episode48
スーパーを後にして、シェアハウスに帰る。黒川は美幸を無事送りとどけ事務所へと戻ろうとしたが、美幸から、「コーヒーでも飲んでいかれます?」とのお誘いがあったため、お言葉に甘えることにした。
「モデル業も始めたというのに家の中はいつも綺麗にされてますね」
「休みの日とかにまとめて掃除しているだけですよ。そんなに毎日仕事が入ってるわけではないですし。...個人の部屋はどうなっているか不安ですけどね......」
コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。今の黒川の楽しみは美幸の淹れるコーヒーだ。こうして送りとどけると高確率で美幸のコーヒーにありつける。
「彼らにもコーヒーを淹れてたりするんですか?」
「それが、皆あんまりコーヒーが得意じゃないみたいで(笑)こうして誰かに飲んでもらえるのは嬉しいです」
黒川は少し優越感に浸った。こんなに美味しいコーヒーをほぼ独り占め出来ているようで嬉しい限りである。
「それじゃあ、このコーヒーはマネージャー特権ですね(笑)」
「そうなります(笑)黒川さんから美味しいって言ってもらえるのが嬉しいです。淹れるかいがあります」
「どうぞ」とコーヒーが差し出されると黒川はまず香りを楽しむ。そして一口、二口と口に運んでいく。やはり、どのコーヒーショップで飲むコーヒーよりも美味しい。前にそう美幸を褒めたら、顔を真っ赤にして喜んでいた。そういう可愛らしい面も五人を夢中にさせる要因なのだろうと今となっては思う。
「こうして誰かと飲むコーヒーはやっぱり格別です」
「私でよければいつでも付き添いますよ?私は美幸さんのコーヒーのファンですからね」
「ふふっ。そう言ってもらえるとこれからもコーヒーの美味しい淹れ方を研究しないとですね」
「楽しみです。おっと、もうそろそろ事務所に戻らないと。そうだ、美幸さんに渡さなきゃいけない物が......」
「?」
そう言うと、黒川はカバンから一冊の台本を取り出し、美幸に渡してきた。
「?これは?」
「言うのが遅くなりましたが、今度スペシャルドラマのオファーが入っていてその台本です。大丈夫。いつものようにしていればいけますよ」
美幸は台本をパラパラとめくると、美幸の役は深窓の令息の役であった。......これは......。
「こ、これ、主演じゃないですか......?」
その言葉に黒川は無言でニッコリと微笑みを返す。これは肯定とみなされる。
「む、無理無理!無理ですよ!いきなり主演なんて!」
「これは監督きっての希望なんですよ?それに、名前を売るチャンスです!頑張りましょう!」
演技未経験者にいきなり主演をさせるとは、監督も思い切った事をする人だ。......なんでまた自分を指名してきたのやら......。
「こう言ってはなんですが、MVの予行練習だと思って。ね?」
「予行練習が主演なんて、胃がキリキリします......。」
美幸は一気に不安が押し寄せて来た。が、次の黒川の言葉で美幸のやる気が蘇った。
「頑張ってくれたら、廃盤になったLUMINOUSの初のライブDVD(サイン付き)をプレゼントしますよ?」
「やります!!」




