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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第3章:大砲の次は「ビジネス」で国を獲る。第4区の事業再生と、王宮を追い詰める見えない包囲網

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第3話:魔力ゼロの小娘への侮蔑と、孤独な部屋で響く絶叫。――冷徹な観察者が選んだのは「強権」ではなく「裏方」の道

あの軍事会議から、一週間が経過した。  俺はその間、サホの補佐官として常に彼女のそばに付き従い、徹底的に『観察』を続けていた。

コンサルタントの鉄則として、先入観で物事を決めつけてはいけない。組織の病巣を正確に切り取るためには、まず現場の現状ファクトを正しく把握する必要があるからだ。

一週間見て分かったこと。  それは、サホという女性が、ひどく不遇な環境にいながらも『極めて優秀な領主』であるという事実だった。

彼女は、この戦争ばかりで経済が冷え切った第4区を豊かにするため、必死に頭を働かせていた。他都市との貿易を活発化させるための関税撤廃案や、物流をスムーズにするための道路整備、そして枯渇しがちな水源を確保するための溜池のインフラ投資案など、どれも論理的で素晴らしい企画ばかりだった。

だが、彼女がそれらの政策を各局の長と交渉するたびに、決まって冷ややかな『軽蔑』の視線に晒されていた。

理由は明確であり、そして残酷なほど多層的だった。  常に死と隣り合わせのこの第4区において、彼女は侮蔑の対象となる条件をすべて満たしてしまっていたのだ。

若すぎる年齢。  女性であること。  偉大な前領主デイブの娘というだけの『親の七光り』。  自ら剣を振るって戦場に立ったことのない『非戦闘員』。  そして何より、この魔術が力を持つ世界において、彼女自身の『魔力が異常なほど少ない』こと。

歴戦の猛者や傲慢な貴族たちからすれば、魔力も武力もない小娘が、親のコネだけでトップに座り、安全な机の上から指示を出しているという事実が我慢ならないのだ。

今日も、財政担当のマルティーニとの会議だったが……控えめに言って、ひどい有様だった。

「……ですから、マルティーニ局長。兵士だけでなく、一般の区民にもきちんと栄養のある食糧を調達するための予算を……それに、戦争依存から脱却するための『繊維産業』への初期投資も、今すぐに行わなければ……」

「ハッ、寝言はベッドの上だけでお願いしたいものですな、領主様」

薄笑いを浮かべてサホの言葉を遮ったのは、嫌味な顔つきをした細身の男、マルティーニだ。  彼は隣国である『混合王国(マルタン王国)』の出身であり、元軍人という経歴を持つ貴族だ。財政を握っている上に軍部との繋がりも深く、この第4区においてはサホを凌ぐほどの明確な『力関係ヒエラルキー』を築き上げていた。

「栄養のある食糧? 馬鹿馬鹿しい。戦えない有象無象に高価な麦を食わせて何になるというのです。それに繊維産業などという、いつ芽が出るかも分からないお遊びに投資する予算など、我が第4区のどこにもありませんよ」

「お遊びではありません! このままでは第4区は……っ」

「大体、あなたが持ってくる企画はどれも女子供のままごとのようだ。魔術の一つもまともに扱えず、戦場すら知らないデイブ様のお嬢様には、軍事にリソースを集中させるという基本すら理解できないのでしょうな」

ねちねちと、執拗に言葉の刃でコンプレックスを切り刻む。  完全にマウントを取っているマルティーニの前に、サホの反論は力なく響くばかりだった。連日の心労からか、彼女にはもう強く言い返す気力すら残っていないように見えた。

ボロボロに言われ、罵られ、彼女の精神は明らかに限界を迎えていた。

(……これ以上は、見ていられないな)

俺がたまらず一歩前に出ようとした、その時だった。

スッ、と。  サホが震える腕を横に伸ばし、俺の胸を制止した。

『私に、やらせて』

彼女の横顔が、声にならない声でそう訴えかけていた。  ……彼女のその、泥臭いほどのプライドと責任感は尊重したい。また、マルティーニの汚職の尻尾を完全に掴むためには、まだ少しだけ泳がせておく必要があった。俺は静かに足を止め、再び黒衣の観察者へと戻った。

結局、その日の会議も何一つ彼女の案が通ることはなく、マルティーニの独壇場で幕を閉じた。

重苦しい沈黙の中、俺たちは彼女の書斎へと戻ってきた。  ドアが閉まるなり、サホは執務デスクに手をつき、力なく肩を落とした。

「……もう、いいでしょ」

こちらに背を向けたまま、彼女が乾いた声で言った。

「一週間見て、よく分かったはずよ。私がどれだけ無力で、この街の誰からも相手にされていないか。魔力もなくて、ただの小娘で……何もできないのよ、私は」

「サホ様……」

「あなたが優秀なのは分かったわ。でも、これ以上は無理よ。私がなんとか一人で頑張るから……もう、第2区へ帰りなさい」

無理だ。このまま彼女を一人にすれば、確実に壊れる。  だが、今の彼女に何を言っても逆効果だろう。

「……分かりました。本日はこれで失礼します」

俺は深く一礼し、あえて一度引くことにした。  静かに書斎のドアを閉め、サーシャと共に廊下を歩き出す。

だが、数メートルも歩かないうちだった。

「——あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

突如として、書斎の中からサホの悲痛な奇声が響き渡った。  ガシャン! バリンッ! と、高価な陶器が壁に叩きつけられ、砕け散る破壊音が立て続けに聞こえてくる。

「っ!」

俺はサーシャを制し、弾かれたように身を翻して書斎のドアを蹴り開けた。

部屋の中は、凄惨な有様だった。  書類は宙を舞い、インク瓶は壁に叩きつけられて黒い染みを作っている。  そして部屋の中心では、サホが狂乱したように手当たり次第に物を投げつけ、自分の銀髪を掻き毟っていた。

「どうして……っ! どうして誰も分かってくれないのよぉぉっ!!」

極度のプレッシャーと、誰にも認められない絶望で、完全に心が決壊してしまったのだ。  血走った瞳には焦点が合っておらず、俺の声すら届いていない。彼女は近くにあった重い金属製の燭台を振り上げ、無茶苦茶に暴れ回っている。

「サホ、やめろ!」

俺は咄嗟に『土魔法』を発動させた。  床の石畳が瞬時に変形し、暴れるサホの両足首を土の枷となって優しく、しかし強固に固定する。

「きゃあっ!?」

足元を拘束されてバランスを崩した彼女の背後に回り込み、俺はそのまま彼女の華奢な体を、後ろから強く抱きとめた。

「はなして……っ! 放してよぉぉっ!!」

「落ち着いてくれ、サホ。もう大丈夫だ」

俺は暴れる彼女の腕を押さえ込みながら、耳元で低く、静かな声を落とした。

「……私はもう……頑張れない……っ、魔力もなくて、女で……お父様みたいには、なれないよぉ……っ!」

抵抗する力が次第に抜け、やがて彼女は俺の腕の中で、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。  ボロボロと大粒の涙が溢れ出し、彼女は子供のように声を上げて泣きじゃくった。

俺は、床に座り込んだ彼女の背中を、ただ静かに撫で続けた。

本当に、一人で抱え込みすぎていたのだな。  普段は冷徹で隙のない美しい顔をぐしゃぐしゃにして、鼻水を垂らしながら泣き叫ぶ彼女の姿を見て、俺の胸の奥で何かが静かに熱を帯びた。

(……ここで俺が、『バール領主のルイ』だと身分を明かして強権を発動し、改革を進めれば簡単な話だ)

だが、それは『正解』ではない。

ここで俺が力ずくで解決してしまえば、彼女は一生「誰かに守られた非力な小娘」のままだ。彼女は、親の七光りでも魔力の少なさでもなく、自分自身の知恵と力でこの街の問題を解決し、彼らに認めさせたいと心の底から願っている。  だからこそ、俺が前に出るわけにはいかない。俺はあくまで裏方に徹し、彼女を支え、彼女自身の手で勝利を掴ませなければならない。

デイブからのお願いだから、という業務的な理由だけではない。  この泥臭く足掻く不器用な女性領主を、絶対に勝たせてやりたい。

俺の中で、一人のコンサルタントとしての、いや、一人の人間としての強烈な『決心』が起きた瞬間だった。



お読みいただきありがとうございます!

第3話、いかがだったでしょうか。 有能でありながらも、女性というだけで過小評価され、マルティーニのパワハラに耐え続けてきたサホ。一人でプレッシャーを抱え込みすぎた結果、ついに心が限界を迎えてしまいました。

顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れる彼女を後ろから抱きとめ、ルイは一つの決意を固めます。 「俺が力ずくで解決するのではなく、彼女自身の手でこの街を掌握させる」 コンサルタントとしての矜持と、彼女への人間的な共感が交差する、熱い展開の始まりです!

次回は、いよいよ反撃の狼煙! サホを徹底的に見下すマルティーニに対し、ルイが裏で集めた『致命的な数字データ』を使って、容赦のない金融コンサルティング(物理)を仕掛けます!

「サホの涙にグッときた!」「次回のマルティーニ成敗が楽しみ!」と思っていただけましたら、 ページ下部にある『☆☆☆☆☆』から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

※次回は【明日の19時】に更新します! (更新スケジュール:土・日・月・水・金)



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