episode74
そして夜、約束通りの時間に水島の指定してきた居酒屋へとやって来た。すると、そこに"ピコン"とスマホが鳴った。どうやらもう店についているようで、席の場所を伝えるためのLINEであった。
「えーっと、桜の間は......あ、ここだ」
どうやら個室の様だ。それもそうだ。今では立派な芸能人なのだから。
「失礼します......」
「お!来た来た!MIYUKI君......いや、今はオフだし美幸君でいいかな?」
「ど、どちらでも......ところで他の人は?」
指定時間はもう過ぎているのにいたのは水島だけ。......嫌な予感がする。
「他の人?あぁ。あれね!嘘だよ?......だって、そうでも言わないと過保護な君のナイト達が許可してくれないでしょ?」
「......帰ります」
「まってまーって!いいのかな?今帰ったらこの写真バラまくよ?」
「え?」
そこに映っていたのはキスをしている美幸と黒川の姿だった。......何故そんなものが?どこで撮られた?美幸は頭の中をぐるぐると回転させ考える。が、答えは出ない。
「一晩。一晩だけオレに付き合ってくれれば写真は消してあげる。どう?」
「......かず......黒川さんに迷惑はかけませんか?」
「それは君次第かな?」
「......わかりました」
「そーっこなくっちゃ!」と水島は言うと、ビールを何杯も美幸に飲ませてきた。美幸は前後不覚になり、ぐらぐらしていると、水島はニヤリと笑い会計を済ませてタクシーを呼ぶ。そして、ホテル......それもラブホテルへと連れ込まれた。
「この間は味見で済ませたけど、今日は最後まで付き合ってもらおうかな?」
水島はTシャツを脱ぐと上半身裸になる。そして、酔って寝てしまっている美幸の服の中に手を入れて白い肌に手を這わせた。美幸はその感覚で目を覚ます。
「!な、何してるんですか?!やめてください!!」
「ここまできてお預けは酷じゃない?......せっかくなら楽しもうよ」
「......い、嫌です。離してください......お願いします......」
「そこまで拒まれると、さすがに悲しいなぁ......」
水島は「顔みせて?」と顔を隠していた腕を掴んでどかせた。......そして顔を見ると、ただただ静かに涙を流していた。
「......ごめんなさい。ごめんなさい、かずきさん......」
「ハァ。ここまで泣かれたら手出しできないじゃないか」
「ほら、泣き止んで」と言うと美幸の頭を優しく撫でた。
「......ここまで嫌われてまで奪っても意味ない、か。その一樹さんってどんな人?優しいの?」
「......一樹さんは仕事が出来て、オレに甘いくらい優しい......」
「そっかそっか。本気だったんだね。」
「......はい」
「その目を見たら、さすがに奪えないね」
水島は自嘲するように小さく笑うと、脱いだTシャツを拾い上げ、静かに袖を通した。
そして、水島は「帰ろうか」と言うと、ホテルを後にした。
二人はまだ知らない。ホテルに入る瞬間も、出てくる瞬間も――その姿を何者かのカメラに収められていたことを。その一枚の写真が、やがて芸能界を大きく揺るがす騒動の火種となることを、この時は誰も知る由もなかった




