146 デシリア VS セシル 2
冒険者ギルドの個室の訓練場をセシルが借り、レイラも含めて3人が集まった。
「なぜレイラを連れて来たんだ?」
セシルがステラに尋ねる。
「二人だけでこんな場所に入るわけにもいかないから」
「それもそうだな」
もっともらしい理由ではあるものの本音は違う。
レイラには『付き合うかどうかを賭けた勝負』のことは伝えていない。彼女を連れてきたのはセシルの 視線を少しでも自分以外へ逸らすためであり、勝負の後二人を並べて帰らせるためでもあった。
やがて防具を身につけ訓練用の剣を手にした二人は規定の位置へと歩み出る。
「セシルは緊張してないでしょ? だって、絶対勝てると思ってるだろうし」
「今まではそうだったけど今日はどうなるかは分からない」
そうは言うものの本音では余裕で勝てると思ってるはず。それを顔に出さないのはステラに嫌われたくないからだろう。
せっかく付き合うことが叶っても嫌われてしまえば意味が無い。
「魔術や魔法による身体強化はありでいいかな?」
ステラが確認を取る。
「俺はまだ使えないけど、ステラは使えるのか?」
「少しは使えるよ」
「そうか……」
セシルの表情に陰りが見え始める。ステラの素の身体能力はセシルほどではないが極端な差はない。身体強化次第ではステラに勝ち目が出ると思ったのだろう。
(ねぇデシリア。身体強化無しでセシルに勝てる自信ある?)
ステラの人生に関わる大事な試合。セシルとは絶対付き合うつもりはないため私が代わりに試合を行う。負けるわけにはいかない。
(自信はあるけど絶対じゃないよ。セシルと付き合いたくないならありにした方がいいよ)
(そうか、じゃあ『あり』にするね)
ステラはセシルに告げる。
「身体強化はありで。これで試合をしてもらうよ」
「ああ、分かった」
私はステラと交代し、剣を構えた。互いの剣が触れたら試合開始の合図だ。
始める前にステラが言いたかったことを私が代わりに伝える。
「なんで私なの? 私よりもいい人なんていっぱいいると思うけど」
レイラに聞こえない程度の声を飛ばし理由を求める。クラスにはステラより優れてる子だらけだ。なぜわざわざステラなのかという疑問が出て来るのは当然だろう。
「ステラは他の女子と違って俺に興味が無さそうだった。勉強も出来ず友達も少なそうだから俺の方から近づけば他の女子と同様にコロッと惚れてくれるかもしれないと思った。でも違った。最初は負けたような気がして悔しくて、どうにかして振り向いてもらおうとしてる内に気が付けばお前の事が好きになってた」
その告白を聞いたステラの反応は非常に薄かった。不快に思う事も無く「まぁ自分がセシルだったら同じこと思ってたかも」と共感していた。
「最初は馬鹿にしてたんだ?」
私は不快そうに睨む。正直どうとも思ってないけど相手の心を揺さぶるためだ。
セシルは表情は変わらないけど焦りが見えた。
「最初は他の女子と同じステージに立てないから仕方なく身を引いているだけだと思ってた。別に馬鹿にしてるつもりはない、不快だったなら謝るよ。でも今は違う。他とは違う前向きなお前が好きだ」
しかしステラの心は動かない。良い方にも悪い方にも動かず、もはや終わったことの様な無関心な態度だった。
「私は私より強い人じゃないと駄目だよ。私に勝てるくらいじゃないと付き合ってもとてもついていけないと思うよ?」
私は剣を振り、相手の剣へぶつけた。
そして試合が始まった。
身体強化ありの試合。時間内に多く点を取った者の勝ち。
セシルに諦めて貰うために圧倒して勝つつもりだ。レイラには私の力を言い触らさないように口止めをしている。
セシルにもある程度の力を見せることになるかもしれないけど、ステラが好きな彼なら口止めを素直に聞いてくれるだろう。
「セシル、私はあなたと付き合うつもりはない。だから勝たせてもらうよ」
私はひっそりと言った。
「うおおおおお!」
セシルが動いた。私は攻撃を軽々と弾き、剣を叩きこんだ。
「1点」
「なっ?!」
まさかこんなあっさりと点を取られるとでも思わなかったのか驚くセシル。ちなみにまだ身体強化はしていない。
「身体強化はありだけど、まだ使ってないからね」
そして次は私から攻め、あっさりと点を取った。
セシルに焦りは見られない。まだ2点だし、それくらいならまぐれであるかもしれない。でも次もその次も続いたら流石に本物の実力だと認めざるを得ないだろう。
「本当に今のは身体強化なしなのか? 信じられない」
セシルは微かに目を開くと嬉しそうに笑った。
「お望みなら身体強化ありでやって見せようか?」
「せっかくだから見せてくれ」
私は身体強化の魔法を使った。
「なら見せてあげる。これが私の本気だよ」
といいつつ、全然本気からは遠すぎる身体強化で攻める。
セシルの僅かな動きからどう動くのかとかどのように対処すればいいのかも鮮明に予測できる。
私の動きにセシルは対応できずあっさりと点を取られた。
「速い! ステラ、お前こんなに強かったのか」
戦ってる相手はステラではなく私だけどね。
「まだやる?」
「いや、もういい」
セシルは兜を脱いだ。残念そうな、しかし嬉しそうな複雑な表情をしている。
私の方へゆっくり近づくと嬉しそうな表情だけを残していた。
「これだけ力の差があれば勝ち目が無いことくらいは分かるよ。ステラ、約束通り今回はお前と付き合うのは諦める。今日はわざわざこんなことさせてしまって悪かったな」
「悪くないよ、誰かに好かれてるって分かってるだけでも嬉しいし」
「ステラに負けたのは悔しいけど、お前を好きになった俺の目に狂いはなかった、こんな凄いとは思わなかった。でも俺は……ステラのこと、諦めるつもりはないからな。大人になった時にもう一度挑戦させてもらう」
「その時までその気持ちを維持できるかな?」
時間が経てば気持ちは薄れていくもの。その間に彼の気持ちはステラ以外へと向くことだろう。
「当然だ」
試合が終わり役目を果たした私はステラと交代した。
ステラは私が言い忘れてたことをセシルに言った。
「あ、そうそう、私に負けたことは誰にも言わないようにお願いね?」
「どうしてだ? 俺は負けたことを知られても別に気にしないが……まぁステラが気にするなら俺達だけの秘密にしておくよ」
ステラの実力ならともかく私の実力をステラのものとして扱うと後々ステラにとっても面倒事になりかねないだろうからね。
私がすべて片付ければ済む話だけど、私がある日突然消えてしまう可能性を否定できない以上は目立たないように力は隠しておきたい。
「ありがとう。じゃあレイラをずっと待たせるのも悪いし、帰ろうか」
ステラはレイラを見ながら言った。
* * * * *
冒険者ギルド訓練所の外に出ると外は少しだけ赤みがかっていた。
「また明日な」
振られたにも拘わらずいつも通りなセシルはレイラと一緒に帰っていった。
彼らと別れたステラは一人で自宅へ向かう。
(ステラ、後悔はしてない?)
(してないって言ったら嘘になるかな。でも好きでもないし、卒業したら一緒にいられないから後悔以外の選択肢はないんだよね)
(冒険者を諦めて進学すれば付き合ってた?)
(セシルの親って社長で、セシルは将来は後を継ぐんだって。私はセシルのこと好きでもないけど将来の不安がなくなるしお母さんも喜ぶだろうし、付き合ってたと思うよ)
好きでもないのに付き合うのは別に私の時代でも珍しい事じゃなかった。とはいえステラがその方向に進んでしまったら私は困る。
(セシルがまた挑みに来たら付き合う?)
(その頃にはデシリアどころか私にすら勝てないと思うよ? 躊躇なく断れるくらい私は冒険者として成功するからね)
ステラは迷いなく言い切った。
あと少しでステラの学校生活は終わる。




