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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第3章:大砲の次は「ビジネス」で国を獲る。第4区の事業再生と、王宮を追い詰める見えない包囲網

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第3章 第1話:新しい土地へ身分を隠しコンサルティング業務!?4区立て直し大作戦

 ガタゴトと揺れる馬車の中で、俺は頭に被った『黒髪のウィッグ』の感触を確かめるように軽くかき上げた。  


「……すごく似合っていますよ、ショウ様!」


 向かいの席に座るサーシャが、丸眼鏡の奥で目をキラキラと輝かせながら言った。  彼女も普段のメイド服ではなく、地味な濃紺の事務服に身を包んでいる。  


「ああ。  今日から俺は第2区のしがない商人の息子、『ショウ・イーク』だ。  頼むぞ、サーシャ」

「はいっ! この秘書サーシャにお任せください!」


 サクレアを大砲で降伏させ、バールに平和が訪れた直後。 

 俺は突如として、領主の座を降りた。  


 王宮から『反逆者』として指名手配された俺がトップに座り続けていては、今後の外交に摩擦を生む。 

 

 それに、今のバールには優秀な局長たちが揃っている。 


 俺という強権的なリーダーがいなくとも、あの街はすでに『自走する組織』へと成長していた。 

 

 俺が身分を隠して旅立つと伝えた時、サーシャだけは大粒の涙を流し「私はルイ様の専属護衛で、秘書です! 地獄の底までついていきます!」と、絶対に部屋から退こうとしなかった。 

 その重くも愛らしい忠誠心に根負けし、こうして連れてきている。  


 馬車が、第2区と外界を隔てる大河『ラナ川』の橋を越えた。 

   

 そこからしばらく進むと、窓の外の景色が劇的に変わり始めた。 


 緑豊かだった第2区の植生は消え失せ、冷たく乾燥した風が吹き荒れる殺伐とした荒野が広がっていく。

  

「……ひどい乾燥ですね。  気温もかなり低いです」


 サーシャは分厚いノートを開き、ふんすと得意げに胸を張った。  


「この土壌と気候では、一般的な麦や野菜は育ちません。  兵士の数に対して圧倒的にカロリーが不足しています。  ……となれば、乾燥地帯でも育つ特殊な植物を探すか、外部からの物流ルートを構築しなければ、この土地の経済は破綻します……ですよねっ! 私、徹夜で第4区の経済資料を叩き込んできましたから!」


「……お前、本当に優秀な秘書になったな」


 俺が頭を撫でてやると、サーシャは「えへへ」とだらしなく頬を緩ませた。  

 彼女の言う通りだ。  ここは常に他国や魔物との戦争が絶えない、王国最大の赤字エリア——『第4区』である。  

 やがて馬車は、巨大な防壁に囲まれた要塞のような都市へと到着した。  


 俺は馬車の窓から街を見下ろし、密かに『スキル』を発動させた。  



【対象都市:第4区主都 ヨルンダ】

・人口:5万人(周辺の砦などを含めると8万人)

・主要産業:軍事、戦争物資の生産

・治安状態:C(スリや暴行が頻発。  悪化傾向)

・経済状態:D(深刻な低迷。  王都への依存度高)

・気候条件:Df(寒冷乾燥気候。  冬季は降雪あり)



(……ひどい数字だ。  完全に『戦争』でしか経済が回っていない)

 街の造りも異常だった。  見上げるほど高い城壁に、何重にも掘られた深い堀。すれ違う人々は、商人も一般市民も皆、外套の下に革鎧などの防具を身につけ、腰には剣や短刀を帯びている。すれ違う馬車のほとんどが軍用の物資運搬車か、いななきを上げる軍馬だ。街全体が、常に死と隣り合わせのピリピリとした空気に包まれていた。  


 俺がこの過酷な土地へ足を踏み入れた理由は、第4区の『前領主』であるデイブから、直々にSOSの依頼を受けたためだ。  


 俺は今から、この第4区の組織構造を解体し、立て直す。 


……領主としてではなく、一人の『コンサルタント』として。 


 

 ◇



 第4区の領主館へ到着した俺たちは、まず別室で待っていた前領主・デイブと密会した。  


「おお! よく来てくれたな、ショウ君!」


 豪快な笑い声と共に迎え入れてくれたデイブは、立派な体格に似合わず、手元で可愛らしいピンク色の毛糸を編んでいた。  


「ご無沙汰しております、デイブ様」


「堅苦しい挨拶は抜きだ。  ……君が来てくれて、本当に安堵している」


 デイブは編み物を置き、その陽気な瞳を一瞬にして鋭いものへと変えた。 

 

「娘の……今の領主であるサホを、どうか支えてやってほしい。  あの子は私と違って、素晴らしい企画力を持っている。  この戦争ばかりの第4区を、本気で豊かにしようと頑張っているんだ。  だが……」


 デイブは苦しそうに目を伏せた。  


「今の第4区は、王宮からの理不尽な要求と、血の気の多い軍部との板挟みだ。  女性領主というだけで将軍たちはあの子を軽視し、誰もまともに話を聞こうとしない。このままでは、あの子はプレッシャーで完全に潰れてしまう」


 自分の政治力不足で歪んでしまった第4区を、娘に押し付けてしまったという後悔。    切実な父親の願いに、俺は力強く頷いた。  



 ◇



 デイブの紹介状を手に、俺は現領主であるサホの執務室へと足を踏み入れた。 

 

「……お父様からの紹介状は読みました。  ショウ・イーク、ですね」


 重厚なマホガニーのデスク越しに、俺を睨みつける冷ややかな視線。    銀色の長い髪をきっちりと結い上げた美しい女性。  だが、その瞳の下には濃い疲労の隈が刻まれ、ペンを握る白い手は微かに震えていた。  


 彼女のデスクの端には、『繊維産業振興案』や『新規農地開拓案』と書かれた書類が、無惨にも「却下」の判を押されて山積みにされている。    彼女がどれほど知恵を絞り、この街を豊かにしようと足掻いても、軍部や王都の圧力にすべて叩き潰されてきたことが、その紙の山から痛いほど伝わってきた。    彼女は今、完全に四面楚歌の状態なのだ。 

 

「悪いですが、お引き取りください。  今の第4区に、商人の息子のお守りをしている余裕はありません」


 サホは強がるように背筋を伸ばし、冷たく言い放った。 

 

「お守りではありません。  補佐官として、必ずあなたのお役に立ちます」


「結構です。  数字遊びしか知らない商人に、この血生臭い土地の何が分かるというのですか? ……今の私に必要なのは、兵站を維持する資金と、軍部を黙らせる武力だけ。  あなたの居場所はありません」

 明確な拒絶。  八方塞がりの現状に対する、ひどい焦りと絶望。    俺はコンサルタントとしてのスイッチを切り替え、営業スマイルを浮かべた。  


「お言葉ですが、サホ様。  現状の『現場ファクト』を一度も見ずに、引き下がるわけにはいきません。  あと十分後に、軍部の将軍たちを集めた軍事会議がありますね? それに、私も同席させていただきます」


「なっ……! 外部の人間を軍事会議に入れるわけがないでしょう! 帰りなさい!」


 声を荒らげたサホに対し、俺は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。 

 

「お断りします。  先ほど、お父様であるデイブ様から『特別監査』としての同行許可は頂いております。  前領主の推薦枠として、私には会議を傍聴する権利があるはずですが?」


「お父様が……ッ」


 サホは悔しそうに唇を噛み締めた。前領主であり、軍部からも一定の信頼があるデイブの直接の許可状を出されては、彼女の権限で無下に追い返すことはできない。 俺は拒否されるのを見越して許可を取った。一回でも実力を見てもらわないとわかってもらえないのだ。

 

「……勝手にしなさい。  ですが、一言でも口を挟めば、即座に兵に引きずり出させますからね」


「承知いたしました」


 俺は内心で冷たく笑いながら、サーシャと共にサホの背中を追った。  


 軍部が支配する会議室。そこが、俺の最初の『仕事場プレゼンルーム』だ。  



お読みいただきありがとうございます!


いよいよ第3章が開幕しました。

今回の舞台は、緑豊かな第2区とは打って変わって、戦争と貧困にあえぐ超過酷な「第4区」です。


身分を隠し、黒髪のコンサルタント「ショウ」として潜入したルイ。そして、優秀な秘書として一生懸命に背伸びをするサーシャのコンビがいよいよ動き出します。

強がりながらも、軍部と王都の板挟みで限界寸前の女性領主・ラナに対し、ルイはどうやって懐に入り込み、この絶望的な街を立て直していくのでしょうか。


次回は、さっそく脳筋な将軍たちが支配する軍事会議の場にルイが乗り込みます。

アウェーの極みとも言える会議室で、圧倒的なロジックと数字を武器に彼らをどう黙らせるのか……コンサルタント・ルイの真骨頂にぜひご期待ください!


【今後の更新スケジュールについてのお知らせ】


第3章からは、より物語のクオリティを上げてお届けするため、更新ペースを変更させていただきます。

これまでの毎日更新から、今後は「土曜日、日曜日、月曜日、水曜日、金曜日」の週5日(基本は2日に1度ペース)での投稿となります!


「黒髪ルイと秘書サーシャのコンビが良い!」「次回の会議での無双が楽しみ!」と思っていただけましたら、

ページ下部にある『☆☆☆☆☆』から、評価ポイントを入れて応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回の第2話も、どうぞよろしくお願いいたします!

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