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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第3章:大砲の次は「ビジネス」で国を獲る。第4区の事業再生と、王宮を追い詰める見えない包囲網

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第4話:貴族のドレスではなく「絶対に破れない軍服」を作れ。――泣き崩れた若き領主に、死神が授ける最強のビジネス戦略



泣きじゃくっていたサホは、やがて疲労の限界を迎えて気を失うように眠りに落ちた。

 俺は彼女を抱き上げ、書斎の奥にある仮眠用のソファに静かに横たえ、毛布を掛けた。


サーシャが手早く、散乱したインク瓶や割れた陶器の欠片を片付けていく。

 俺はその間に、床に散らばっていた彼女の企画書や決算報告書を拾い集め、デスクの上で一つ一つ読み込み始めた。


サホという領主が、何を考え、どうこの街を救おうとしていたのか。

 彼女が立案した政策を全て振り返り、現状を把握しなければ、正しい処方箋コンサルティングは書けない。


資料を整理すると、彼女の政策は大きく三つの柱に分けられていた。


一つ、溜池や道路などの『インフラ投資』。

 二つ、新たな特産品を生み出すための『繊維産業の立ち上げ』。

 三つ、関税撤廃などによる『商業活性化』。


どれも現在進行形で頓挫、あるいはマルティーニたちに妨害されてうまくいっていない。インフラ整備だけは辛うじて少し進んでいるようだが、繊維産業に至っては立ち上げの号令をかけただけで、資金も運営も完全にストップしている状態だった。


だが、書類を読み進めるほどに、俺は彼女の『目の付けどころ』の鋭さに感心していた。


現在、この第4区は王宮からの支援金と、数年前の紛争で得た『戦勝金』の貯蓄だけでどうにか首の皮一枚繋がっている状態だ。だが、戦争が泥沼化している今、それも近いうちに底を突く。つまり、一刻も早く自力で稼げる『新しい収入源』が必要不可欠なのだ。


俺の治める第2バールは、地理的に複数の都市から王都へ向かう中継地点であり、大河であるラナ川の恩恵もあったため、まず『商業』から発展させ、そこから『工業』へとスムーズに移行することができた。

 だが、この第4区の立地では、一般的な商業の発展は極めて難しい。わざわざこんな紛争地帯の行き止まりに立ち寄る物好きの商人などいないからだ。


だからこそ、サホは『繊維産業』という製造業に目をつけたのだろう。

 インフラ投資を急いでいたのも、戦勝金が底を突く前に、街が少しでも長く存続できる土台を作ろうと必死に足掻いていた証拠だ。


「……方向性は完璧だ。だが、戦術アプローチが間違っている」


俺は、繊維産業の事業計画書を指で弾いた。

 彼女の計画は、このエリア特有の繊維技術を利用して『最高級品』を作り、王都の貴族向けに高く売るというものだった。一見、利益率が高く合理的に思える。


しかし、これには致命的なエラーが複数存在していた。


第一に、最高級のドレスや織物を作るためには、質の高い絹や染料を『外部から輸入』しなければならない。紛争地帯を抜けて運ばれる物資の輸送コストは跳ね上がり、利益を完全に食いつぶす。


第二に、ブランド力の欠如。王都の貴族たちは「品質」以上に「王都や第1区の老舗ブランド」という見栄にお金を払う。辺境の軍事都市で作られた高級品など、最初から見向きもされない。


そして第三に、これが最も致命的だが……『労働者のインセンティブ(報酬体系)』のミスマッチだ。

 計画書を見ると、工場での労働は『時給制』で計算されていた。だが、この街の住民は、常に死と隣り合わせの戦場で「敵を倒した分だけ報酬をもらう」という『成果主義』で生きてきた人間ばかりだ。彼らに、時間を切り売りする時給制の単純労働を押し付けても、絶対にモチベーションは上がらない。


問題の根本はすべて見えた。

 俺はペンを執り、彼女の企画書をベースにした『新しい青写真』を書き殴り始めた。



次の日の朝。

 俺はサホが目を覚ましたタイミングを見計らい、サーシャに温かいスープと朝食を持たせて彼女の部屋へと向かわせた。


昨夜あそこまで感情を爆発させて泣き崩れたのだ。男の俺がすぐに顔を出すより、まずは女の子同士で言葉を交わした方が、彼女の精神的なクールダウンには効果的だろうという判断だ。


扉の向こうから、サーシャの明るい声と、サホの少し照れたような、落ち着いた声が聞こえてくる。

 しばらくしてサーシャが空の食器を持って出てきたのを確認し、俺は静かに書斎のドアをノックした。


「……入って」


中に入ると、サホはソファの上に身を起こし、すっかりいつもの凛とした表情を取り戻していた。ただ、少しだけ目元が赤く腫れている。


「昨日は……その、見苦しいところを見せてしまって、本当にすまなかったわ」


彼女は気まずそうに視線を逸らし、小さく頭を下げた。


「いえ。お気になさらず」


俺は深く追求することはせず、手に持っていた書類の束をデスクの上に広げた。


「それよりも、サホ様。反撃の準備を始めましょう。あなたの『繊維産業』の企画書を、少しだけ修正させていただきました」


「え……?」


「素晴らしい着眼点です。この街の立地と資金繰りを考えれば、製造業に打って出るのは大正解です。……ただ、ターゲットと労働環境の設定が間違っています」


俺は、昨夜組み上げたロジックを彼女に説明し始めた。


「王都の貴族に向けた『高級品』を作るのはやめましょう。輸入コストが高すぎますし、既存のブランド力には勝てません。我々が作るべきは、この第4区の過酷な乾燥地帯に自生する硬い植物や、獣の毛を利用した『圧倒的に丈夫で、実用的な繊維』です」


「実用的な繊維……?」


「ええ。例えば、魔物の爪を通さないほど頑丈な作業服や、安価で長持ちする軍用テントの生地などです。これなら材料の輸入コストはゼロですし、何より『戦争都市の第4区が作っている』という事実そのものが、最強の品質保証ブランドになります」


サホの目が、わずかに見開かれた。


「さらに、労働者の報酬体系を変えます。時給制を廃止し、作った分だけ青天井で給与が支払われる『完全歩合制インセンティブ』を導入します。戦場での成果主義に慣れたこの街の人間なら、確実に目の色を変えて競い合うように生産性を高めるはずです」


俺の説明が進むにつれ、サホの表情から翳りが消えていく。


「……なるほど。それなら、治安の悪さを逆手にとって、腕っぷしの強い元兵士たちを工場の警備や運搬の責任者に高給で雇い入れれば、雇用も創出できるし物流も安定するわね……!」


俺の提案の意図を即座に理解し、さらなるアイデアを乗せてくる。やはりこの女性は、極めて優秀な頭脳を持っている。


「その通りです。これで、初期投資のコストを下げつつ、確実に利益を出せるビジネスモデルが完成します。……あとは、あの財政担当のマルティーニから、この事業の立ち上げ資金を引き出すだけです」


「マルティーニから……?」


サホが不安そうに俺を見上げた。


「あいつが、素直に予算の承認に判を押すとは思えないわ。昨日も言われた通り、あいつは私の企画を遊びだと……」


「ご心配なく。彼には『絶対に判を押さざるを得ない理由』を作ります」


俺はコンサルタントとしての冷酷な笑みを浮かべた。


「あなたを孤立させていた連中の足元は、すでに崩し始めています。サホ様はただ、領主として堂々と、この新しい企画書を彼に突きつけてやってください」


「ショウ……」


彼女の目に宿っていた絶望の濁りは、完全に消え去っていた。

 代わりにそこにあったのは、知性と希望を取り戻した、力強い光の輝きだった。


「ええ……やってやるわ。私自身の力で、あいつらを黙らせてみせる」


サホは企画書を両手で強く握り締め、真っ直ぐに俺の目を見て、美しく笑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




お読みいただきありがとうございます!


第4話、いかがだったでしょうか。

プレッシャーで崩れてしまったサホですが、ルイが一晩で彼女の政策の「素晴らしい点」と「失敗の原因」を正確に分析し、新たな青写真ビジネスモデルを提示することで、見事に彼女の心に希望の火を灯しました。


「高級品ではなく、地元の素材を使った実用品を作る」「時給制ではなく、戦闘狂に合わせたインセンティブ制にする」。

土地柄と住民の気質を計算し尽くした、コンサルタント・ルイならではの鮮やかな戦略転換です。


そして次回は、いよいよ憎きパワハラ貴族・マルティーニとの対決!

ルイが裏で仕込んでいた「絶対に判を押さざるを得ない理由(罠)」とは一体何なのか!?


「サホの目が輝きを取り戻して良かった!」「マルティーニへの反撃が楽しみ!」と思っていただけましたら、

ページ下部にある『☆☆☆☆☆』から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


※次回は【明日の19時】に更新します!

(更新スケジュール:土・日・月・水・金)

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