、卒業生全員を収めても席が半分ほど空くほどだ。

 卒業式が始まる前に先生に誘導され、卒業生は指定の席に座り待機している。

 空いてる席は保護者や周辺地域の教育関係者等が埋めた。ステラの母とミレラはそこにはおらず校門前で待機してるらしい。


 会場のみんなが談笑しながら待っていると学校では見慣れない顔の人が開始を宣言した。


「えーそれではこれより卒業式を行います」


 そして卒業式が始まった。


 * * * * *


 卒業証書を受け取り、教育関係のお偉い方や地域の政治家などの長い挨拶も終わり、卒業生は講堂を出た。ここから校門までの道にはたくさんの他の卒業生や関係者、友達同士で固まり、泣いたり笑い合ったりしている。

 ステラはキョロキョロしていると剣術同好会の同級生の男子オウロンと目が合った。彼とは友達ではなく同じ同好会にいるというだけの関係のためか特に話は無く、会釈だけされた。


(ステラ、ボニーと話をしてきたら?)


 剣術同好会の同級生にはもう一人ボニーがいる。

 私の言葉にステラはボニーの姿を探し始めた。

 数人の女子と楽しく話をしているボニーを見つけ、ステラは笑顔で手を振った。


「ボニー!」


 ボニーはステラの呼び掛けに穏やかな笑みで手を振り返した。


「ステラとは明日からは気軽に会えないんだな」


「そうだね。でも、会えなくなるわけじゃないよ」


「私は剣術を続ける。中学も高校も、な。ステラは続けるのか?」


「腕が鈍らない程度には自主練はするかも」


「そうか。じゃあ私は友達とこれから行くところあるからステラとはここでお別れだ。また会う事があったらよろしく頼む」


 ステラはボニーを名残惜しそうに見送った。

 ステラも歩き出すと犬耳の少女ラズリィが正面に現れた。


「ステラ……」


「ラズリィ。私達、今日でお別れだね」


 ステラは寂しそうに言った。

 ラズリィは顔を俯かせ、言いづらそうに口をモゴモゴさせた。


「今までごめん。本当はステラの近くにいたかった。私は今でも友達だと思ってる」


 今までステラから距離を置いたことに悔いがあったのか涙を見せた。


(私のせいでラズリィに迷惑を掛けた)


 ステラも顔を曇らせる。


「ラズリィ、私もだよ。私があんなことに巻き込まれなければ良かったんだよね」


「ステラは悪くないよ。でもこれからはたまにしか会えなくなるし、私のこと見かけたら気軽に声を掛けてくれるかな?」


「いいの?」


「いいよ。私はステラの事、友達と思ってるから」


「友達……か、そう思ってくれてたんだね。これからもよろしくね」


 そして出会ってから今日までの思い出を二人は語り合った。

 私の知らない二人だけの記憶。

 そういえば私にも親友がいたなぁ。

 いや……思い出すのはやめておくか。


「じゃあ私は行くね。またね、ステラ」


 話し終えるとラズリィは1度も振り返らずに校門の外へ向かった。

 ステラは校舎を少し見つめてから、校門に向かった。


 そして校門の外には出ずにあと一歩のところで立ち止まる。

 薄紅の美しい花びらがステラを祝福するかのように舞う中、ステラはただ何もせずにその場に留まる。

 しばらくして頭の中に声が響いた。


(明日からはもう、私はここにはいないんだね)


 一歩踏み出せば終わり、もう戻れない場所。

 私からすれば形が残っているだけでも戻れる場所には感じられる。私が生きた時代の風景は恐らくもうどこにも存在しないし本当に戻れない場所だからだ。

 だからステラの感傷は贅沢な悩みに感じられた。


(寂しい?)


 私の問いかけにステラは「ふふっ」と笑った。


(少しだけ、ね。あんまり友達がいなかったからかも。それに冒険者になるという夢が目前だと思うとワクワクもするよ)


 思ってるよりも寂しいのか、しばらく足は動かなかった。

 動き出すときの足は重々しさを感じさせない軽いものだった。


 きっとステラにとっては別世界に移動するような、そんな空気を感じたに違いない。


 校門を出ると母とルイザが姿を見せた。

 少し離れた場所からミレラが腕を組みながらステラを見つめている。なぜか近づいてくる様子を見せない。

 ミレラを見ているとすぐ目の前から別の声が掛かった。


「ステラ、卒業おめでとう!」


「卒業おめでとうなのですわ」


 先に母アンネリーが、続いてルイザの祝福。


「どうしてルイザちゃんがここに?」


「私達、友達でしょ? だからおめでたい今日のために駆けつけてきたのですわ」


「ありがとう……ルイザちゃん」


 ステラは目に溢れた涙をハンカチでガシガシと拭き取る。


「な、泣くほどに嬉しい事なのかしら?」


 ルイザは照れ臭そうな反応を見せ、猫耳がピクピクと動いた。


「嬉しいに決まってるよ! でも悲しくもあるんだよ。私はこれから一人ぼっちで冒険者をやっていくんだもん」


「私がいるのですわ。駆け出しのあなたに色々と教えるのですわ。だから寂しくなんかないのですわよ!」


「え、本当に教えてくれるの? 嘘だと思ってた」


「本当ですわ。で、いつ冒険者登録に行くのかしら?」


「4月になったら行こうかなって思ってるけど、ルイザちゃんはもっと早くして欲しいとかある?」


 ルイザはすぐには返事せず、眉をこまめに動かし、少し考え込んでから答えた。


「一カ月なら当然待ちますわ。だって今までずっと待ってたんですもの」


「え? ああそうか。なんでエリンプスに長くいたのかと思ってたけど何か用事があって待ってたんだよね」


 ステラの指摘にルイザは目を見開き、口を小さくパクパクとさせた。


「それは……秘密なのですわ」


「まぁ言えない事だってあるよね」


 ルイザは気まずそうに頷いた。


「ルイザちゃん、私が1カ月ゆっくりしたいのはルイザちゃんと一緒に町を回りたいからなんだ」


「え? 冒険者になってからでも十分にできると思うのだけど」


「登録直後は覚える事多そうだし、冒険者活動に集中するからだよ。だから今の空っぽの状態で一緒に回りたいんだ。良かったら一緒に首都に行ってみない? まだ行ったことないから行ってみたいんだ」


 ルイザは顔を顰めると少し考え込んだ。


「構いませんが首都リルボスは遠いですし、あらかじめいつ行くか決めてからにして欲しいのですわ」


「分かった、そうするね。楽しみだな~」


 ステラは卒業の寂しさが吹き飛んだようだ。


「ねぇステラ。お姉ちゃんも来てるよ」


 ステラの母がミレラの方向を指差す。

 ミレラはこちらには近づかず遠くから見つめ続けていた。

 ステラが手を振ると、手を振り返して来た。


(お姉ちゃんってお母さんが嫌いなんだよね)


(だから近くに来ないんだ。でもなんで?)


(それはね……私とお姉ちゃんのお父さんが違うからなんだ)


 ステラは語り始めた。


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