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神楽鈴の巫女  作者: ゆずさくら


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 山口を保健室に連れて行った後、知世と晶紀は二人で教室に向かっていた。

「さっきは完全に落ちたと思った……」

 知世は立ち止まって泣き出した。

「ほら、大丈夫だよ、落ちてたらここにいないじゃん」

 手で顔を覆っている知世を抱きとめ、そう言った。

「……うん。けど、どうやって戻ってこられたの?」

 知世の髪を手でなでながら思い出していた。

「たぶん、投げ飛ばすための強い力を発揮する為、体を縛っているリボンに対してのコントロールが解けたんだと思う。逆に私がそのリボンをコントロールして、フェンスの土台部分に巻き付け、張ったリボンを振り子のように使って空へ飛びあがったんだ」

「えっ、そんな、勢いよく体重をかけたら、リボンが切れてしまわないですか」

「かもしれないけど…… 念のため切れないように『力』を使ったんだ。佐倉が教えてくれたことが役に立ったよ」

「一流の体操の選手のようなきれいな飛型でした」

 照れたように頭をかく。

「あっ、そうだ。今日のことって、あきなも見てたのかな」

「ええ、リボンで縛られたところや、持ち上げて投げられたところは見たと思います」

「じゃあ、宙を飛んで返ってきたところとか、神楽鈴を刀のように使っているところとかは?」

「そこは見ていない…… と思います」

 晶紀はうつむいた。

「みんなを巻き込んじゃったね」

「亜紀さんが山口さんの家庭内暴力から救いたい、と思うのと同じですわ」

「ありがとう」

 今度は晶紀が涙ぐみ、抱きとめられた。

「さ、行きましょう」

 二人は再び教室に向かって歩き出した。

 他のクラスの教室を眺めながら、晶紀が言う。

「あれ、もしかして監視カメラ?」

「そうですわ。更衣室以外にはほとんどついていますよ」

「私たちの教室にも?」

「ええ、気づきませんでした?」

 晶紀は考えた。阿部さんが初めに蛙に気づいたのは教室だった。教室の監視カメラの映像を確認出来れば、だれが阿部さんに蛙をつけたのかわかる。

 二人はまた歩き出した。

「それ見れないかな? 監視カメラの映像」

「生徒が見るのは非常に難しいと思いますよ。佐倉先生に相談してみるとか?」

「そうか。そうしてみる」

 知世が晶紀の顔を覗き込むようにして言う。

「どういう理由でご覧になりたいのですか?」

「さっき阿部ちゃんが言ってたこと。教室で蛙の声に気づいて、部室で意識を失った。それを確かめたいんだ」

「阿部さんは嘘をついているとは思えませんが」

 晶紀は首を振る。

「そうじゃないんだ。どうやって蛙が目出し帽になるのかとか、どこから蛙がやってくるのかとか、何か手掛かりになるようなことがあるはずなんだ」

「私も学校の監視カメラ映像が見られないか『家の者』に相談してみますわ」

「ありがとう」

 知世の『家の者』が協力してくれるなら、かなり心強い、と晶紀は思った。それにしても『家の者』たちは何者なのだろう。公園のようなお庭の、おおきな屋敷だから、家事使用人がいないと維持できないのはわかるが。

「!」

 晶紀は視線を感じた。

 いや、『視線』という、そんな柔らかいものではない。殺気(さっき)に近いものだった。

 それとなく辺りに視線を配るが、見つからない。

 晶紀の感じた殺気を知ってか知らずか、知世が手を振りはじめる。晶紀は、その視線の先を追った。

 少し離れた小さな庭に白衣を着た先生が立っていて、知世に手を振り返してくる。

 まさか、殺気を感じたのは……

「綾先生?」

「どうかしましたか?」

 知世が首をかしげる。

 その時、教室から先生が顔を出した。

「ほら、二人とも早く席につけ、授業をはじめるぞ」

「はい」

 慌てて教室に入ると、授業が始まった。




 放課後、授業の途中で戻ってきた山口の所にいた。

「さっそくだけど今日行ってもいい?」

「うん。お父さんが、夕方仕事に出かけるから、その後に来てくれるかな」

「わかった。放課後、私、佐倉先生と用事があるからそれが終わったら向かうよ」

「佐倉先生と何するの? 佐倉先生って、あの『ボン・キュッ・ボン』を絵に描いたような体つきの女性(ひと)だよな」

「あ、まあ、ちょっとな。その間、知世はどうする?」

 知世は次席を手で示すと、

「私は教室(ここ)で自習しておりますので、教室に呼びにきていだだけませんか」

「わかった。じゃあ、お父さんが仕事に出たら、二人にメッセージ入れるから」

「うん」

 山口が手を振りながら教室を出ていく。

「じゃあ、そろそろ私も」

「保健室にいらっしゃるのですか?」

「保健室じゃないけど、その近くにいる。また後で」

「ではまた」

 知世が手振りながら見送りしてくれる。

 晶紀が廊下を進み、階段を降りようと角を曲がると、階段から先生が上がってくるのが見えた。

 白衣を着た教師。

「綾っ、先生」

 晶紀は自分の口を手で押える。びっくりして呼び捨てるところだった。

「ああ、君は……」

天摩(てんま)です」

「ああ、宝仙寺(ほうせんじ)くんのクラスメート」

 ポン、と自らの手のひらを叩いて、そう言った。

「……」

「教室に宝仙寺くん…… いるよね?」

「はい。自習して」

 返事の途中ではあったが、綾先生が素早く階段を上がってきて、晶紀の肩をポンと叩いて去っていく。

「そう、ありがとう」

 晶紀は振り返り、廊下をもどった。

 綾先生と知世は何を話しているのだろう。二人には何か、つながりが……

 扉に隠れ、こっそり教室を覗き込む。

 知世が自身の席に座り、先生が足を広げて、前の席に後ろ向きで座っている。

 教科書を指さして、何か教えているようにも見える。

「!」

 先生が、急に立ち上がり、教室の扉に近づいてくる。

 晶紀は足音を立てないように素早く廊下の角まで戻る。

 教室の扉が閉まる音がして、晶紀が廊下をそっと見ると誰もいなかった。

「……」

 晶紀はそれ以上、知世と綾先生を覗き見ることはせず、保健室へ入った。

 佐倉は晶紀を見るなり、

「何怖い顔をしている?」

「佐倉は、綾という先生を知っているか?」

「どうしたいきなり。『何怖い顔している?』の答えがそれか?」

 晶紀は佐倉の視線をそらした。

「……」

「しっておるぞ。いつも白衣をきている化学の教師じゃな」

 晶紀は佐倉に差し出された紙を読む。そこには今日のトレーニング内容が書いてあった。

「背負って学園内を十周って……」

 佐倉が晶紀の背後に回ってきて、飛び乗った。

「うわっ」

「十周はきついぞ。自力ではなく術の『力』をつかうのじゃ」

「わかって…… ますけど……」

 晶紀は保健室を出る。佐倉が扉の近くにある札を返して『不在』に切り替える。

 背負ったまま校舎を出て、学園の塀にそって走りはじめる。道があるわけではなく、草木が茂っていて、暗い。

 人気(ひとけ)がなくなると、佐倉が言った。

「綾が何かしてきたか? 見た感じ、霊力はそれなりにありそうだが」

「いや、別に」

 息が切れて、晶紀は長く喋れない。

「ちょっと、気になって」

「職員室や先生方の間では特に悪いうわさも、いいうわさもだが、何もないぞ。わしも注意しておくが、気のせいということもある。変な先入観を持たないことじゃな」

「……」

 塀沿いに走っていると、木の根や石が邪魔をする。

 人が通るところではないから、草も枝も伸び放題だ。佐倉を背負っているため、両手は使えない。枝を掃うのは霊力を使うか、避けることになる。晶紀はそれらを素早く察知し、素早く判断し、素早く行動しなければならない。背負って十周できる体力はないから、その分の力も、霊力でアシストするしかない。体を動かすことと、霊力を出すこと、同時に出来ないといけない。晶紀が大男のカウンターを喰らったのは、判断の遅さ、霊力の使い方の切り替えの遅さだった。次から次にくる状況の変化を捉える感覚をこれでつかめということだろう。晶紀はそう考えた。

 学園の塀に沿って二周し、三周目の途中で、スマフォが振動した。

「!」

 足を止めた晶紀に、佐倉が言う。

「どうした? トイレならそこでしていいぞ。周りを見張っててやる」

「違います」

 佐倉が背中から降りる。

「あきなの家にいくことになっているんです。連絡がきたのかも」

「あきな、というのは、今日保健室にきた山口のことだな」

「ええ、そうです」

 佐倉が厳しい表情をする。

「以前、大男と闘った時もその山口を追いかけている時だった」

「はい」

 腕を組み、目を閉じ、何か考えている。

「わしも行くぞ」

「……まさか、またあの大男が出る、ということですか?」

 佐倉は目を開き、うなずく。

「なにかある。おぬしを山口の家に近づけたくないのじゃ」




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