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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第3章:大砲の次は「ビジネス」で国を獲る。第4区の事業再生と、王宮を追い詰める見えない包囲網

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第5話:賄賂と脅迫を見抜く『完璧な準備』。――死神の交渉術を学んだ少女は、冷徹な取引で予算を分捕る

サホの執務室のデスクには、第4区の繊維産業に関する現状の資料が広げられていた。

これまでの彼女の取り組み自体は、決して間違っていなかった。点在していた小規模な工房をまとめ上げ、一つの大きな生産体制を築こうと努力していた痕跡が数字から読み取れる。  だが、問題は『資金の枯渇』だった。中途半端なところで予算を止められたため、生産ラインは未完成。出来上がった少量の製品も、ターゲット層(王都の貴族)を見誤ったせいで全く売れず、倉庫の埃を被っている。

「……現状は最悪に近いわね」  サホは苦い顔で資料を見つめた。

「ええ。ですが、ビジネスモデルを『実用品』に転換し、十分な資金さえ投入できれば、この事業は必ず化けます」  俺は彼女の隣に立ち、今後のロードマップを指し示した。

「資金が下りた後の動きは六つです。  一、この土地特有の硬い生地を縫製できる職人を高給で集める。  二、様々な種類の試作品を作り、最も丈夫な配合を研究する。  三、材料となる植物や獣の毛を大量に安く仕入れる。  四、現場の指示役と運営を明確に分けた『生産ライン』を作る。  五、不良品を弾く『クオリティチェック(品質管理)』の役職を必ず入れる。  六、売る市場の確定。まずは第4区内の兵士や労働者に販売して実績を作り、その後に第2区、第3区へと輸出ルートを拡大する」

サホは真剣な顔で頷き、ペンでメモを取っていく。

「完璧な計画だわ。……でも、そのためには初期投資の資金が絶対に必要。つまり、またあのマルティーニを説得しなければならないのね」

彼女の顔に、微かな怯えが走る。  無理もない。今まで何度も彼に企画を叩き潰され、精神を削られてきたのだ。

「サホ様。交渉において最も重要なのは、大声でも、権力でもありません」

俺は懐から、昨夜のうちにサーシャや裏のルートを使って調べ上げさせた『一枚の極秘資料』を取り出し、彼女の前に置いた。

「すべては『準備』です。相手の行動を縛る確かなデータと、相手がなぜそのような態度をとるのかを推し量る『想像力』。……これに目を通してください。今日の会議は、俺ではなく、あなたが彼を仕留めるのです」

資料に目を通したサホの瞳が、驚きに大きく見開かれた。

数時間後。財政局の重役会議室。  長いテーブルの向こう側で、財政担当のマルティーニがふんぞり返って葉巻を吹かしていた。周囲には彼の取り巻きの部下たちが並んでいる。

「……で? 懲りずにまた繊維産業の予算申請ですか、領主様」  マルティーニは、サホが提出した新しい企画書をまともに見ようともせず、鼻で笑った。

「しかも今日は、見慣れぬネズミを一匹連れておられる。前領主のコネで潜り込んだ商人の息子でしたかな?」

部下の一人が俺を指差し、「単なるコネ入社のガキの言うことなど、誰が聞くか!」と下品な笑い声を上げる。彼らはサホに対し、相変わらず暴言に近い態度でマウントを取ろうとしていた。

だが、今日のサホは違った。 多少緊張は感じるものの彼女は一切感情を乱すことなく、冷ややかな視線でマルティーニを見据えていた。先ほどまでに俺は彼女へ乗り切る交渉術を教え込んだ。彼女は元から素質と経験がある。彼女ならできる。

「マルティーニ局長。私が本日持参したのは、企画書だけではありません」

サホは手元の鞄から、俺が渡した分厚いファイルの束を取り出し、テーブルの上にドンと置いた。

「これは、過去三年間における財政局の『不自然な資金の動き』をまとめたものです」

マルティーニの葉巻を持つ手がピタリと止まる。

「あなたの言う通り、軍事にリソースを集中させるのは結構。ですが、なぜ武器の仕入れ先が『ムラニ商店』に偏っているのですか? 近年、第2バールの武器生産技術が向上し、安くて質の良い武具がいくらでも流通しているというのに、あなたはバールからの外貨導入や輸入を頑なに防ぎ、質の劣るムラニ商店の武器を相場の三倍の値段で買い続けている」

サホは通る声で、淡々とデータを突きつけていく。

「理由は簡単。ムラニ商店が、この第4区の戦争特需でボロ儲けをするためです。彼らはサクレアにも裏で武器を横流ししていた死の商人。バールの優れた武器が流入して自らの経営が傾くのを恐れ、財政担当のあなたに多額の『賄賂』を贈り、戦争中心の政策を維持させていた。違いますか?」

「き、貴様……っ! 証拠もないデタラメを!」

マルティーニが顔を真っ赤にして立ち上がる。  だが、サホは怯むことなく、彼の目を真っ直ぐに射抜いた。

「デタラメかどうかは、この帳簿の写しを見れば一目瞭然です。……ですが」

サホはふと、声を少しだけ柔らかく落とした。  ただ相手を追い詰めるだけではない。事前のデータから相手の『背景』を想像した、彼女なりの交渉。

「あなたがムラニ商店の言いなりになっていたのは、単なる賄賂や強欲さからだけではないことも知っています」

「な……っ」

「あなたの故郷である混合王国(マルタン王国)に住む、あなたのご家族。……ムラニ商店の裏の顔である武装組織に、家族の安全を盾に『脅迫』されていましたね?」

その言葉が出た瞬間、マルティーニはその場に崩れ落ちるように椅子にへたり込んだ。  部下たちは何が起きているのか分からず、ただ呆然と上司の姿を見つめている。

「私は領主として、ムラニ商店の不正を暴き、徹底的に潰します。……あなたのご家族の安全は、私が第4区の軍を動かして必ず保障すると約束しましょう」

サホは静かに、だが絶対の威厳を持って告げた。

「その代わり、この繊維産業への支援金に今すぐ承認の判を押しなさい。そして事態が落ち着いた後、あなたはすべての責任をとって、大人しく財政局長の座を降りること。……これが私の提示する、唯一の取引です」

元軍人でプライドの高い彼にとって、若き女性領主に不正を暴かれ、さらに情けをかけられることは屈辱の極みだろう。  マルティーニはギリッと歯を食いしばり、拳を震わせていたが……やがて深く息を吐き出し、力なく頷いた。

「……負け、ましたよ。あなたの、完全な勝利だ」

こうして、第4区の未来を左右する巨額の予算が、ついにサホの手によって引き出されたのだった。

その日の午後。  第4区の領主館、誰の目も届かない私室の食堂で、俺とサホは向かい合って座っていた。

「……美味しい」

テーブルに置かれた銀の器。その中に入っているのは、氷魔法で極限まで冷やして固めた牛乳と砂糖のスイーツ——『アイスクリーム』だ。この世界では王侯貴族しか口にできない超高級品だが、サーシャが腕を振るって特別に用意してくれた。

サホは銀の匙でアイスをすくい、とろけるような笑顔を浮かべていた。  マルティーニを打ち負かした高揚感と、プレッシャーから解放された安心感が、彼女の本来の年相応の可愛らしさを引き出している。

「ショウ。本当にありがとう。あなたの持つきっかけがなければ、私は一生あの部屋で罵られ続けていたわ」

「俺はデータを集めただけです。最後に引導を渡したのは、サホ様ご自身の言葉ですよ」

俺がコーヒーを飲みながらそう言うと、彼女は真剣な表情で匙を置いた。

「今日、分かった気がするの。……ビジネスや交渉、人を動かすことの『真髄』が」

彼女は窓の外、高くそびえる防壁の向こうの空を見つめながら言った。

「大声を上げることでも、権力を振りかざすことでもない。全ては『準備』なのね。圧倒的なデータと、相手がどういう背景で動いているのかを読み解く『想像力』。……それさえあれば、声なんて荒げなくても、相手は勝手に折れてくれる。トップに立つ人間に必要なのは、そういう冷徹で、でも相手を理解しようとする視野の広さなんだわ」

それはまさに、経営者として、トップとしての本質的な気づきだった。  泥臭く足掻いていた小娘が、一人の巨大な組織のリーダーへと脱皮した瞬間だ。

「ええ。その通りです、サホ様」

俺は満足げに微笑んだ。  資金は確保し、最大の障壁だった財政のガンも取り除いた。

ここから、第4区の狂った戦争経済をぶっ壊す、本当のコンサルティングが始まる。



お読みいただきありがとうございます!

第5話、いかがだったでしょうか。 ルイが集めた完璧な「データ」を武器に、サホが自らの手でマルティーニを論破するカタルシス回でした!

ただ不正を暴いて追放するのではなく、相手が賄賂だけでなく「家族を人質に脅迫されていた」という背景(Why)まで想像し、解決策を提示する。これぞ、ルイがサホに教えたかった「コンサルタントとしての交渉術」の真髄です。 アイスを食べながら経営者としての真実に気づくサホ。彼女の成長が本当に眩しいですね!

資金も手に入り、いよいよ第4区の改革(実用的な繊維事業と、軍の意識改革)が本格的にスタートします!

「サホの成長に感動した!」「データと想像力の交渉、スカッとした!」と思っていただけましたら、 ページ下部にある『☆☆☆☆☆』から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

※次回は【金曜日の19時】に更新します! (更新スケジュール:土・日・月・水・金)


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