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追放された第三王子は、統治スキル【国家盤面】で 腐った領地を数値で立て直す ~前世は「死神」と呼ばれた再建コンサルタント~  作者: 四角いりんご
第2章:歪んだ成長と、見えざる檻 ~産業革命の光と影、そして世界の違和感~

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第34話:圧倒的な発展と史上最大の安全保障同盟

 新兵器である『マスケット銃』の導入は、当初は軍の最高機密として扱われていた。  だが、数百人規模での射撃訓練を行えば、その凄まじい轟音と立ち上る白煙を完全に隠し通すことなど不可能だ。瞬く間に「バールの軍が恐ろしい魔法の筒を使っている」という噂が市街に広まってしまった。

 未知の兵器に対する市民のパニックを防ぎ、同時に他国への牽制とするため、俺はヤンダルが立ち上げた大衆紙に『公式の声明文』を出させた。 「バール軍、最新の自衛用魔導具を配備。都市の防衛力は盤石へ」という見出しで、あくまで防衛のための技術であることを強調し、変な尾ひれがつく前に情報をコントロールしたのだ。

 現在のバールの状況ステータスを客観的なデータとして整理すると、以下のようになる。

【都市バール:最新ステータス】 ・人口:約5万5000人(うち正規軍4300名) ・財政:黒字(ただし、サクレアからのサトウキビ輸入停止により主要加工業が打撃中) ・特産:砂糖菓子、レンガ、ゴム製品、製鉄、鉄工業、武器製造、出版 ・軍事力:Aマイナス(武装の質は周辺国と数十年の技術格差があるが、絶対的な動員数ではまだ劣る) ・危険度:S(王都およびサクレアからの明白な敵視状態)

 経済も技術も飛躍的に発展しているが、迫り来る戦争の影は確実に濃くなっている。  そんな折、北の巨大領地である「第1区」から、突然の使者が訪れるという連絡が入った。

 使者の名は、ボラス卿。  俺がこの街の改革を始めた初期、深刻な食糧難に陥った際に、緊急の小麦輸入の交渉に応じてくれた恩人だ。気難しいが、合理的で筋の通る話ができる、第1区の重鎮である。

 前回彼がバールを訪れた時は、余計な警戒を抱かせないため、あえて見栄を張らず質素な対応をした。  だが、今は違う。王都やサクレアと一触即発の状況にある今、逆に『バールはこれほど発展しており、我々に戦争を仕掛けるのは割に合わない(ヤバい)』と、世界に向けて強烈に発信し、抑止力を見せつけなければならないフェーズなのだ。

 俺はボラス卿の到着を見越し、徹底した『歓迎という名の軍事パレード』を準備した。  彼らが通る沿道には、黒光りするマスケット銃を構えた兵士たちを等間隔に整列させた。さらに国境付近からバール中心部への移動には、馬車ではなく完成したばかりの『蒸気機関車(鉄道)』の特別車両を用意した。  そして会談の場には、かつてのボロボロの部屋ではなく、最新の建築技術の粋を集めた新庁舎の、最も豪華なVIP用会議室を用いた。

「……信じられん。私がしばらく前に来た時とは、完全に見間違えますねぇ。まさか、街がこれほどまでに変貌しているとは」

 案内されて会議室に入ってきたボラス卿と従者たちは、完全に度肝を抜かれていた。  銃という未知の兵器、鉄の塊が自走する鉄道、そして見上げるような高層ビル群。俺たちが意図した通りの『文明レベルの違い』を、彼らは肌で感じ取ったはずだ。

          ◇

 革張りのソファに座り、運ばれてきた高級な紅茶を一口飲んでから、ボラス卿は愛想笑いを浮かべた。

「いやはや、ルイ殿の統治手腕には恐れ入る。第1区もそれなりに発展している自負はありましたが、バールの活気には――」

「ボラス卿。お久しぶりでございますが、世間話はそこそこに、本題に入りましょう」

 ボラス卿の挨拶を、俺の隣に座っていた経済局長のモネがピシャリと遮った。  現在のバールは年度末の決算期。金庫番である彼女は一年で最も忙しく、一秒たりとも時間を無駄にしたくないのだ。

 モネの容赦ない切り込みに、ボラス卿は一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を重々しいものに変えた。

「……相変わらず、合理的な方々だ。結構。では単刀直入に申し上げます。第1区のさらなる発展のため、バールの『技術協力』をお願いしたい。具体的には……先ほど我々が乗せていただいた『鉄道』を、我が領地にも敷設していただきたいのです」

「なるほど」

 俺は腕を組んだ。  大量の物資と人員を、天候に左右されず高速で運べる鉄道。そのインフラがもたらす莫大な経済効果を、ボラス卿は一目で見抜いたのだ。

「理由は二つあります」

 ボラス卿が指を立てる。

「一つは物流の限界です。第1区は広大ですが、現在は水運(川)に頼りきっています。しかし、主要な水路はあなた方の第2区や、王都を経由せざるを得ない。特に、新王が即位して以来、王都の情勢は非常に不安定です。我々は、他領の機嫌に左右されない『独自の安全な陸上物流ルート』を構築しなければならないのです」

「……王都のいざこざが、そちらにも波及していると」

「ええ。それに、王宮の混乱を嗅ぎつけて、北の獣人国の国境侵犯も最近ひどくなっていましてね。軍を迅速に動かすためにも、鉄道が必要なのです。  ……もちろん、ただとは言いません。技術協力のお返しに、我が第1区からバールへ『格安での小麦の輸出』をお約束しましょう。以前のように」

 ボラス卿は自信ありげに切り札を切った。  しかし、俺とモネは顔を見合わせ、同時に小さく首を振った。

「お言葉ですが、ボラス卿」

 モネが冷ややかに微笑む。

「バールはこの2年間で、大規模な農業改革と農地開拓を進めました。現在、我が領内の食糧自給率はすでに100パーセントを超えています。もはや、小麦は交渉の切り札にはなりませんよ」

「なっ……あれほどの人口増を、自国で賄っていると!?」

「ええ。ですから、鉄道を欲しければ『現金ゴールド』を積んでいただきます」

「……分かりました。鉄道建設の費用は、言い値で全額お支払いしましょう」

「それだけでも足りませんね」

 モネの容赦ない追撃に、ボラス卿は絶句した。  当たり前だ。鉄道インフラという国家の血流を根本から変える技術を、ただの金と引き換えに渡すわけにはいかない。

 ボラス卿は深く息を吐き、やがて、覚悟を決めたような鋭い眼光を俺に向けた。

「……ならば、ルイ殿。『軍事同盟』を結びましょう」

 その言葉に、俺は眉をピクリと動かした。

「現在の王宮は、新王と官僚の暴走で不安定すぎます。もし彼らが狂って周辺国に牙を剥いた場合、あるいは王宮そのものが崩壊した場合、強力な同盟国の存在が不可欠です。  我が第1区は、総勢『4万』の精鋭軍を擁し、経済規模も大陸最大級です。もしバールが何者か(王都やサクレア)から攻撃を受けた場合、第1区は必ず、全力で軍事支援を行う。……この『安全保障同盟』で、いかがですか」

(……これは、とてつもなくデカいぞ)

 俺の脳内で、国家盤面ボードの勢力図が一気に塗り替えられた。  バールの技術と経済力に、第1区の『4万の圧倒的な武力』が加わる。これが成立すれば、王都でさえ迂闊には手を出せなくなる最強の抑止力となる。

「……悪くない提案です。詳細を詰めましょう」

 俺は前のめりになり、条件を提示した。

「鉄道の敷設ルートは、第1区の第一都市から第二都市レタンダまでの区間とします。  建設の総指揮と工事は、我がバールのインフラ責任者であるヴェスタの部下たちが直接出向いて行います。期間はおよそ6ヶ月。建設費用は、総額『金貨3000枚(約30億円)』とします」

「金貨3000枚……! 我が領の国家予算の数ヶ月分ですが……よろしい、呑みましょう。支払いは頭金として金貨500枚、残りは完成までの毎月の分割払いでいかがか」

「構いません。……ただし、一つだけ絶対条件ブラックボックスがあります」

 俺はボラス卿の目を真っ直ぐに見据えた。

「鉄道の心臓部である『蒸気機関』の製造技術は、一切共有しません。  機関車本体はすべてバール国内の工場で製造し、完成品だけを第1区へ輸出します。メンテナンスも我々の技術者が専属で行う。これを呑めないなら、交渉は決裂です」

 技術の中核コアを握ったまま、インフラだけを売りつける。  これがコンサルタント流の、絶対に主導権を渡さない技術輸出の基本だ。これをすれば、第1区は永遠にバールの技術に依存し続けることになる。

 ボラス卿は数秒間の沈黙の後、重々しく頷いた。

「……承知いたしました。バールが我が国の『足』を握る代わりに、我々がバールの『盾』となる。互いの首に剣を突きつけ合う、実に合理的な同盟だ」

 こうして、契約書に互いのサインが刻まれた。

 圧倒的なインフラ輸出による莫大な利益と、第1区という大陸最大級の軍事国家との安全保障同盟。  これは間違いなく、バール史上最大の、そしてこの世界の勢力図を根底から覆す歴史的な同盟の瞬間であった。


お読みいただきありがとうございます。

マスケット銃の「三段撃ち」の轟音を大衆紙でコントロールしつつ、訪れた第1区の使者ボラス卿への「抑止力の誇示」。軍事パレードと鉄道乗車による文明の暴力で、完全に相手の度肝を抜きました。

そして、モネの容赦ない交渉(年度末で忙しいので)からの、第1区との「軍事同盟」の締結! 4万人の精鋭軍を味方につけたことは、王都やサクレアに対する最大の牽制になります。さらに「蒸気機関の技術は渡さず、完成品だけを売る」というブラックボックス化で、第1区を完全にバールのインフラ依存にさせるルイのエグい契約も光りました。

次回、巨大な同盟を結んだバールに、ついにサクレアから不穏な動きが……?

「年度末のモネさん怖い(笑)」「技術を渡さないの、さすがコンサル!」と思っていただけましたら、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると嬉しいです!

次回も【明日19時】に更新します!


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