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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第3章:大砲の次は「ビジネス」で国を獲る。第4区の事業再生と、王宮を追い詰める見えない包囲網

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第2話:数字は嘘をつかない、誇り高き軍部の論破

第4区主都ヨルンダ、領主館の大会議室。  分厚い樫の木で作られた巨大な円卓を囲むように、甲冑を身につけた体格の良い軍人たちがずらりと並んでいた。部屋の空気は重く、そして酷く血生臭い。

上座に座る領主のサホは、手元の分厚い資料をめくりながら、凛とした声を響かせた。

「……今年度の予算案ですが、やはり軍事費の割合が異常です。王都からの支援金を含めても、我が第4区の年間予算の八割が軍の維持と物資調達に消えています。これは異常な数字です」

サホの指摘に対し、円卓に座る軍人たちは不満げに鼻を鳴らした。

「もっと戦略を練るべきです。混合王国側の紛争地帯における死者数が多すぎます。無謀な突撃作戦を見直せば、これほどの死者は出ず、新たに兵を雇い直す費用もかからないはずです」

正論だ。しかし、将軍ゴードンの隣に座る、顔に傷のある大柄な部下が面倒くさそうに手を振った。

「領主様。戦場に出たこともない素人に言われても困りますな。我々は、歴代の将軍たちが築き上げてきた『誇り高き正面突破の戦争』を行っているのです。それに、敵の数も増えている。費用がかさむのは当然のこと」

「ですから、その戦い方を見直して……っ」

「——ああ、それよりゴードン将軍」

傷顔の部下は、サホの言葉を完全に無視して隣の巨漢へと顔を向けた。

「国境近くの『ヒラブ要塞』ですがね。あそこの防壁の立て直し費用として、追加で数百金貨ほど予算を引っ張ってきたいのですが」 「うむ。あそこは要所だ。早急に手配しろ」

軍人たちが、領主であるサホを完全に蚊帳の外に置き、自分たちだけで勝手に軍議を進め始めた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! ヒラブ要塞の改修なんて今年の計画には……!」

「領主様は前線の悲惨さをご存じないから、そういうことが言えるのですよ」

嘲笑。軽視。  若き女性領主の発言権など、この屈強な男たちの前では存在しないも同然だった。  サホは机の下でドレスの裾を強く握りしめた。その大きな瞳には、悔しさと無力感から微かに涙が滲んでいる。それでも彼女は決して俯かず、必死に声を張り上げて食い下がろうとしていた。

「とにかく、無策に大軍を突撃させるのはやめなさい! 噂によれば、あのサクレアの2万の大軍がバール軍に敗れたのも、バール側が徹底した奇襲を……」

「ハッ! バールなんて、誇りも伝統もないちっぽけな成り上がりの街でしょう」

傷顔の部下が、鼻で笑うように吐き捨てた。

「あんなところ、サラとかいう素人の小娘が軍のトップを取るような狂った組織だ。どうせ、卑怯な騙し討ちで勝ったに決まっている。我々第4区の誇り高き軍とは、比べ物になりませんな!」

円卓の軍人たちが、下劣な笑い声を上げる。

「…………」

俺の中で、決定的に何かが冷え切る音がした。  サラを、バールを愚弄されたこと。そして何より、目の前で必死に足掻くクライアントを嘲笑う、この無能な男たちに対して。

「——失礼」

俺は一歩前に出た。  同時に、背後に控えていたサーシャが、俺の合図に合わせて分厚い資料の束を円卓の軍人たち全員の前に、流れるような手つきで配り終えた。

「誰だお前は!」

傷顔の部下が俺を睨みつける。  サホがハッとして「やめなさい、彼はただの……っ」と俺を止めようとしたが、俺は意に介さず円卓へと歩み寄った。

「前領主デイブ様の紹介で参りました、特別監査のショウ・イークと申します」

俺は一礼し、氷のように冷たい声で言葉を紡ぐ。

「将軍方。先ほどバール軍の戦法を『卑怯』と仰いましたが、お手元の資料の三ページをご覧ください」

軍人たちが渋々資料に目を落とす中、俺は言葉を続ける。

「バール軍はサクレアの二万の大軍を撃破しましたが、自軍の損耗率は1パーセント未満です。味方の命を何よりも重んじ、最小の被害で最大の戦果を上げる。軍事組織としてこれ以上なく『優秀』な結果です。  対してあなた方はどうですか。誇りを盾に真正面から突撃し、年間三千人もの兵士を死なせ、国庫を食いつぶしている。無策な浪費を『誇り』という言葉で誤魔化すのは、軍人としてひどく滑稽に見えますが」

「なんだと……っ! 貴様、商人風情が軍を愚弄するか!!」

「事実と数字を述べているだけです」

激昂して剣に手をかける軍人を視線で制し、俺は続ける。

「お手元の資料の通り、あなた方の戦争は完全に赤字事業です。  防具や武器の七割が死体ごと敵に回収され、毎回新品を作り直している。さらに、司令系統で中抜き(汚職)が蔓延し、末端の兵に金が回っていない。これでは質の悪い捨て駒しか集まらない」

図星を突かれた中間管理職たちが、冷や汗を流して顔を見合わせる。

「き、貴様……言いたい放題言いやがって! ではどうしろと言うんだ!」

「五ページをお開きください。解決策です」

俺は淡々と説明を続ける。  その間、円卓の最も奥に座る軍のトップ——ゴードン将軍だけは一切声を荒らげず、配られた俺の資料を恐ろしい集中力で黙読し続けていた。

「まず戦術の改善。敵の小部隊を見つけたら、大軍で潰すのではなく、探索部隊を囮にして罠を張った有利な地形へと『誘い込む』作戦に切り替えます。これなら……」

「却下だ」

資料から目を離さず、ゴードン将軍が地を這うような低い声で遮った。

「我ら第4区の軍は、背を見せて逃げ隠れするような真似はせん。それは我らの誇りが許さん」

(……釣れた)

俺は内心でほくそ笑んだ。  脳筋な彼らが「誘い込み(後退)」を拒否することなど百も承知だ。これは、本命の要求を通すための交渉術アンカリングである。

「承知しました。将軍の誇りは尊重いたします」  俺は即座に引き下がってみせた。 「では妥協案として。誘い込まないにしても、前線の『探索(斥候)部隊』を大幅に増員することだけは徹底してください。敵の奇襲が『いつ、どこから来るか』さえ事前に分かっていれば、あなた方の得意な正面迎撃も、最小の被害で確実に行えるはずです」

「……む。事前の情報収集を手厚くするだけなら、誇りには反せん。被害が減るという理屈も通っている」

ゴードン将軍が、納得したように顎を撫でた。

「次に、兵士の『生命保険(遺族年金)』制度の導入です」  俺は一気に畳み掛ける。 「万が一戦死しても、残された家族の生活を国が保障する。これは単なる人道支援ではありません。これを導入すれば、『自分に何かあったら家族が路頭に迷う』と軍への参加を渋っていた『既に腕の立つ歴戦の傭兵たち』が、こぞって正規軍に参加するようになります。素人を一から訓練するより、はるかに安上がりで強力な軍隊が出来上がるのです」

有能な即戦力を、金(保険)で釣る。  その身も蓋もないが極めて合理的なメリットに、ゴードン将軍は資料に書かれた財務予測の数字を食い入るように見つめた。

「…………」

歴戦の猛者特有の、重く鋭い眼光が俺を射抜く。

「……お前、ただの商人ではないな。何者だ」

「ただの監査役です、将軍」

「ふん。……お前の言うことは、戦術的にも財務的にも正解かもしれん。筋は通っている」

ゴードン将軍は短く息を吐き、分厚い資料をパタンと閉じた。

「……だが、何世代にもわたって染み付いた我らのやり方を、ぽっと出の部外者の言葉で即座に変えるわけにもいかん。だが……この資料をもとに、幹部内で『協議』をすることを約束しよう。今日はこれまでだ」

ゴードン将軍が立ち上がると、他の軍人たちも慌てて席を立ち、逃げるように会議室から退出していった。

「……こちらへ来なさい」

会議終了後。  俺とサーシャは、サホの執務室へと連行されていた。

ドアが閉まった瞬間、サホは机に両手をつき、小さく息をついてすんとした表情になった。

「……ありがとう」

蚊の鳴くような、小さな声だった。

「先ほどは、初対面で突き放すような真似をしてすまなかった。お父様が推薦するだけあって、あなたの分析力は本物ね。あの頑固なゴードン将軍に資料を読ませて『協議する』と言わせただけでも、奇跡に近いわ」

彼女は少しだけ安堵したように、微かに目尻を下げた。  涙目で耐えていた強気な女性領主の、プレッシャーから解放された瞬間の素の表情。

「だが、部外者にこれ以上出しゃばられても困るの。彼らは新参者を嫌うわ。ここは、領主である私が区民のために、自分で頑張って彼らを説得しないといけないのよ。……あなたには、後で何か安全な財政関係の数字をまとめる仕事を渡すわ」

彼女の責任感の強さは本物だ。だが、一人で抱え込みすぎて潰れる典型的なパターンでもある。

「いえ」

俺は彼女の目を見て、はっきりと告げた。

「俺は、領主である『あなた』を全面的にサポートします。この狂った戦争経済を、根本から叩き直すために」

「……はあ。あなた、人の話を聞いていた?」

サホが呆れたようにため息をつく。  俺はサーシャと顔を見合わせ、不敵に笑った。

「ええ、もちろんです。これから忙しくなりますよ、サホ様」


お読みいただきありがとうございます!


第2話、いかがだったでしょうか。

孤立無援で涙目になりながらも気丈に振る舞うラナ。そして、バール(とサラ)を馬鹿にされて静かにキレたルイ(偽名ショウ)が、アウェーの軍事会議に乗り込み、数字とロジックで脳筋将軍たちを黙らせるカタルシス回でした!


ただ論破するだけでなく、相手のプライドを利用して「アンカリング(高い要求を蹴らせて本命を通す)」を仕掛けるなど、コンサルタントとしての巧みな交渉術が光りましたね。

そして、会議後に見せたラナの「すんとした表情でのデレ(お礼)」。責任感ゆえに一人で抱え込む彼女を、ルイがどうやって最強の領主へと押し上げていくのかご期待ください!


次回は、4区の財政を握る嫌味な貴族・マルティーニが登場。ルイが彼の不正を暴き、自らの『手駒』へと変える痛快な展開です!


「アンカリングの交渉術、お見事!」「ラナのデレが良い!」と思っていただけましたら、

ページ下部にある『☆☆☆☆☆』から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


※次回は【明日の19時】に更新します!(更新ペース:土・日・月・水・金)

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