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神楽鈴の巫女  作者: ゆずさくら


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 午前中の授業が終わり、晶紀と知世、山口の三人は屋上でお昼ご飯を食べていた。

 楽しくお話をしている時に、山口がふとスマフォを見て暗い顔をする。

「?」

「なんでもないよ」

 晶紀の視線に気づいて、山口はそう言う。

 しかし、晶紀は知世と知世の『家の者』の調査で山口の事情を知っている。三人の間に少しだけ無言の時が流れた。

「山口さん、私ずっと気になってるの。いつも不安そうに携帯をみるじゃない。もし、困ったことがあったら相談して」

「……」

「私もそう思います。解決できないかもしれませんし、力になれないかもしれません。けど話して救われることはあるかもしれない」

「いいんだって。暗くしちゃってごめん。明日から私、一人で食べるわ」

 山口はそう言って、(うつむ)きながらお弁当を片付ける。

「そうじゃないよ」

 晶紀は立ち上がって山口の正面に回り、肩に手をかける。

「暗くたっていいの、生きてるんだから明るいばっかりな訳ないじゃない。私たち友達なんだから、そういうことも話そうよっていう意味なんだよ。一人で食べるなんて言うなよ」

「……」

 山口は手を止めて顔を上げ晶紀を見つめ返した。

 少し目が潤んでいるようにみえる。

「うん……」

 山口が二人に話し始めた。

 昼間に帰ってくるようになった父親が暴力を振るうこと、学校が近くて早く帰る中学生の妹さんが一番被害にあっていること、市の相談所には話しているが、家の外ではまるで人が違ったようにおとなしいなど、知世と知世の『家の者』が調べていた内容と一致していた。

「昼間に帰って来たり、仕事が不規則な勤務になったりしてからだとしたら、お父さん、仕事うまくいなくなってるのかな」

「けど、仕事のせいとも思えないの」

「どうして?」

「仕事の愚痴が多かったのは以前の仕事の時の方だったよ。今の仕事になった時、始めは愚痴が減ったから妹と『良い仕事見つかって良かったね』とか言いあってたんだ」

「仕事のせいじゃないとしたら……」

 そう言いながら知世は、晶紀の目をみてうなずく。

「お父さんに会ってみたい…… けどそれは無理だよね。あきなの家を見させてもらっていいかな」

「見るって、なにを?」

「……えっと」

 答えあぐねていると、知世が言った。

「何か霊がついていないかを確認するのです」

「知世、ちょっと」

「れ、霊?」

 晶紀を飛び越して、知世と山口で話し始めた。

「お父様から『霊』が落ちれば、暴力もなくなるかもしれません」

 晶紀は手首を曲げ伸ばし、手で知世を呼ぶようにしながら、

「知世ってば」

 というが気にしない。

「もちろん、原因が霊とかじゃなければ、また別の方法を考えなければなりませんが」

「霊…… ね。あまり信じてはいないけど」

 山口は首をかしげる。

「まずは、お父さんがいないときにお家をみせていただけませんか」

「うん。いいよ」

「えっ?」

 絶対ダメなパターンだ、と思っていた晶紀はびっくりした顔をしている。

「だって、晶紀がみてくれるんだろ」

 山口が『霊』について素直に応じたのは意外だった。

「う、うん」

「良かったですわ。では、今日の帰りにでも」

「ブァカ」

「はぁ? バカ?」

 声は、屋上の出入り口扉の方から聞こえてきた。

 そこには目出し帽を被った生徒が立っていた。目出し帽から目と口だけでなく、二つ結いの髪が左右から出ていた。ツインテール用の目出し帽? なのだろうか。

「何者?」

 言った瞬間、晶紀は襟を掴まれて引き上げられていた。

 普通の女子生徒の力じゃない。晶紀は思った。それにどれだけ筋力があってものこの体格差で私を持ち上げるなんて。目出し帽を被った男たちと同じように、この生徒()も何か力を与えられているのだ。

「キャー」

 状況を把握した知世が叫ぶ。

 晶紀が掴んだ腕を振り払って目出し帽の生徒と距離を作ると、知世と山口を守るように腕を開いて、前に進み出た。

 一瞬、後ろに視線を移し、

「知世! 山口さんを連れて、あの先に隠れて」

 二人が隠れていてくれれば、神楽鈴を使って戦える。

 知世と二人で、屋上の出入り口の裏手に隠れてくれた。

「ブァカ」

「悪いけど、これを使わせてもらう」

 鞄から神楽鈴を抜いて、太ももに軽く叩きつけると、さわやかな鈴の音が鳴り、同時に光った先端部分が一メートルほど伸びた。

「ブァカ」

 口で言っているのが、のどがそう言う音を出しているのか、そう言ってツインテールの目出し帽の生徒は背中に手を回す。

 手を戻すと、新体操でつかうような柄のついた棒にリボンがついている器具が握られていた。

 リボンは、回転したりひねったりできるように、先端に括りつけられているだけで、皮のムチのように叩いたりすることは出来ないものだ。

 ツインテ目出し帽は、柄のついた棒側を投げつけてきた。

 晶紀は体を曲げて避ける。

「速い!」

 リボン側がくると思い込んでいたせいで、避けることしかできなかった。

「!」

 突然、晶紀は大男との(たたか)いの時、知世が叫んだ事を思いだした。

 リボンがスルスルと動き出し、背後から棒が飛んでくる。

 神楽鈴を振って、柄のついた棒を斬った。

「バァカ」

 今度はリボンが生きているかのように宙を舞い、神楽鈴の伸びた部分に絡みついてくる。

 神楽鈴を絡み取るつもりだ。晶紀は思った。さっきの襟を持って持ち上げられたことを考えると、力勝負になったら分が悪い。

 晶紀は、必死になって、リボンが絡むのを避けた。

「!」

 神楽鈴だけではなく、手首ごと絡めようと狙ってくる。

 腕を完全にしたに下げた瞬間、リボンが晶紀の体全体に絡みつき始めた。

「まさか、これが狙い……」

 両腕をしたにだらりと下げた格好で、ミイラの布のようにリボンが巻き付く。

 苦しい。どんどんリボンがきつく締めあげられていく。神楽鈴の先に伸びた部分が、フッと消えた。

 晶紀は両膝をついた。ツインテ目出し帽が近づいてくる。

 両手が動かせないミイラ状態の晶紀を頭の上に持ち上げ、屋上のフェンスへと運んでいく。

 落とされる…… 晶紀は想像した。この状態で投げ落とされたら、術も何も使えない。即死だ。

 膝が曲がり、肘を曲げ、膝が伸び、腕が伸ばされる。

 体はツインテ目出し帽の手を離れ、宙に舞い、屋上のフェンスを越え、落ちていった……




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