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神楽鈴の巫女  作者: ゆずさくら


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 晶紀たちは大通りを渡って、細い路地に入る手前で立ち止まった。

「ここじゃな」

 佐倉が言うと、知世がうなずく。

「私はここで待っていた方がいいのでしょうか」

「うん。知世はここで待ってて」

 晶紀はそう言うと、道の角から覗き込む。

 大通りとは違い、急に人影はまばらになっているが、数人が通行している。

 この状態で大男が出てきたら、騒ぎになってしまう。

 奴らは自分たちの存在が知られてもかまわないのだろうか。

「何も出てこない可能性もあるわけじゃが」

 佐倉も路地を覗きながらそう言った。

「とりあえず、確認するまでまって」

 晶紀は一人で路地に入る。

 神楽鈴を鞄から取り出し、手に握る。

 かろやかな鈴の音が辺りに響いた。

 確か、この辺だった。黒尽くめの男たちがやってきて、組体操で人間の櫓をくむように重なっていき……

「!」

 まるで、何者かに引き寄せられるように一般人が路地から出ていく。

 一瞬で無人になった路地に、今度は黒尽くめの男たちが肩を揺らしながら集まってくる。

 固まってしまっている晶紀に、佐倉が叫ぶ。

「何をしている、今のうちに倒すのじゃ」

 そうか、と晶紀は思った。大男になってから倒すのと、現段階で倒すのでは難易度が違う。

 神楽鈴を持った右手を突き出し、左手で叩く。

 鈴の音が響くと、神楽鈴の先端が光り、伸びる。

 伸びた神楽鈴を剣のように構え、路地を走る。そして集まってくる黒尽くめの男たちに切りかかっていく。

 ゆらゆらと肩を揺すって歩いていた男は、切りつけられるとみるや、素早くバックステップして避ける。

「なんだ? こいつ!」

 晶紀は次々と切りつけるが、まるで同じ映像を繰り返すようにことごとく避けられる。

 後ろに下がった黒尽くめの男は、再びゆらゆらと肩を振りながら、ゆっくり歩きだす。個性はなく、すべて同じロボットのような動き。

「どうしたらいい……」

「中心を崩せ!」

 佐倉の声だった。

 中心とは何を意味するのか晶紀は辺りを見回しながら考える。一人ひとりの芯を外しているから避けられてしまうということなのだろうか。

 黒尽くめの男たちが集まり始める、一人、二人、三人…… そういうことか!

 晶紀は『人間櫓』の土台になる男に向かって、走り、切りかかる。

 けれど、また避けられてしまう。

「ダメだ……」 

 避けた後、土台の男は動きを止める。そこへ周りの黒尽くめが集まってくる。もしこの中心になる男をもう一度切りつけたら、集合する位置が遠くなって『人間櫓』が出来上がるのが遅れる。

 晶紀は考えた。大男にならなければ攻撃力がないに等しいなら、こうやって粘ればいつか倒せる…… はず。

「晶紀! 逃げろ!」

 佐倉の声がして振り向く。

 土台の男を追ってくる四、五人の男たちが密集していた。こいつらも土台になる男を追っているわけだから、こうなることは分かっていたはずだ。晶紀は固まりになっている男たちを散らすように神楽鈴を振り回した。

 男は体を反らしながら神楽鈴を避けてしまう。晶紀は後ろに回られた男に、腕を取られてしまう。

「しまった!」

 腕を振りほどこうとして、体を捩るが、もう一方の腕も別の男に取られてしまう。動きが取れなると、男たちが、晶紀を中止に人の櫓を組み始める。

「た、助けて!」

 助けようとする佐倉も黒尽くめの男に邪魔され、晶紀に近づけない。

 足を持たれ、櫓の中心になり始めた晶紀を、蝙蝠の群れが襲う。

 見えていた路地が下に見えると、今度は群がってくる蝙蝠の影で黒くかすんでいく。

「諦めるな!」

 佐倉の声がくぐもって聞こえた。

 周りが蝙蝠で完全に見えなくなると、意識が薄れていく。

 お祖母(ばあ)ちゃん、晶紀もそっちに行くね……




 佐倉は黒尽くめの男たちの動きを見ていた。

 中心になる男は動かないため、晶紀が集まってくる男に切りかかるより中心になる男を狙った方が良いはずだった。

 しかし、黒尽くめの男たちの動きが変わった。

「晶紀! 逃げろ!」

 佐倉は叫んだ。晶紀を囲み、晶紀の動きを止めるためにわざとゆっくり集まっていたに違いない。

 今助けに行く。佐倉は心の中で叫ぶ。

 男を引き倒し、人間櫓の男の肩に足をかけ、上る。

「諦めるな!」

 佐倉は叫び、蝙蝠の中に手を突っ込むが、晶紀に届かない。

 集まってくる蝙蝠の力で、はじき出された佐倉は、人間櫓から落とされてしまう。

 男たちの作る人間櫓を中心にした蝙蝠の塊が、混然一体となって人型に変形していく。

「晶紀! 聞こえるか?」

 大男が佐倉に拳を振り下ろす。

 拳を避けて、下がる佐倉。

「晶紀……」

 そう言って胸元から龍笛(りゅうてき)を取り出す。

 大男は佐倉に近づいて、再び拳を振り上げる。

 佐倉は構わず目を閉じ、笛を吹き始めた。

 笛の音に、始めは何も反応がなかった大男が、胸を押さえて、苦しむように震えはじめた。

 晶紀、お前は今ここで負けるわけにはいかないぞ。佐倉は笛を吹き続けた。

 すると、大男の胸の奥で何かが光った。

 大男が膝をつくと、佐倉は後ろに下がった。さらに笛を吹き続けると大男は、胸を押さえながら片腕をついた。

 胸の光は輝きを増した。

「!」

 大量の液体がぶちまけられたような音がして、大男の胸が裂けた。

 光る神楽鈴を抱えながら、大男の胸の下に晶紀が現れた。

 晶紀は転がりながら、大男の足下から抜け出る。

「佐倉!」

 笛を止め、晶紀を抱きとめる佐倉。

 二人の前に、大男が立ち上がった。

「えっ?」

 後ずさりながら佐倉が言った。

「最初に出会ったときは、晶紀を取り込まずともこの大男は動いていたのだ。不思議はない」

 真っ黒な大男は、晶紀を失った胸が、えぐれたように穴が開いている。

 額に手をあて、頭を激しく横に振る。

 一方の手は、拳を作って晶紀を目掛けて振り下ろされる。

 大男の動きは(にぶ)いわけではなく、以前と変わらないようだ。

 二人は走って大男と距離を取った。

「佐倉」

「どうした」

「私を高く飛ばしてくれ」

「分かった」

 佐倉は大男に背を向け、片膝をついて手を組んで下げた。

「この手に足をかけろ。わしが引き上げると同時に飛べ」

 晶紀がうなずく。

 神楽鈴を伸ばし、光る剣が伸びる。

 助走をつけて佐倉の組んだ手に足をかける。

 佐倉が力いっぱい引き上げ、同時に晶紀が飛び上がる。

 大男の頭を軽々と超え、見下ろせるほどの高さに舞い上がった。

 晶紀は大男へ向かって回転する。

 一回、二回…… 光る剣が輪を描く。

 晶紀を見失った大男は、拳を振り上げようとするが間に合わない。

「ここだっ!」

 晶紀が神楽鈴を振り下ろす。

 神楽鈴の剣が、脳天から真っ二つに裂いていく。

 それは、もはや『大男』の(たい)()していなかった。

 黒い皮と化した蝙蝠が、蛙が、本来の動きを取り戻し、去って行く。

 人の櫓が崩れ、一人、一人、目出し帽や、黒い服装そのものが、蝙蝠や蛙に戻っていく。

 振り下ろした格好のまま着地し、固まっている晶紀の肩を、佐倉が叩く。

「やったな」

 神楽鈴の光る剣の部分が引っ込み、晶紀が振り返り、ほほ笑んだ。

 知世が路地に入ってきて晶紀に飛びつく。

「よかった」

「心配かけたね」

 見つめあう二人。

 しかしすぐに、蝙蝠の羽音、蛙の鳴き声に気づく。 

「うるさいなぁ」

「本当ですわ」

 二人を佐倉が抱えるように包み込む。

「さあ、山口の家にいこう」

『はい!』




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