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「佐倉が学校でシャワー浴びたいっていうから、教室に着くのが遅くなっちゃったじゃないか」
「晩ご飯に、朝ご飯、シャワーまで借りては昭島さんに申し訳がたたないからな」
人差し指をピンと立て、まるで正論を言っているかのように佐倉がそう言った。
「いや、そう思うなら上がり込んで晩ご飯をごちそうになったり、ずうずうしく居間で眠り込んだりしないだろ」
「不覚をとった。あんなに良い匂いがしてくるとは思ってもいなかった」
「シャワーだって、触診触診って、佐倉が触ってくるから時間が遅くなるんだぞ」
晶紀は制服を着ているのに、胸を腕で隠すように上げた。
佐倉がその様子を見て言う。
「おぬしは、揉んだ方が大きくなるか試してみたくはないのか?」
「誰と比較するんだよ。揉まれない私がいないと比較にならないだろ」
佐倉は自らの胸を見るように下を見て、言う。
「わしの同年代の頃の記録と比較すればいい」
「爆乳保健室の先生と普通の女子高校生を比較するな」
そんなことを話しているうちに教室についていた。
「大体、なんでついてくるの?」
「小さいことは気にするな」
すると、教室の扉が開いて知世が出てくる。
「晶紀さん! おはようございます」
知世が昨日と同じように晶紀に飛びついてきた。筋肉痛が抜けた晶紀は、しっかりと知世を受け止めた。
「おはよう」
「じゃあ、今日も放課後、保健室にくるんじゃぞ」
佐倉が手を振りながら去っていく。
「さあ、授業始まるよ。入ろう?」
と晶紀が言うと、知世の表情から笑顔が消え、真剣なものに変わった。
「入る前にお話がありますわ」
晶紀も表情で察した。
「山口さんのこと…… だよね」
知世は、うなずくと語り始めた。
山口は両親が離婚しており、中学生の妹と共に父親と暮らしている。しかし、現在父親の仕事は不規則になり、山口がバイトをして家計の足しにしている状態だった。問題は、仕事が不規則になったころから、父親が妹や山口に暴力を振るうようになったことだ。山口が時折、深刻そうに携帯を見つめるのは、妹が父親のDVを受けたことを山口に知らせているかららしい。
「おそらく、目のあたりのあざもお父様から受けたものと」
「……そうなんだ」
晶紀はいろいろ山口の事情を考えていると、別のことに気が付いた。
「けど、昨日だけで、どうやってこんなに調べられたの?」
「家の者を使っていろいろと情報を集めた結果ですわ」
晶紀はあの黒いスーツ、黒いサングラスの人物が、町中を歩き回って聞き込みをしている様子を想像した。
「すごいね『家の者』」
「ええ」
知世は祈るように手の指を絡ませて言った。
「山口さんの話に戻りますけど、晶紀さんの『力』でお父さんの暴力をやめさせられないかしら」
「やめさせる? DVを?」
もし根本原因が、憑き物、つまり悪霊などが憑いたものや、呪術などによるものであれば、晶紀の力で、それを祓えばDVが治まるかもしれない。しかし、話からすると仕事が不規則になったことがきっかけとなっているようで、そういう場合、呪術で暴力を『矯正』しても、一時的なものにしかならない。
晶紀は、丁寧にそう言った事を話した上で、
「やるだけやってみよう」
と言う。知世も、ゆっくりと頷いた。
「君たち、教室に……」
白衣を着ている先生だった。晶紀は思い出す。確か、化学の……
「宝泉寺君!」
その声で思い出した。知世に授業をするのを楽しみにしていると言っていた綾先生だ。
「会えてうれしいよ」
知世の手を両手で包むようにして握手している。
困惑した表情で先生に答えた。
「えっと、私たちの学年、まだ化学は……」
「ああ、この教室に来たんじゃないんだ。廊下に出ている生徒がいるから注意の為に立ち寄っただけ」
そう言って知世をしばらく見つめた後、教室の扉を開けた。
先生に気付いた生徒たちの一部が騒ぐ。
「なんだ?」
「綾先生、実は一部の生徒に熱狂的な人気があるそうですよ」
綾先生が知世と晶紀の方を振り返り、
「教室にお戻りください」
と言って手を教室に差し伸べる。
知世が教室に入り、続いて晶紀が教室に入る。晶紀が扉を閉めようと振り向くと、綾先生が何かを投げ入れたように見えた。
「?」
投げ入れたと思われる方向を確かめるが、何もない。
改めて晶紀が扉を閉めようとすると、
「ボクが締めるから席に戻ってください」
教室内か黄色い声が聞こえると、綾先生は扉から手を振った。
晶紀は首をかしげながら、自席に戻った。




