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神楽鈴の巫女  作者: ゆずさくら


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 授業が始まると、晶紀は机に突っ伏してしまった。

 知世が小声で『起きて』と言うが、全く反応がない。

「(晶紀さん、次、晶紀さんの順番です)」

 席順に順番に当てていく先生が、晶紀の前の席の生徒に答えさせていた。

 先生が教科書を見ている隙に、手を伸ばして揺すってみるが、やはり起きない。

「(起きて!)」

「はい、次の問いは宝仙寺さん答えて」

 絶対に晶紀が当てられる状況だった。しかし、晶紀がいなければ、欠席している後ろの座席を飛ばして知世の順番になる。

「?」

 知世は先生に『順番が違う』とも言えず戸惑っていた。

「宝仙寺さん?」

「は、はい」

 知世は立ち上がると問いに答えた。

 そして着席して考える。先生はボケて間違えていることが考えられるが、周りの生徒全員が不思議に思っていないのは何故なのか。先生の差し順が違っても別にクレームを入れるような子はいない。違う、そんなことはない。

 知世は『小泉メアリー』と『仲井すず』の様子を見た。晶紀のことを憎んでいる連中なら、先生を睨むなり、晶紀を睨んだりするのではないか、と思ったからだ。しかし、二人共まるでこの流れがなかったかのように平然としている。

 知世が感じた謎が解けないまま、授業が終わった。

 授業が終わっても起きない晶紀を心配して、山口が知世のところにやってくる。

「晶紀、相当疲れてるみたいね」

「山口さん…… そうか、山口さん」

 知世はなにか思うところがあったように立ち上がった。

 真剣な顔で山口に迫っていく。

「ど、どうしたの?」

「山口さん。さっきの授業で、晶紀さんが当たる番のとき、先生が晶紀さんを飛ばしましたよね?」

「うん。そうだね。私自身も眠たくて、あんまりちゃんと覚えてないけど」

「えっ、あっ、そ、そうなんですか?」

 知世は肩を落とした。

「次の授業の間ですけれど、しっかり見ていてもらえませんか」

「わかった」

 次の授業、晶紀は最初の挨拶から起立もせずにずっと突っ伏している。

 知世がどれだけ突こうが、声をかけようが一向に起きる様子はない。先生も、どう考えても起立も礼もしていない晶紀のことを完全に見えてないように扱って、淡々と授業を進めていく。

 その授業は、結局、晶紀を指して答えさせることもなく終わってしまった。

 休み時間に山口が来て、何度か晶紀を起こしたがやはり反応がなかった。

晶紀(これ)生きてるよな?」

「何を言うのです。生きていますよ」

 知世は手を握りしめて反論した。反論したものの、不安で晶紀の背中に耳を当てた。心臓の音が聞こえる。

「知世も心配だったんじゃないか」

「だってこんなに揺すっても起きないのですもの……」

 半泣きの知世の肩を、山口が抱き寄せる。

「泣くなよ」

「ごめんなさい」

 知世が落ち着くと、山口が言う。

「さっきの休み時間、知世が言いたいことがわかった。なんか先生も含めて教室の連中の様子が変だ」

「そう! そうなのです。まるで無視しているかのようですわ」

 いくら晶紀の友達が知世と山口の二人だけだとは言え、教師が無視するはずがない。

 メアリーの親が学校側に圧力をかければあるいは可能かも知れないが、だとしても生徒全員には圧力をかけられないだろう。

 今、こうして知世と山口が会話している時も、晶紀がここに居ないかのように扱われている。

「いったいどうなっているのでしょう」

 休み時間が終わり、次の授業も、その次の授業もまるで晶紀がいないかのように授業が終わった。

 山口がやってきて、言った。

「晶紀は完全にいなくなってる。気配とか、そういうレベルじゃない」

「そうですわね」

「お昼ご飯たべよ」

「晶紀さん」

「起きたのか」

「?」

 晶紀は鞄からコンビニ袋を取り出し、二人の顔を交互に見つめる。

「何かあった?」

「体はいたくありませんか?」

「いや、さっきまで全く起きる様子がなかったのに、突然起きたからびっくりしてるんだ」

 三人はまた屋上でお昼を食べることにした。

 屋上にいくまでの間、授業中、晶紀がいないかのように振舞う教室の不思議な話を伝えた。

 ベンチに座ると、山口が携帯を持って少し離れた。

 山口が離れると、晶紀が言った。

「あきなには内緒にしてほしいんだけど」

「昨日の大男のことですか?」

「そのこともだけど、今日の教室の不思議な出来事も、おそらく佐倉がかけた術のせいなんだ」

「あっ」

 確かに佐倉先生が何かやっていた気がした。振り返った時には手を振っていたが、きっとあの時…… と知世は思った。

「本当は知られたくなかったけれど、昨日、今日と知世を巻き込んでしまっているから隠し通せない。ならいっそ知っておいてほしい」

 話していると、山口の携帯が終わったようだった。

 その暗い表情は晶紀や知世が話しかけることを拒絶していた。

「待たせちゃったね」

「ちょっとじゃないか」

「食べようか」

「うん」

 昼食を取り終わって、おしゃべりをしている間も、山口は携帯を気に掛けていた。

 晶紀は痛みが取れたのか、午後の授業はずっと起きていた。

 授業が終わって、帰り支度をしていると佐倉が教室を覗き込んだ。

「天摩、ちょっと」

 晶紀は首を傾げた。

「知世、ちょっとここで待ってて」

 そう言って晶紀は佐倉のところへ行く。

「朝言った訓練をするぞ」

「えっ? 知世と一緒に帰るって約束しちゃった」

 晶紀は教室の方を振り返る。

 肩をつかんで晶紀を正面に向かせる佐倉。

「お前が準備するのを公文屋(てき)が待ってくれるとでも思うのか」

「……」

「部活があるとでも言っておけ」

 問答無用といった感じだった。晶紀はしかたなく断る理由を考えながら教室に入っていく。

「……なんだよ部活って」

 独り言を聞かれてしまった。

「部活? 晶紀さん部活があるのですか?」

「いや、部活とは違うんだけど放課後、佐倉と練習があるのを忘れていて」

 知世の表情が一瞬曇るが、

「平気です。晶紀さんの都合の良い時に一緒に帰りましょう」

「ごめんね」

 晶紀は顔の前で手を合わせる。

 知世は「大丈夫だから」と繰り返す。

 その時、山口が青ざめた表情で携帯を見つめている。

 晶紀は声を掛けたかったが、そんな雰囲気ではない。

 晶紀が山口を見ている姿を見て、知世が言う。

「私、山口さんの様子を見てくる」

「えっ、そんな」

「私も友達だもん。晶紀さんは佐倉先生との約束を果たして。何かあったら連絡するから」

「ありがとう」

 急いで支度を済ませて出て行く知世。

 後ろ髪を引かれつつも、晶紀は佐倉についていった。




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