episode36
撮影スタジオから外に出て事務所へと向かう。事務所に着くや否や待ち構えていた喜子に「良くやった!」と背中をバシバシと叩かれた。
「あのオレ様我儘王子を負かすなんて流石私の弟!いやぁ、黒川君から連絡がきたときはどうかしたのかしらと心配したのに、まさか美幸が自ら志願したって言うじゃないの!一体どういう風の吹き回し?」
「...いや、見学してたらなんだかつまらない画だなって思ったのと...」
「のと?」
「LUMINOUSをバカにされたのが許せなくって!!」
やはり美幸は美幸だった。推しがバカにされたのが黙っていられなかったらしい。
「...それに、あの高飛車な鼻をへし折ったら面白そうだなって思って。」
「美幸...貴方黒くなったわね...。そうそう。LUMINOUSの新曲のMVについて明日会議を開くから、主演として貴方も参加して頂戴?」
「...モデルは動かなくていいけど、演技ってなると不安が...」
あぁ、また気弱さが出てしまう。けれど、喜子はそんな美幸に強い言葉をかけた。
「"MIYUKI"。貴方はもうプロよ。大丈夫。カメラの視線を自分の物にする程の実力がある。その役になりきることができるわ。貴方はもう立派な演者よ。自身を持って。」
喜子の言葉に美幸はハッとする。あぁ、自分は評価されているのか。自分のやってることが"おままごと"になっていなかったのか、と安心することができた。
「ありがとう、姉さん。オレ、自信持って挑戦してみるよ。」
「その勢いよ。うん。いい顔してるわ。」
「それで...今日皆は?」
「今日はデモ曲のデータを渡して終わりよ。今頃家で聞いてるんじゃないかしら?」
そうか。皆も前に進んでるんだ。後ろ向きになってる場合ではない。
「貴方も帰ったら聞いておいて頂戴?曲の雰囲気を掴んでいたほうが撮影に臨みやすいわよ。」
それもそうだ。でも一ファンからすると世に出る前のデモ曲を聴くことができるなんて...。と興奮してしまう。美幸は楽しみで仕方なくなっていた。とりあえず、今日の芸能の仕事は終わり。これからの時間は"シェアハウスのお手伝いさん"だ。今日のご飯は何にしようかな。そう考えながら黒川の運転する車に乗り込んだ。




