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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第36話:開戦の足音と、精鋭情報部隊

 サクレア軍進軍の報せを受け、バール全軍にかつてない緊張感が走っていた。  出撃準備を進める兵士たちの顔には、歴戦の傭兵であっても隠しきれない硬さがある。剣を研ぐ音、銃の手入れをする金属音、そして馬のいななきが、重苦しい空気の中で絶え間なく響いていた。


 軍の主力は、サラの指揮のもと、すでに迎撃地点である南へ向けて少しずつ進軍を開始している。  一方、バール市街の防衛部隊として約3500名が残された。彼らは今、ヴェスタの指示で物理的な障害物となる木の杭を無数に打ち込み、魔術対策の防衛壁を急ピッチで構築している。


「……どうしても、納得がいきません」


 本陣の天幕の前。  最終防衛部隊の指揮を任されたサーシャが、唇を噛み締めながら俺を睨みつけていた。

 普段の秘書としての装いではなく、上質なミスリルで編まれた軽量の鎧を身に纏い、腰には名工が鍛えた細身の剣を帯びている。その可憐な見た目とは裏腹に、彼女から放たれる気迫は本物だ。


「私は、ルイ様のお側でお守りしたいのです。なぜ、私が一番安全な後方なんかに……」


「お前はバールにおける最終兵器ジョーカーだ。もし敵軍の中に想定外の強力な戦士がいて、防衛ラインが突破された時、前線に出てきてもらう。……頼めるのはお前しかいない」


「ですが、ルイ様が前線に向かわれるというのに!」


 サーシャの瞳が、悲痛な色に揺れる。  彼女の忠誠心は痛いほど分かっている。だが、俺は首を横に振った。


「この街は、俺一人の命よりも大事なんだ」


 俺が静かに告げると、サーシャはハッとして息を呑み、やがて悔しそうにうつむいた。


「……分かりました。この命に代えても、バールは死守いたします。どうか、ご無事で」


 彼女の悲壮な決意を背に受け、俺は自分の部隊が待機する場所へと向かった。


 俺は領主であり、本来なら安全な本陣から指揮を執るのが定石だ。だが、この盤面の最前線で何が起きているのか、ただ傍観しているつもりはなかった。無理を言って編成させたのは、総勢20名の『精鋭小部隊』である。


 剣士6人、攻撃魔術師6人、回復魔術師2人、マスケット銃部隊4人、そしてシーフ(斥候)2人。全員が冒険者ランクB級以上の実力者たちだ。

 俺たちの役割は、他の部隊のように敵の戦力を少しずつ削っていくことではない。『情報』だ。

 敵の主力部隊の近くを並走しながら、彼らの動きを正確に把握する。この情報部隊は俺たちの他にも3部隊編成されており、もし敵の本隊が分裂したり、奇襲などの変な作戦をとった瞬間に、本陣のサラへ知らせる重要な役目を担っていた。


「あなたが、噂の領主様ですか」


 早馬に跨ろうとした俺に、部隊のシーフの一人が声をかけてきた。

 小柄で、落ち着いた栗色の髪をした可愛らしい見た目の少女。だが、その立ち姿には一切の隙がなく、気配の消し方は尋常ではない。


「第1区の大型パーティから引き抜かれてきた、ビーナです。A級のシーフをやらせてもらってます。……雇い主の護衛任務だなんて聞いてませんでしたが、しっかりお仕事はさせていただきますよ」


 彼女は淡々とした口調で挨拶をした。

 これから俺の現場でのサポート役となる人材だが、忠誠心で動くサーシャたちとは違い、完全なビジネスライクの距離感だ。だが、今はその冷めたプロ意識がありがたい。


「頼むぞ、ビーナ。俺たち情報部隊の目が、この戦争の勝敗を分ける」


「ええ、分かっています。出発しましょう」


          ◇


 俺たちは早馬を駆けさせ、半日かけて目的の待機場所へと到着した。

 そこは、南の山を越えた先にある深い森の中だ。

 ここからさらに南へ進むと、木がまばらなサバンナ地帯が広がっている。サバンナでは隠れる場所が少なく、敵の大軍にすぐ見つかってしまうため、この森のふちがギリギリの監視ラインとなる。


「……静かなものですね」


 ビーナが周囲の気配を探りながら呟いた。


「ああ。だが、嵐の前の静けさだ」


 俺たちは、事前に工作部隊が作ってあった地下の隠れ家へと馬を引き入れ、身を潜めた。


 暗く冷たい土の匂いが充満する中、20名の精鋭たちは無言で武器の手入れをし、来るべき時に備えて魔力を練っている。緊張感が肌を刺すようだ。


「ビーナ、敵の現在位置は」


「斥候の報告では、予定通りこちらへ真っ直ぐ向かってきています。……敵の到着まで、残り丸1日といったところでしょう」


 ビーナが冷静に答え、水筒の水を一口飲んだ。  彼女との距離感はまだあるが、その的確な状況判断能力は、俺のロジックと非常に相性が良い。


「よし。各員、休息を取れ。明日から、一睡もできない情報戦が始まるぞ」


 俺の指示に、部隊の面々が小さく頷いた。


 南のサバンナの向こうから、何万という軍靴の響きが確実に近づいている。  バールの運命を決める戦いの火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。


お読みいただきありがとうございます。

いよいよ戦争の足音が迫り、バール全軍が緊張に包まれる第35話でした。 最終防衛ラインを任されたサーシャの葛藤。「この街は俺一人よりも大事なんだ」というルイの言葉に、彼女も覚悟を決めました。

そして、ルイ自身も傍観者ではなく、最前線の「情報部隊」として戦場へ出ます。 ここで新キャラクター、A級シーフの「ビーナ」が登場しました。可愛らしい見た目に反して隙のないプロフェッショナルです。彼女はヒロイン枠ではなく、ルイの優秀なビジネスパートナー(現場サポート役)として、これから少しずつ信頼関係を築いていくことになります。

敵の到着まで、残り1日。 森の隠れ家で息を潜めるルイたち情報部隊の運命は――。


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