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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第35話:2区 内戦勃発

 新庁舎の最上階、豪華な応接室。  俺はソファに深く腰掛け、向かいに座るフードを被った男たちの話を、無表情で聞き流していた。

「……我々からの要求は以上だ。大陸の均衡を崩すような真似は慎み、サクレアとの戦争は是が非でも『回避』せよ。バール領主よ、賢明な判断を期待する」

 彼らは、大陸の裏側で暗躍し、絶大な影響力を持つ『竜人国』からの使者だった。  彼らの目的は、四年周期の儀式を滞りなく行うための「パワーバランスの維持」だ。だからこそ、バールと同じ第2区の南部に位置するサクレア都市との武力衝突を止めようと、ことあるごとにこうして人をよこしてくる。

(……当たり前の理想論を押し付けてくる。厄介な連中だ)

 俺は内心でため息をついた。  戦争を避けられるものなら、とうに避けている。だが、向こうが狂ったように軍拡を進め、バールへと続く街道を封鎖している以上、こちらに選択権はない。影響力が大きいのは厄介だが、現場の状況ファクトを無視したお節介は、コンサルタントとして最も嫌う部類の無駄だった。

 俺が適当な外交辞令で追い返そうとした、その時だった。

 バンッ!!

 応接室の重い扉が乱暴に開かれ、青ざめた顔の伝令役が飛び込んできた。

「ルイ様! き、緊急の連絡、よろしいでしょうか!」

「なんだ」

 俺は使者たちに一瞥をくれ、席を立って隣の控室へと移動した。  伝令の男は息を切らしながら、震える声で報告した。

「サ、サクレア軍が……今朝の早朝、サクレアの街を出てこちらへ向かって進軍を開始したとの情報が入りました!!」

「……なんだと」

「サクレアの誇る巨大な傭兵軍勢です! バールに辿り着くまで、長くて数日……。早急に迎撃の準備を!」

 ついに、来たか。  俺は小さく息を吐き、思考を完全に【戦時エマージェンシーモード】へと切り替えた。

          ◇

 ただちに緊急会議が招集された。  軍事局長のサラ、各部隊の将軍たち、インフラ担当のヴェスタ、経済局長のモネ、そして宰相のマティアス。バールの中枢を担うトップたちが、巨大な円卓を囲んでいた。

 会議室は、かつてないほどの怒号と混乱に包まれていた。

「だから戦争なんてクソなんだ! 俺たちが血反吐を吐いて作った街を戦火に巻き込む気か!?」 「ヴェスタ、泣き言を言うな! モネ、防衛ラインを押し上げて『先行攻撃』を仕掛けるべきだわ。敵に主導権を握らせるな!」 「先行攻撃の物資リソースはどうするのよ! 防衛用の資金でカツカツなのに、お金足りるの!?」 「負傷者はどれくらい出る!? 病院のベッドの空きは!」 「サクレアが動いた隙を突いて、北から王宮の正規軍が攻めてくる可能性は!?」

 次から次へと飛び交う懸念事項。皆、街を愛するが故の焦りから、感情的になっていた。  俺は立ち上がり、手元にあった分厚い資料の束を、円卓の中央に力強く叩きつけた。

 その一撃で、会議室は水を打ったように静まり返った。

「おい。落ち着け。騒いでも一文の得にもならないぞ」

 俺の氷のように冷たく、絶対的な自信に満ちた声に、局長たちはハッとして姿勢を正した。

「……はい、申し訳ありません」

「現状の整理ファクトベースから始める」

 俺は黒板の前に立ち、チョークを握った。

「まず、王都からの挟撃の懸念について。先月、第1区と結んだ『安全保障同盟』に基づき、すでにボラス卿へ援軍要請の早馬を出した。第1区の4万の軍が北の領境で睨みを効かせている以上、王都は絶対に動けない。敵は南のサクレアのみだ」

 マティアスが深く頷く。外交による事前の布石が、ここで最大の防壁として機能した。

「軍の準備はどうなっている、サラ」

「……ええ。バール軍4300名、いつでも動けるわ」

 サラが将軍としての顔を引き締め、即答する。

「よし。作戦ストラテジーを指示する」

 俺はバール周辺の地図に、サクレアから続く『南の山』を丸で囲んだ。

「街の壁に引きこもって受けるだけでは、街に被害が出る。  サラ、軍の先発隊を率いて、サクレア軍が『南の山を登り始める前』の斜面に陣取れ。敵が山を登ろうと密集したところを、上からのマスケット銃の斉射と、魔術支援部隊の範囲魔法で徹底的に叩け」

「……なるほど。高所からの物理と魔法の十字砲火ね」

「そうだ。だが、完全に殲滅しようとするな。敵が死に物狂いで距離を詰めてきたら、迷わず退避しろ。  そして、敵の軍勢をバール郊外の平野まで誘い込む。そこには、ヴェスタの作ったタワーに配備された『大砲』と、軍の本隊が待ち構えている。……二段構えの迎撃網で、敵を完全にすり潰す」

「分かったわ。詳細な部隊の配置と退避のタイミングは、私と将軍たちで詰めておく」

 作戦の骨子が固まり、場に論理的な空気が戻ってきた。

「モネ、経済への打撃はどうだ」

「緊急資金はすでに引き出せる状態にあるわ。工場にも、銃弾と大砲の弾薬の『増産体制』を敷くよう手配済みよ。……でも、一つ懸念があるわ」

 モネが眉をひそめた。

「戦争が起きれば、自由貿易区に集まっていた他国の商人が一斉に逃げ出す可能性がある。物流が止まれば、バール経済に致命的な影響が及ぶわよ」

「それは未知数リスクだな。だが、パニックだけは防ぐ必要がある。  ヤンダルの新聞社に指示を出し、『バールの防衛網は完璧であり、街の内部に被害は及ばない』という公式声明を大々的に発表させろ。安心感の担保が、最大の経済対策になる」

「了解よ。すぐに原稿を書かせるわ」

 その後も、俺たちは一つ一つの課題タスクを、感情を排したロジックで徹底的に処理していった。  パニックは消え去り、バールという巨大な機械が、戦争に向けて完璧に噛み合い始めた。

          ◇

 深夜。  会議を終えた俺は、冷たい夜風を浴びるため、屋敷の屋上へと足を運んでいた。

 南の暗闇の向こう。あそこに、何万という敵兵が殺意を持ってこちらへ向かっている。

「……忙しいわね、私たち」

 背後から声がした。振り返ると、軍装のままのサラが立っていた。  彼女は俺の隣に並び、手すりに寄りかかって同じように南の空を見つめた。

「ああ。スラムの掃除から始まって、ここまで休む暇もなかったな」

「そうね。……今まで、ありがとう」

 不意に、サラが優しく、どこか寂しげな声で言った。

「なんだよ。まるで遺言みたいだな。お前は死ぬなよ」

「ふふっ、そういうことじゃないわよ。絶対死なないし」

 サラは夜風に金糸の髪を揺らしながら、小さく笑った。

「ただね……この戦争が終わっても、平和になるわけじゃない。王都との対立は本格化するし、竜人国の使者にも逆らったわけだから、これからもっともっと大変になるわよね」

「……ああ」

「バールも、私たちが想像した以上に大きくなりすぎた。これからは各局の裁量権も大きくなって、組織として動くようになる。……ルイ一人が全部を回す段階はもう終わって、あんたは雲の上のトップとして、今までみたいに私たちと現場で馬鹿やれる時間なんて無くなっちゃうんだろうなって」

 組織の拡大スケールアップ。  それはコンサルタントとして正しい成長軌道だが、同時に、創業期の仲間たちとの距離が物理的に離れていくことを意味していた。

「……ルイは、本当にいいやつだよね」

 サラが俺の顔を見上げ、真っ直ぐな瞳で言った。

「冷たいふりして、口が悪くて、いつもお金と効率ばっかり言ってるけど……本当はいつも、ヴェスタやモネや、街の皆のことを一番に考えてる。だから私、あんたの背中についてきたんだよ」

「……お前もな。お前が軍をまとめ上げてくれたから、俺の盤面は成り立った」

「うん。……ありがとう」

 静かな夜の屋上に、ふたりの間の穏やかな時間が流れる。  ――その時だった。

「ちょっとおおおおっ! 二人で何してるんですか!!」

 バンッ!!と屋上の扉を蹴り開けて、秘書のサーシャが鬼の形相で飛び出してきた。

「さ、サーシャ?」

「こんな決戦の前夜に、屋上で二人きりで良い雰囲気とか、抜け駆けは許しませんからね!?」

「なっ……ぬ、抜け駆けって何よ! 私はただ軍事の最終確認を――」

「顔が赤いですよサラ様! もう、軍事局長は早く寝て明日に備えてください!」

 サーシャに背中を押され、サラは「わ、分かったわよ! また明日ね、ルイ!」と慌てて屋上から逃げるように降りていった。

 嵐が去った後、屋上には俺とサーシャの二人だけが残された。  サーシャは肩で息をしていたが、やがてクルリと俺の方を向き、もじもじと指先を弄り始めた。

「……あの、ルイ様」

「なんだ」

「サラ様の言う通り、今回の戦争が終わったら……バールはもっと巨大になって、ルイ様は今よりずっと、ずっとお忙しくなりますよね」

「そうなるだろうな」

「だったら……!」

 サーシャは顔を真っ赤に染め、俺の服の袖をギュッと強く握りしめた。

「ルイ様が、忙しすぎて手が届かないくらい遠くに行っちゃう前に……私と、どこかにお出かけしてくれませんか? 護衛とか秘書とかじゃなくて……その、ふ、二人だけで……っ!」

 それは、告白の一歩手前。  この数年間、俺の隣で一番の無理難題に応え続けてくれた、健気な少女からの必死の約束だった。

「……ああ。約束しよう」

 俺は彼女の頭にポンと手を置き、静かに微笑んだ。

「全部終わらせて、必ず生きて帰ってくる」

 南から迫る暗雲。  だが、守るべきものと果たすべき約束を得たバール軍に、敗北の二文字は存在しなかった。


お読みいただきありがとうございます。

ついにサクレア軍が進軍を開始しました。 混乱する作戦会議を「バンッ!」と一喝し、ロジックで制圧するルイの姿は、まさにトップコンサルタントの真骨頂ですね。 事前の第1区との同盟がここで王都への強力な牽制として機能し、地の利と新兵器を活かした「山での遅滞防御からの、平地での大砲陣地」という二段構えの作戦が決定しました。

そして、決戦前夜のエモい屋上イベント。 「平和になる」からではなく、「組織が大きくなりすぎて、ルイが遠い存在になってしまう」という、発展しすぎたベンチャー企業のようなリアルな寂しさを語るサラ。 そして、だからこそ「手が届かなくなる前に一緒にお出かけしたい」と約束を取り付けるサーシャ。

恋愛フラグと死亡フラグが乱立していますが、ルイならこんなジンクス、圧倒的な火力で叩き折ってくれるはずです!

次回、ついにサクレア軍と激突。 マスケット銃の火線が、ファンタジー世界の常識を粉砕します。

「ルイの一喝かっこいい!」「忙しくなる寂しさ、なんかリアル!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

次回も【明日19時】に更新します!



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