episode37
美幸はウキウキとした面持ちで玄関のドアを開けた。早くデモ曲が聴きたいからだ。重い買い物袋なんて苦に思わない。
「ただいまー。聞いたよデモ曲出来た...んだ、よね?」
喜々としてリビングに入った美幸を出迎えたのは...暗い雰囲気をまとった5人の姿だった。一体どうしたというのだろうか。
「あ、あの...どうかした?デモ曲に何か問題でもあった?」
「...問題なんてもんじゃねーよ!完全に社長の趣味だろう?!知ってんだぞ?社長含め女子社員全員が"腐女子"だって!」
「...ふじょし?」
翔汰が一体何にキレているのかまったく理解が追い付かない美幸だったが、澪里に差し出されたデモ曲の歌詞を見た。なんだ。普通のラブソングじゃないか。
「これのどこが問題なの?ふつうのラブソングでしょ?」
「普通じゃねーよ!意味を考えて、もう1回!読み直せ!」
"結ばれることの許されない僕たち"、"同じじゃなければよかったのに"、"君と手を繋ぐ事すら許されない"...。身分さのあるラブソングの様に聞こえるが...。翔汰の言った"ふじょし"とやらが関係しているのだろう。
「翔汰さん、"ふじょし"って何?」
「知らなかったんかよ!"腐った女子"で"腐女子"!男同士の恋愛が好きな奴らの事!!」
美幸は翔汰からの説明を聞き、眩暈を起こした。まさか喜子にそんな趣味があるなんて。そして...初めての映像作品になるであろうものに、なんていうものをぶつけてくるのだ...。
「い、今は多様性の時代だからね!ま、まあそういう曲も悪くはないと思うよ!」
「...お前、初の映像で男とキスできるんかよ?」
「キ、キス?!」
「ない話じゃないからな。」と言う翔汰は少しげんなりしていた。その時だった。聖が美幸の元へと歩み寄ってきた。そして無言で見つめてきたかと思うと、美幸の顎をすくいあげた。
「き、聖さん?!」
「シー。...黙って?」
次の瞬間だった。聖の唇が美幸のそれを塞いできた。美幸はもちろん、他の4人も固まって動けなくなり思考回路が停止した。
「んン...!アッ聖さん!...ま、待って!!」
「んー?もうギブ?可愛いねー。」
情報量が多すぎる...。え、これを撮影では何度もするってこと?!しかもLUMINOUSと?!ファンに殺されるんじゃ...。あぁ、自分もファンだった...。でも待って!無理!
「よっしーオレとキスするの嫌だったー?」
「い、嫌ではないけど...。その心構えが...。」
「嫌じゃないんかい!!」
だって!最高のファンサじゃないか!!オレだけのファンサ...。今日は眠れないかもしれない。美幸はそんなことを思っていて気づいていなかった。聖が獲物を狙う肉食獣の様に舌なめずりをしていたのに。




