episode58
喜子と白田のおめでたい報告をきくと、その日はシェアハウスで宴会をすることに。もちろん料理は美幸が担当する。しかし、今日は幾分人数が多いため、普段自炊をするという黒川にも手伝ってもらう事にした。そのため、今は美幸と黒川の二人で買い出しへと来ていた。
「すみません、黒川さん。手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ?この大人数を一人で準備するのは気がめいりますからね。ところで今日は一体何をつくりましょうか」
「そうですね......ホットプレートがあったので焼き肉をメインに、つまみをいくつか作りたいと思ってます」
「無限キュウリに、レンコンのはさみ焼き。ジャーマンポテト」こんなものかな?と美幸が言うと、黒川は思わずごくりと喉を鳴らした。
「オレの得意料理なんです。家族がよく飲むので良く作らされてました(笑)」
「聞いただけでお腹が空いてきました」
「それはよかった。つまみの材料は揃ったので、あとは......お肉ですね」
「凄い量になりそうですね......」
まぁ、酒も入る事だし、つまみも作る。それ程大量でなくても大丈夫であろう。そう思いつつも大パックを10パックカゴに入れた。酒は他のメンバーが買いに行くというので、任せてある。
「さ、黒川さん。家に帰って調理開始です!」
「腕によりをかけましょう!」
そうしてスーパーを後にした二人。車にはたくさんの食材でいっぱいだ。
「それにしても、社長も白田さんも上手い事隠していましたね......」
「ホントに。まぁ、仕事人間の姉が恋愛してくれていたのには安心ですけどね」
「と、言いますと?」
「これから話すことは内緒ですよ?」と美幸が言うと、黒川は静かに耳を傾けた。
「おねえちゃん、僕もうやだよ......いろんな男の人がどこかに連れて行こうとするんだ......」
「もう大丈夫。お姉ちゃんが何とかするからね。だから安心して!」
これは幼少期の記憶である。まだ美幸が地味メンになる前の。この頃の美幸は本当に可愛らしく、人攫いや変質者、ストーカーによくあっていた。その度に姉の喜子に助けられていた。そのため、喜子自身も男性に対していい印象は持っていなかった。ある日の事だった。喜子は一冊のマンガにヒントを得た。"そうだ!地味になってしまえばいいんだ!!"と。
「おねえちゃん、ホントに髪の毛ぼさぼさでいいの?......目も悪くないのにこんなにでっかいメガネ......」
「変質者から逃れるためよ!いいからお姉ちゃんの言う通りに、ね?」
「わ、わかった」
「それからこの仕事に着くまで"地味メン"で通ってました。オレのせいで姉も男性不信気味になってしまいましたからね。白田さんとの婚約報告を聞いてオレも安心しました。......もうオレのしがらみにとらえられなくてもよくなったんだと。」
「美幸さん......」
「あ、しんみりしちゃいましたね。でも、この事はオレと黒川さんの秘密ですよ?」
「さぁ、帰りましょう!」と明るく振舞う美幸に、こんなに若いのに苦労してきたんだなぁ、と思うと同時に何やら愛おしさを感じてしまった黒川なのだった。




