第42話:数千年のパラダイム崩壊と、反逆者の烙印。――最強の国家を創り上げたコンサルタントの大勝利
バール郊外の平原で繰り広げられた決戦は、サクレア軍の完全なる崩壊という形で幕を閉じた。 だが、俺たちの戦争はそこでは終わらない。戦後処理と完全な制圧を果たすため、バール軍は一千名の精鋭を率いて、休むことなくサクレアの領都へと進軍した。
サクレアの指導者層は当初、高くそびえる『絶対防壁』を盾に籠城を決め込み、強気の姿勢を崩さなかった。旧時代の戦争であれば、一千の兵で巨大な城壁を落とすには数ヶ月の兵糧攻めが必要になるからだ。 しかし、彼らのちっぽけなプライドは、たった『一時間』で完全に粉砕されることになる。
俺たちは陸路の進軍と並行し、海路(水路)から船を使って数門の大砲を輸送していた。 船上と陸上、両方から展開された大砲が、サクレアの誇る城壁に向けて一斉に火を噴いた。轟音と共に分厚い石の壁が紙屑のように消し飛び、たった一時間の砲撃で防壁は無惨な瓦礫の山と化した。 戦意を完全に喪失したサクレアは、為す術もなく白旗を掲げ、全面降伏を受け入れたのだった。
この日、世界に一つの『真理』が刻み込まれた。 ——技術が、魔術を凌駕した。
これまで戦場の主役であった魔術師たちは、今後、A級以上の圧倒的な実力を持たない限り、バールのマスケット銃と大砲の前ではただの的に過ぎない。才能の壁を『工業力』が完全に打ち破った、歴史的なパラダイムシフトの瞬間であった。
◇
サクレア陥落の報せは、瞬く間に世界中へと激震を走らせた。 各国のパワーバランスは根底から覆り、世界の見方は一変した。
国境を脅かしていた北の獣人国は、バールの武力を恐れてピタリと攻撃をやめ、沈黙した。大陸の均衡を図る竜人国からは、事態の事情聴取と称して大量の使者がバールへと派遣されてきたが、俺は「内政干渉である」と一蹴し、すべて国境で送り返した。もう、彼らの顔色を窺うフェーズは終わったのだ。
そして何より、最もヒステリックな反応を見せたのは『王宮』だった。
サクレア降伏から数日後。王宮は国中に向けて、大々的な声明を発表した。
『第2区およびバール領は、国王陛下の命令を無視して不当に軍を拡大し、王国の乗っ取りを企てている。 よって、その首謀者であるルイ・クロムウェルの【王位継承権】を永久に剥奪すると共に、同領地を王国の特定敵国に指定し、反逆罪として処罰する』
俺が持つ王族としての血筋と継承権の剥奪。そして、国家反逆罪の適用。 圧倒的な勝利に恐怖した王宮や他地域の貴族たちが、バールを『世界の敵』に仕立て上げ、束になって潰そうとする意図は明白だった。
だが、俺に言わせればそれはただの『無駄な遠吠え』に過ぎない。 王宮がいくら紙切れで敵国指定しようと、現実の経済はすでに俺たちが握っている。第1区とは巨大な安全保障同盟と鉄道事業で結ばれ、第2区全体や第4区とも、これまでの貿易や外交で強固な依存関係を築き上げているのだ。 もし王都がバールを攻撃すれば、大陸の経済は即座に崩壊し、彼ら自身が飢えることになる。
事実、王宮は勇ましい声明文を出したものの、バールの『大砲』という未知の兵器に震え上がり、すぐに軍を動かすことはできなかった。負けることを、極端に恐れているのだ。
◇
それから数ヶ月。 バールには、嵐の後のような平穏な日々が戻ってきていた。
戦争特需と戦後の復興支援により、街はさらに急激な発展を続けている。南の工場区には新たな煙突が次々と立ち並び、第1区への巨大プロジェクトである『鉄道』も、技術者たちの尽力によっていよいよ開通が近づいていた。 技術開発局では、大砲の軽量化やマスケット銃の改良(連射機構やライフリングの導入)が進み、バールの軍事力は日を追うごとに洗練されていく。
そんな、ある晴れた日の午後。 俺は新庁舎の最上階にある最も広い会議室に、バールの中枢を担う局長たちを全員集めていた。
宰相のマティアス。 経済局長のモネ。 インフラ担当のヴェスタ。 軍事局長のサラ、そして将軍のユース。 情報局長のヤンダル。 そして、秘書のサーシャ。
かつて泥まみれのスラムから始まり、俺の無茶な要求とロジックに振り回されながらも、この奇跡の街を共に創り上げてきた最高の経営陣たちだ。
円卓を囲む彼らの顔を見渡し、俺は静かに口を開いた。
「……皆、集まってくれて感謝する」
俺は深く、一度だけ頭を下げた。
「サクレアとの戦争、そして街の発展。……皆、今まで本当にありがとう。お前たちが命懸けで働いてくれたおかげで、バールは誰にも脅かされない強固な盤面を完成させることができた」
突然の俺の労いの言葉に、会議室の空気が一瞬だけきょとんとしたものに変わる。
「……なんだよルイ、急に改まって」 サラが少し照れくさそうに笑い、モネが「ボーナスでも出してくれるわけ?」と目を輝かせる。 ヴェスタやサーシャも、平和が訪れた安堵からか、柔らかい笑みを浮かべていた。
だが、俺の表情が一切の緩みを見せていないことに気づき、マティアスとヤンダルだけが微かに顔を強張らせた。
「ルイ様。……『今まで』ありがとう、とおっしゃいましたね」
マティアスの静かな問いに、俺は頷いた。
「ああ」
俺は全員の顔を順に見渡し、淡々と、しかし決定的な事実を告げた。
「本日をもって、俺はバール領主を辞める」
ピタリと、会議室の空気が凍りついた。
「……え?」
サラから漏れた間の抜けた声だけが、静寂の空間に響く。 誰もが自分の耳を疑い、息を呑む中、俺は冷徹なコンサルタントの顔を崩さなかった。
守るための戦いは終わった。 ここから先は、狂った世界そのものを内側から喰い破るフェーズだ。
お読みいただきありがとうございます!
サクレアとの戦争は、バールの圧倒的な技術力によって完全勝利で幕を閉じました。船からの砲撃という物理の暴力が、魔法使いが絶対だったファンタジー世界の常識を完全に破壊した瞬間です。
そして王宮からの「反逆者」認定と「王位継承権の剥奪」。 しかし、経済と外交で周りの国をズブズブに依存させているルイにとっては、もはや痛くも痒くもありません。
平穏を取り戻し、さらなる発展を遂げたバール。 全員を集めた会議室での「今までありがとう」からの、まさかの「領主辞任」宣言! 最高潮の発展を迎えた今、なぜルイは領主を降りるのか!?
ここから物語は、全く新しい次元(アンダーカバーでの4区編)へとスケールアップしていきます!
「大砲での城壁破壊カタルシス最高!」「えっ、ここで辞めるの!?」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!
次回から新章突入!【3月15日19時】に更新します!




